アンテナショップ(女1 兼用1 10分)【演劇脚本】

短編(30分以内)

〈あらすじ〉

幸子はエンマ大王のアンテナショップに来ている。ここで死後の行き先を決めるのだ。当然、人気の天国行を希望すると思いきや、幸子は背後霊になることを希望する。その理由とは一体。そして、幸子は無事に(?)背後霊になれるのだろうか。

〈登場人物〉

幸子

店員

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   とあるお店の待合室

   幸子、隣に座っている客に声をかける

幸子「あの…何希望ですか?」

幸子「あーですよねー。やっぱり人気だ」

幸子「いや、私はハイゴ希望なんで」

幸子「やっぱり珍しいですかね?まぁでも、私はハイゴ一択」

幸子「…分かります?そうなんです。私、彼の傍にいたくて」

店員「13番でお待ちの方、お待たせいたしました」

幸子「はい、私です。…じゃあ呼ばれたので」

幸子「あの…選ばれるように、頑張ってくださいね」

   椅子から立ち上がり、店員の元へ進む

幸子「失礼します」

店員「はい」

幸子「13番、遠藤幸子…」

   幸子、笑う

店員「何か?」

幸子「すみません。何だかのど自慢みたいになっちゃったんで、楽しくなっちゃいました」

店員「ふざけてますね」

幸子「ふざけてないです。すみません。失礼します」

   幸子、椅子に座る

店員「改めまして」

幸子「はい」

店員「この度はご愁傷様でした」

幸子「はい…」

店員「それでは今から…」

   幸子、店員をまじまじと見る

店員「何か?」

幸子「あ、ごめんなさい。いや、あのですね…エンマ大王ですか?」

店員「いえ」

幸子「ですよね、違いますよね」

店員「はい」

幸子「そっかぁ、エンマ大王と話すわけじゃないんだ。…あれ?じゃああなたは?まさかコエンマ?って幽遊白書かよ~」

店員「違います」

幸子「はい」

店員「えっと…全世界で見れば、毎日大量の死者が出ますよね。だから、エンマ大王1人で全員の対応は無理なんですよ」

幸子「そこはファンタジー要素抜きなんですね」

店員「ファンタジー要素…」

幸子「そこだけやけにリアルなんだな~なんて。あ、すみません、だからこうやってアンテナショップがあるんですよね」

   店員、仕切りなおす

店員「ではまず最初に、自己PR出来ますか?」

幸子「特技でもいいですか?」

店員「いいですよ」

幸子「…えっと、高校時代バスケやってたんで…」

店員「はい」

幸子「ドリブルします」

店員「はい?」

   勿論ボールは無い

   エアーでドリブルを披露する

   表情は真剣だ

   ただただ、その場でドリブルを続ける

   ※店員が止めるまで続ける

   ※特技はドリブルでなくても可

店員「…以上ですか?」

幸子「餃子」

   最後の悪あがきとして、耳で餃子を作る

   ※餃子でなくても可

   店員の乾いた拍手が響く

店員「所属の希望は?」

幸子「ハイゴ希望です」

店員「天国じゃなくて?」

幸子「はい、天国じゃなくてハイゴです。背後霊」

店員「なぜ?」

幸子「やっぱそれ聞いちゃいます?」

店員「どうせ男でしょ」

幸子「あ…はい、そうです。一緒にいたい人がいまして」

店員「そうですか。契約内容はどうしましょう」

幸子「何かおススメのプランとかあるんですか?」

店員「そうですね。【初めての方でも安心、楽々サポートパック】なんてどうですか?」

幸子「ん~お得そうだけど…何かちょっと怪しいなぁ、縛りとかあるんじゃないですか?」

店員「こちらになります」

   リーフレットを見せる

幸子「50年縛り?微妙な所つきますね。それって、憑りついた相手が40年で死んじゃったら、後の10年はどうなるんですか?」

店員「そのまま地縛霊ですね~」

幸子「リスキーすぎる」

店員「今ならのりかえキャンペーンもついていますので、お得かと」

幸子「のりかえキャンペーン…なんだろう。ちょっと不謹慎っていうか…何となく響きが嫌です」

店員「ていうか、本当にハイゴで良いんですか?」

幸子「大変だって事は聞いてます。だから天国が人気なんですもんね」

店員「はい、圧倒的に」

幸子「実際どうなんですか?背後霊って大変ですか?」

店員「大変かどうかは分かりませんが、天国と背後霊だと、食事のことがだいぶ違うってのは事実ですね」

幸子「死んだ人も食事とるんですか?」

店員「は?じゃあ、逆に聞きますけど、人は何のためにお供え物をするんですかぁ?????」

幸子「なんか地雷踏んだ…」

幸子「…とりあえず、天国にいれば食事には困らないってことですね」

店員「はい」

幸子「ちなみに背後霊の場合は?」

店員「こんな感じです」

  リーフレットを見せる

幸子「へ~。憑りついていればいいんですか」

店員「そう。人の気をもらうんです」

幸子「それって、憑りつかれている人は大丈夫なんですか?」

店員「ちょっと肩が重くなるくらいです」

幸子「じゃあ、いっか」

店員「しつこいようですが本当にハイゴなんですよね」

幸子「意外と良いかもしれませんよ、ハイゴ」

店員「そうでしょうか」

幸子「店員さんは天国の人だろうし、多分わからないと思いますが」

店員「私、元ジバクです」

幸子「えーーー。店員さん元ジバクだったんですか?ハイゴより大変じゃないですか」

店員「まぁそういう見方もありますけど」

幸子「やっぱあれですか?天国が定員一杯で…」

店員「いや」

幸子「え、やば、最初からジバク希望だったんだ。かっこよすぎる」

店員「まぁ」

幸子「でも、なんでまた自分から望んで地縛霊になったんですか?」

店員「思い出の場所があって」

幸子「思い出の場所?」

   店員、写真を出す

幸子「なるほど、良い景色ですね。…あれ?一緒に写ってるの恋人さん?やだも~ヒューヒュー(幽霊のジェスチャー)」

店員「ちょっと」

幸子「すみません」

幸子「あの…やっぱあれですか?地縛霊の場合は、その土地から気をいただく感じですか?」

店員「そういうことですね」

幸子「やっぱり。良く出来たシステムだなぁ…」

店員「…」

幸子「ああ、システムとかじゃないですよね、すみません。ちなみに…その土地から離れたら、どうなるんですか?」

   店員、リーフレットを出す

店員「こんな感じです」

幸子「なるほど…体調が悪くなる」

店員「はい」

幸子「体調がねぇ」

店員「はい」

幸子「えっと、そもそも死んでるんですよね?」

店員「はい、死んでます。私、死んでます」

幸子「何で2回言った」

幸子「…じゃあとりあえず、私は彼に憑りついていればずっと生きられる…生きられる?まぁ、そういうことですね?」

店員「そうですね」

幸子「だとしたら、そんな幸せなことは無いです。それでお願いします」

店員「それというのは、背後霊、ですね?」

幸子「はい。背後霊で」

店員「分かりました」

   店員、書類を出そうとする

幸子「…そういえば、店員さんは元地縛霊ですよね?でも、今は天国の人になっている…」

店員「あ、気になっちゃう感じですか?」

幸子「気になります」

店員「騙されたんですよ」

幸子「騙された?誰に」

店員「霊媒師」

幸子「霊媒師…」

店員「え~この地に棲みつく霊よ、ここはそなたが居る場所では無い。そなたの居場所は天界にあるのだ…みたいな、あるじゃないですか」

幸子「あ~そういうのテレビで見たことある」

店員「でね、さらに(耳打ち)みたいな」

幸子「え?まじ?そんな甘い言葉で?うわーそれはついつい天国行きたくなっちゃうかも」

店員「ですよねー」

幸子「で、まんまと成仏しちゃったんだ~?」

   幸子、店員の肩に手を置く

幸子「やっちゃったね、店員さん」

店員「…ですね」

   店員、案外落ち込んでいる

幸子「あ、すみません…すみません」

店員「…」

幸子「…で、結局どうですか?背後霊、枠空いてますか?」

店員「そもそも枠という概念が無いです」

幸子「そっか、定員があるのは天国だけか」

幸子「ちなみに、天国行に選ばれるためのポイントってなんですか?

店員「それは企業秘密です」

幸子「いいじゃないですか~私はだってほら、天国には興味ないわけですし」

店員「…誰にも言いませんか?」

幸子「はい、誰にも言いません」

   店員、耳うち

幸子「やる気と、熱意…死者に何求めてるんですか」

店員「天国は自由で良いですよ。背後霊と違って」

幸子「確かに。背後霊も地縛霊も縛られているわけですから、自由はないですよね」

店員「はい」

幸子「でも、私は自由な意思で彼と居ることを選んだわけですから、これは私にとっての自由なんです」

店員「愛しているんですね。彼のこと」

幸子「はい。愛しています」

幸子「私、束縛が嫌いな女だったんです。体は離れていても、心が繋がっていれば十分だと思っていましたから。でも、彼は良く会いたがる人だったので、しょっちゅう喧嘩になって。あの頃は、とにかく自由が欲しかったんです。でも、実際にこうやって体を失ってみると…やっぱり心の繋がりだけじゃ寂しいですね」

店員「…」

幸子「その心の繋がりもいつまで続くのか。私はもう、彼に触れることも、話しかけることも出来ない。彼の心を繋ぎとめておく手段がないんです。だからせめて…私に自由の権利があるのだとしたら、彼の傍にいたい。私の事を忘れてしまうまでは…」

   店内、拍手に包まれる

幸子「あ、ありがとうございます」

店員「どうやら決心は固いみたいですね」

幸子「はい、心は決まっています」

店員「ではあちらの扉からどうぞ。手続きはもう終わっています」

幸子「あの扉ですか?あそこから出れば、和也のところにいけるんですか?」

店員「行けますよ」

幸子「わかりました。…じゃあ行きます」

   ゆっくりドアに進み、ドアをあける

店員「幸子さん」

幸子「はい」

店員「そこは、物置です」

幸子「すみません」

   終

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