優しい声(男女兼用 10分)【一人芝居脚本】

一人芝居

〈あらすじ〉

人は生まれ変わり、全てを忘れる。そんなお話。

〈登場人物〉

人間

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気が付いた時には真っ白な世界で

思わず目を閉じました

多分、まぶしかったんだと思います

私は泣きじゃくりました

悲しい涙でもなく

嬉しい涙でもない

自分でも良くわからないまま、泣いた

一生分の涙を流し、それが海になる

空っぽになりそうな感覚の中

懸命に沈んでいるものをかき混ぜたんです

すると、ちゃんとありました

高校時代の友人、ご近所さん、家族のこと

良かった

混ぜれば混ぜるほど鮮明になって

心が落ち着きました

目を開けるとそこは真っ暗で

静かで

張り詰めた空間

とてつもなく広い

宇宙が広がっていた

なぜだろう

段々心地よくなる

あたたかく、揺れる

手足を動かしてみる

曲げたり、伸ばしたり

とっても楽しいんです

飽きるまで続けました

   音が聞こえる

何の音だろう

そういえばずっと響いていた気もする

心を揺らす、不思議な音

懐かしい思い出

聞いていると何だか眠くなる

眠くなる

怖い

眠るのはちょっと怖いです

大事なことを忘れてしまいそうな

ご近所さんのこと、家族のこと

大丈夫、しっかり覚えてる

真っ暗の向こうがうごめく

ぐるぐる ぐるぐる

涙の海が波になり

私も揺れる

ぐるぐるに向かって手を伸ばしましたが

全然届きません

少し残念な気持ちになりました

   泳ぐ

波が気持ちよくて、ちょっと泳いでみました

手と足を頑張って動かすのは、やっぱり楽しい

泳いでいるうちに、海の底がどっちにあるのか分からなくなりました

潜っても 潜っても 底が見えない

ちょっとした冒険

   何かの音が気になる

最近、色んな音が気になります

眠たくなる音とは別の、何か

日に日に鮮明になります

真っ暗の向こうで、誰かが話している

毎日聞こえる、優しい声

とても好きな声

   童謡を口ずさむ

   その最中、もう一つの声を感じる

まただ

時々聞こえる声

あまり好きではない声

あなたの声は聞きたくない

そうか、きっとオオカミがやってきたんだ

誰か助けて

   勢いよく何かが流れる音がする

逃げて

早く逃げて

怖い

流される

苦しい

   強い衝撃を感じる

強い衝撃を感じました

一瞬頭が真っ白になる

大事なことを忘れそうになりました

けど大丈夫

家族のこと

ほら、ちゃんと残ってる

良かった

そう、私には家族がいた

大切な、大切な

生まれ変わったら、どんな人生が始まるのだろう

また、巡り合えるだろうか

もし、たった一つわがままが許されるのなら

神様

どうか家族の記憶だけは奪わないでください

お願いします

   強い光を感じ、目を閉じる

   突然泣き出す

   徐々に我に帰っていく

   目を開く  

気が付いた時には真っ白な世界で

思わず目を閉じました

多分、まぶしかったんだと思います

大事なことを忘れそうになりました

優しい声の、あの人

大丈夫、覚えていた

   終

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