赤を切るか、青を切るか(男 10分)【一人芝居脚本】

一人芝居

<あらすじ>

爆発物処理班である男の手には時限爆弾。残されたコードは赤と紫の二本。どちらかを切れば助かる。しかし、今までの人生、すべてにおいて二択を外してきた男は迷っていた。不運の男、運命やいかに。

<登場人物>

男 爆発物処理班

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   男、時限爆弾の処理をしながら語る

時限爆弾の作りは非常にシンプルで、タイマー、点火装置、火薬で構成されています

タイマーから一定時間後に信号を送り、点火装置を起動。火薬を爆発させるだけ

いくつか線がありますが「切ってはいけない線」にさえ気を付ければ、案外どこを切っても大丈夫

ちなみに「切ってはいけない線」とは、タイマーに電源を供給する線のこと

その線を切ると回路の制御ができなくなり、出力端子が平常時に閉じているタイプでは点火装置に出力が入ってしまう可能性がある

   客席に問いかける

ちなみに

切ってはいけない線、どれか分かります?

   反応はない

なるほど

意外と単純かもしれませんよ

思い切って答えてみてください

   反応はない

…誰かわかりますかね?

あの~良いんですよ、間違えたって

いや、間違ったら困るんだけど、だって死ぬし

   焦る

…なるほど

ヒントを出しましょうか

この線と、この線が残ったんで、どっちかですよね~

そうだそうだ、どっちかに決まってる!

どっちかを切ったら、助かるんです!

さぁ、どっち!!

   呼吸が荒くなる

誰かぁ、誰かぁ…

教えてくれませんか…

ぜんぜん分かんないよ

ぜんぜん分かんないよー

ぜんぜん分かんないんだもん

死にたくないよー

   赤い線と、紫の線が残っている

ちくしょう

残るは赤い線、紫の線…いや、紫ってなに

「赤を切るか、青を切るか」ってのはドラマで観たりする状況ですよね

いや だから紫ってなによ

あーーくそーイラつくわーー

なんなんだよ、紫って

紫なんて嫌いだーーー

ん?まてよ、何も線を切ることにこだわらなくてもいいんだよな

探せ、探せ、頑張れ俺

爆発物処理班の意地を見せろ

せっかく夢が叶ってこの仕事をしているんだ

こんなところで死んでたまるか

きっと他の方法がある…

   作業に戻る

   しばらく、何かぶつぶつしゃべっている

   突然客席に言葉を投げる

そういえば、紫って欲求不満の色だって知ってました?

どうやらそうらしいっすよ

赤って情熱の色じゃないですか、で、青は冷静な色

だから「情熱的にいきたいのに、一歩が出ない」とか「冷静にならなきゃいけないのに、自分を抑えられない」とか葛藤が生じるんですね

だからです、紫は欲求不満の色なんです

…あ、ほら、赤と青を混ぜると紫になるじゃないですか

だから最初に赤と青の話をしたんですけど…

あーーくそ!

これ先に言った方がスッと入ってきましたよね

失敗だ

失敗続きの人生だ

   しばらく、何かぶつぶつしゃべっている

   作業を続ける

ちなみに、時限爆弾にも色々なタイプがあるんです

タイマーが作動して電気雷管へ電気が送られて発火するタイプ

こいつは判りやすい

この場合はタイマーを壊すか切り離せばOK

常時オンのタイマーが作動して、オフになったときに発火するタイプ

この場合はタイマー切り離すとアウト

上手く止めるしかないね

タイマー側が繰り返し「待て」の信号を出しているタイプもある

「待て」が出ている間は、電気雷管側は「待つ」

「待て」「待つ」「待て」「待つ」の繰り返しだね

で、「待て」の信号が消えたとたんに「じゃあ、待つのやめるね、ボカン」となる

この場合タイマーを外しても 止めてもアウト

どうです

色んなタイプがあるでしょ

   間

いや、お前どのタイプだよーーー

まじ勘弁しろよ、殺すぞほんと

いや、死ぬのは僕のほうでしたーアハハハ

   肩を落とす

赤…紫…

結局どちらかを切るしかなさそうだ

俺、昔から2択に負け続けてきたんだよな

「そんな気がするだけだよ~」とか思いますよね

でも本当だからね、これ

試験問題も、2択までは絞れるんだよ

まぁ結局そこから間違うんですけど

見直しして、直すか直さないか…の2択も当然外します

あれも苦手です

ババ抜き

絶対引いちゃいます、ババ

相手の手札が沢山あれば2択じゃない?

確かにそうですね

でもこうやって、1枚だけ上にずらして持ったらどうですか?

   ジェスチャーで説明する

この、飛び出たカードを引くのか引かないのか…

ほら、2択になった。

結局、2択になった時点で僕の負けは決まるんです

2択になる前に勝負を決めなきゃいけない

この時限爆弾も、赤と紫、2択になったわけで

これはもうどちらを選んでも負け

多分、死ぬ

負け続けの人生

   回想シーン

   場面は公園

   女がベンチに座っている

   そこに男がやってくる

男「おっす」

   男、ベンチに座る

男「どうした?」

女「ううん。なんでもない。ごめんね、急に」

男「いいよ、嬉しかったし呼んでくれて。何かあった?」

女「ちょっとお話ししたくなって」

男「そうなんだ。それは何だか嬉しいな」

女「この公園、久しぶりじゃない?なんだか懐かしい」

男「そうだっけ?まぁ、確かに来たことはあるか。なんとなく覚えてる」

女「それ、覚えてないよ」

男「いや、確かに来たよ君と」

女「そうだよ、来たよ。けど、それじゃあ覚えていることにならない」

男「あ…あ、あれでしょ?覚えてるよ。ここで告白したんだもん。で、お付き合いが、始まった」

女「そうだね…覚えていてくれて、ありがとう」

男「あれからどのくらい経ったのかな。…4年?あっという間だったね」

女「そうだよ。人生なんてあっという間なんだから」

男「うん、確かにそうかもしれない。だから今頑張らないと」

女「…仕事?」

男「そう、じゃないと上司に推薦してもらえないから」

   重い空気

女「夢だったもんね、機動隊に入るのが。私は心配だけど」

男「ごめんね。その為に警察官になったから」

   重い空気

女「お父さん、反対してて。私に、別の人を紹介しようとしてる」

男「…そうなんだ」

女「…どうする?」

   回想、終わり

一瞬返事に迷った

彼女は27歳

普通ならまだ結婚していなくてもおかしくない年齢だ

でも、家が厳しいんです

結婚する素振りもなけりゃ、やろうとしている仕事も危険

そりゃあ反対もされます

彼女は何のために俺を呼び出した?

そんなの簡単だ、何言ってる

迷った時点で、2択にした時点で負けが決まったんだ

結果、どちらの答えを選ぶのかなんて関係ない

   時限爆弾を見つめる

くそ、なにやってんだ俺は

せっかく夢が叶ったのに

   長い間

   突然、紫のコードを切る

ハハハ、欲求不満を断ち切ってやったぜ

   間

みたことか、なんのことはない

ほら、やっぱりそうだ

爆発しないじゃないか

何が2択にした時点で負けだよ

そんなことないのに

そんなことないのに…

   男、崩れ落ちる

よし、決めた

決めたというか、考えることすらしなかった

よってこれは2択じゃない

そもそも2択なんて関係ないって分かったばかりじゃないか

考えるな

   

   携帯電話を取り出し、女に電話する

あ、ごめん、俺だけど

久し振り

うん

いや、ちょっと話がしたくて

   ピッピッピッという電子音が鳴り始める

あれからどうなったかなって

何がって、何

あれはあれだよ

そう

うん、気になってるよ

当たり前だろ

あのさ

…あのときはごめん

え、泣いてる?

なんで、なんで泣いてるの

やめてよ、こっちまで…

   ピーッという長い電子音が鳴る

   暗転

   終わり

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