〈あらすじ〉
「喧嘩をした二人が仲直り」「愛の告白が上手くいく」「大事なことを思い出させてくれる」などなど、何でも解決してくれる魔法のコーヒーが飲めるカフェ「青い鳥」。今日もとある悩みを持ったお客が来店する。果たして、今回の問題もコーヒーの魔法で解決できるのだろうか。
〈登場人物〉
町田さくら(大学生)
水島レイコ(女優)
桐谷哲也(カフェオーナー)
※店内の客がいても良い
【注意】本作品はオリジナルミュージカルです。上演される場合は、音源の提供もできる可能性があります。まずはご相談下さい。
ここはカフェ「青い鳥」
カウンターとテーブルがある
★M1「ようこそお客様」
桐谷のソロ
♪前奏
セリフ(こんにちは、いらっしゃいませ。ようこそカフェ青い鳥へ。世界に星の数ほどある喫茶店の中から、当店をお選びいただき、ご指名いただき、足を運んでいただき、誠に光栄かつ運命的なものを…いや、きっとこれは運命なのでしょう。…音のなる電子機器の電源はお切りになりましたでしょうか、マナーモードの場合はバイブレーション機能もお切りくださいね。お手洗いはお済みでしょうか?とはいえもう行く時間はありません。なぜならお客様たちは既に物語の中ですからね)
♪チャン(音が入る)
(…さて、ご注文はお決まりですか?)
♪伝説のカフェ そう呼ばれるけれど
伝説なんてない ここはただのカフェ
おすすめは もちろん
魔法のコーヒー
(どんな魔法かって?)
喧嘩をした2人が仲直り
愛の告白も上手くいく
大事なことを思い出させてくれる
(すごい効果でしょ?でも)
魔法なんてないのさ
僕はただ
同じ味、同じ香りのコーヒーを出し続けている
それだけ
心が揺れる カフェインの魔法
他に特別なものはない
もし伝説を信じるのなら お越しください
ようこそ青い鳥へ
(さぁ、今日はいったいどんなお客様にお会いできるでしょう。それではお楽しみください)
さくら、入店
桐谷「いらっしゃいませ。お1人様ですか?」
さくら「…そうですね」
桐谷「お好きな席にどうぞ」
さくら「はい」
さくら、テーブル席につく
しばらくメニューと格闘
さくら「あの」
桐谷「はい」
桐谷、さくらの元へ
桐谷「お決まりですか?」
さくら「コーヒー…」
桐谷「コーヒーですね」
さくら「いや、ここのコーヒーって…」
桐谷「はい」
さくら「やっぱりあれですか。ミルクで割ったりしたら、効果は薄れるものですか?」
桐谷「効果?」
さくら「いや、あの……」
桐谷「はい」
さくら「…………魔法」
桐谷「なるほど、お客様もその噂を聞いてきたんですね」
さくら「やっぱり、ただの噂なんですか?」
桐谷「まぁ、どうでしょう。お客様しだい…かもしれませんよ」
さくら「……」
桐谷「何かお悩みでも?」
さくら「まぁ、そんなところで」
桐谷「うちのコーヒーの魔法を信じるなら、飲んでみるのも良いかもしれませんね」
さくら「…………そうですね、お願いします」
桐谷「かしこまりました」
さくら「あの」
桐谷「はい」
さくら「やっぱり…カフェオレにしようかな」
桐谷「カフェオレですね。少々お待ちください」
桐谷、コーヒーを作りに戻る
さくら「あの」
桐谷「はい」
さくら「やっぱり…コーヒーで。すみません」
桐谷「いえいえ」
さくら「わたし、ダメなんです。基本的に優柔不断で」
桐谷「それだけ思慮深いってことですよ」
さくら「なんか、こう、逃げ癖があって。それでいつも後悔するんです。今もそう。…本当は苦手なんです。コーヒー」
桐谷「苦手なのに…大丈夫なんですか?」
さくら「はい、いいんです」
桐谷「そうですか」
桐谷、作業しながら話す
桐谷「後悔しないためには、全力で取り組むことです」
さくら「え?」
さくら「……全力で取り組んでも、失敗したら後悔しませんか?」
桐谷「全力でやって成功すれば自信になる。失敗しても経験になる」
さくら「なるほど」
桐谷「逆に全力でやらずに成功したら、どう?」
さくら「んー。ラッキーって思う」
桐谷「そう。単なるラッキーで終わってしまう。成長には繋がらない。じゃあ、全力でやらずに失敗したら…」
さくら「…それはきっと後悔する。そっか…全力を出してないから、逃げてるから後悔するのか」
桐谷「そう」
桐谷コーヒーを運ぶ
桐谷「あなたが何を悩んでいるのかわかりませんが、試しに全力でぶつかってみたらどうですか?…どうぞ」
桐谷コーヒーを出す
さくら「ありがとうございます」
レイコ、入店
桐谷「いらっしゃいませ。…(さくらに)ごゆっくりどうぞ」
レイコ「桐谷さん、お久しぶりです」
桐谷「レイコさんどうも。いつものね」
桐谷、コーヒーを淹れる
さくら「え?うそ、水島レイコ?」
桐谷「ご存知なんですね」
さくら「もちろんですよ、ドラマやってるし」
レイコ「ごきげんサマータイム」
さくら「いつも観てます」
レイコ「ありがと」
さくら「うわー………」
桐谷「ん?」
さくら「やっぱりありますね、オーラ」
桐谷「そりゃそうですよ」
レイコ「そう、だって私は…」
★M2「私は女優」
レイコ のソロ
♪18で子供を産んだの
相手の男は35歳
一流企業 イケメン 次男
でも すぐに捨ててやったわ
だって私は女優
いつでも刺激を求めているのよ
21で運命的な出会いをしたの
相手の男は25歳
映画俳優 イケメン 優男(やさお)
しかしその人 超マザコンだった
でも私は女優
そんな展開も素敵だと思ったわ
浮気に借金 水商売 何でもやったわ
だって私は女優
いつだってドラマティックに生きるの
それが私の幸せ
さくら「かっこいい」
桐谷、レイコにコーヒーを出す
桐谷「昔のレイコさんを見ている気分でしたよ」
レイコ「昔を思い出したくなってここに来たんですよ。ダメだった頃の自分」
桐谷「ダメだった頃?」
レイコ「実は、最近また仕事が増えてきて…」
桐谷「それは良いことですよ」
レイコ「ええ。でも、まわりからもてはやされるほど【大切なもの】を忘れてしまいそうで」
桐谷「大切なもの…」
レイコ「桐谷さんに教えてもらったんですよ。本当の幸せは、素朴で身近にあるもの。女優だからといって、特別な何かを求めなくてもいい…って」
桐谷「そんなキザなこと言った?」
レイコ「言いましたよ。一杯のコーヒーで幸せを感じられるような、そんな女優でいなさいって」
桐谷「何だか説教臭いね」
さくら「あの…ここ、良く来るんですか?」
レイコ「前に来たのは…3ヶ月くらい前かな?あなたは?」
さくら「私は、今日初めてきました」
レイコ「そう」
レイコ、コーヒーを一口
レイコ「お名前は?」
さくら「町田、さくらです」
レイコ「ふぅん」
レイコ、コーヒーを一口
レイコ「恋の悩み?」
さくら「え?何でわかるんですか?」
レイコ「だって、伝説のカフェだからね、ここ」
桐谷「レイコさん、何度も言うけど、うちには伝説なんてないよ」
レイコ「桐谷さんにその気が無くても、結果的に何組ものカップルが生まれてるじゃないですか。ここのコーヒーを飲んで」
さくら「やっぱりあるんですね」
桐谷「いや…オリジナルでこだわりのブレンドではあるけどね、ただそれだけですよ」
レイコ「さくらさん、ちょっと話してみてよ」
さくら「でも、そんな…」
レイコ「魔法のコーヒーなんかより、桐谷さんのアドバイスの方が効果あるかもよ。なんたって恋愛ドラマの脚本家ですから」
さくら「え?そうなんですか?」
桐谷「もう引退してますよ」
レイコ「どう?話す気になった?」
さくら「はい…ちょっと聞いてもらおうかな」
★M3「伝えたいのに」
さくらのソロ
♪クジャクは綺麗な羽を大きく広げる
ラッコは相手の鼻に噛みつく
そして一緒にプカプカ浮かぶの
カメレオンは身体の色を変えて自由にダンス
アカミミガメは相手にビンタするらしい
これが動物たちの愛情表現
動物たちは言葉が話せない
だから色んな工夫をして気持ちを伝えるのかな
私には無理…
自分を出すことがこわいの
桐谷「彼氏のこと?」
さくら「はい」
桐谷「なんで自分を出すのがこわいの?」
さくら「わからないんです。大好きってことも伝えられないし…メールも素っ気なくなっちゃうし…デートも誘えない…こわくて」
桐谷「それは、恋だね」
レイコ「…ん、うん」
さくら「それはそう、ですね」
桐谷「いや、そうじゃなくて。それは【愛】ではなくて【恋】だねってこと」
レイコ「愛と恋の違い…ってことか。ちょっと興味あります」
桐谷「それより…飲まないんですか?」
さくら「あ…はい」
さくら、コーヒーを1口
さくら「あれ?…美味しい」
レイコ「でしょ」
さくら「……」
桐谷「どうしたの?」
さくら「今日、一緒に来ようと思ってたんです。彼と」
桐谷「そうだったんだ」
さくら「でも、誘う勇気がなくて」
レイコ「えー、付き合ってるのに?」
桐谷「レイコさん」
レイコ「はぁい」
さくら「こんな美味しいコーヒー、2人で飲んだらもっと幸せな気持ちになったんだろうなぁ……って」
さくら、幸せそうな表情がハッと変わる。
さくら「ん?……今から呼べばいい。…ですよね、桐谷さん」
桐谷「お客様しだいです」
さくら「わたし、呼びます。このコーヒーを彼と飲みたい」
さくら、ケータイを手に持つ
さくら「…いいですか?」
桐谷「どうぞどうぞ」
さくら、彼に電話をかける
レイコ「ところで…桐谷さん」
桐谷「はい」
レイコ「さっきの話だけど」
桐谷「はい」
レイコ「愛と恋の違い」
桐谷「ああ、はい」
レイコ「桐谷さん的な答えって…」
さくら「だめだ、出ない」
さくら、電話を切る
桐谷「残念」
さくら「折り返しを待ちます」
桐谷「そうですね」
さくら、コーヒーを飲みながら待つ
レイコ「で、どうなんですか?愛と恋」
桐谷「まだ気になってるんですか」
レイコ「君の演技からは【愛】を感じない…って言われるんですよ。今やってるドラマの監督から」
桐谷「レイコさん、普通の恋愛経験少ないからね」
レイコ「それセクハラ」
桐谷「いや、レイコさんって憑依型でしよ、天才型ともいうかな」
レイコ「そんなこと…」
桐谷「だから、自分の中に無い感覚を表現するのが難しいんですよ。どうしてもダイレクトに出ちゃうから」
レイコ「そっか」
桐谷「僕みたいに小手先で見せるのが得意なタイプは、ある程度それなりに出来ちゃうんです。その代わり、深みは出ません。…そう、浅い演技しか出来なかった。だから役者はやめたんですよ」
レイコ「桐谷さん、コーヒーには深みが出てるのに」
桐谷「どうも…。その点、レイコさんの演技には深みがある」
レイコ「ありがとうございます。…深みかぁ。あ、ちなみに、コーヒーの深みってどうやって出すんですか?」
桐谷「深みを出すコツ、それは…」
★M4「コクを出すコツ」
桐谷&レイコ
桐谷 ♪コツコツ コツコツ
これが深みを出すコツ
レイコ それは演技の話?
桐谷 深みのあるコーヒーの話
レイコ コツコツ?
桐谷 そう コツコツ
桐谷 1度に沢山のお湯を注いではいけない
あくまで少しずつ 時間をかけて
色んな味わい 楽しめる
深~いコーヒー コツコツ
レイコ コツコツ?
桐谷 そう コツコツ
2人 1度に沢山のお湯を注いではいけない
ゆっくりゆっくり 愛情を込めて
色んな味わい 楽しめる
魔法のコーヒー コツコツ
桐谷(ちなみに、【深み】というのは【コク】とも言います)
2人 コクコク
なんとなく盛り上がる二人
桐谷「レイコさんの演技は、深みのあるコーヒーのように時間がかかるんですよ。焦ってはいけません」
レイコ「焦ったら、アメリカンになっちゃいますもんね」
桐谷「そう、そういうこと」
レイコ「ありがとうございます」
桐谷「レイコさんはまだまだ成長しますよ」
レイコ「頑張って頑張って、頑張り続けるんじゃなくて、ときどきここに来て、いつもと同じ香りのコーヒーを飲んで初心に帰る。…そのお陰で今があるのかも」
レイコ「もう一度、桐谷さんの演出で演じてみたいな…。やっぱりもう、やらないんですか?」
さくらのケータイが鳴る
さくら「もしもし。…今なにしてる?…そうなんだ。…あ、あ、いや、別に…なんでもないよ。うん、なんとなく。ごめん」
レイコ「(ウィスパーで)がんばんなさい~」
さくら「今、忙しいでしょ?…え?暇なの?…そっかぁ、暇なのかぁ」
レイコ「(ウィスパーで)チャンス、チャンスじゃん」
さくら「私は…今、外にいる。喫茶店」
桐谷、コーヒーのおかわりを注ぐ
さくら「え?」
桐谷「サービスです」
さくら「あ、ううん、なんでもない。…コーヒー飲んでる。…ううん、ブラック。…それがね、美味しいんだよ」
さくら、温かいコーヒーを飲む
1つ息を吐くとこわばった身体がほぐれる
さくら「…美味しい。…うん、美味しいよ。飲んでほしい。…うん、一緒に飲みたい。…今から来れる?……え?そんなに喜ぶ?…変なの。…うん、私も好きだよ。…待ってるね」
さくら、電話を切る
さくら「………言えた。…言えた?言えましたよね?」
桐谷「言えたね」
レイコ「言えた」
さくら「魔法かな」
レイコ「もちろん」
桐谷「魔法なんて無いですよ」
さくら「……私、今まで彼のこと信じていなかったのかもしれません。だから、断られるのが、嫌われるのが怖かった…のかな。今はそんな気がしてます」
桐谷「自分が愛を与えたのに、相手から返ってこない、それが怖い…と思ううちは、それは本当の愛とは言えないのかもしれませんね」
レイコ「あ…」
桐谷「本当の愛とは【見返りを求めないもの】だと私は考えています。だから、一方通行でも良いんです。それでも相手を想う気持ち。100%信じる気持ち。それがあれば人は強くなれます」
レイコ「信じる気持ち」
さくら「信じる気持ち」
桐谷「このコーヒーの魔法を信じることで、一歩前に進めましたよね。それが、信じる力」
レイコ「…見返りを求めないこと…信じることが本当の愛。…信じることで人は強くなれる」
さくら「…ということは…愛は人を強くする」
レイコ「あーあ、また桐谷さんに教えられちゃったなぁ~。お陰で、また女優として成長出来そうです」
さくら「私も。彼のことを信じられたことで、少し強くなれた気がします」
桐谷「いやいや、そんな…。それはきっとコーヒーの魔法、ですよ」
★M5「青い鳥」
桐谷 ♪心が動く 想いが伝わる
恋が実る そんな魔法の飲み物
それが飲める店
2人で飲めば効果抜群
心が動く 想いが伝わる
恋が実る そんな魔法のカフェ
伝説のお店
2人で来れば何でも解決
さくら コーヒーの香りに出会ったら
思い出して 大切なもの
レイコ 変わらない何かがきっとあるはず
全員 いつでも待っているよ
いつもの味と香りで待っているよ
伝説のカフェ「青い鳥」で
さくら、レイコ、はけ
桐谷「さくらさん、結局彼氏とはどうなったんでしょうね。…ああ、もちろん私は知っていますよ。実はね、あの後もいろいろとあったんですよ…おっと、それはまた、別のお話」
桐谷「皆さんも是非、カフェ青い鳥にご来店ください。いつ来ても同じ味、同じ香りのコーヒーでお出迎えいたします。…魔法?さて、それはどうなんでしょう。お客様次第、かもしれませんね」
桐谷「それでは閉店のお時間となりました。本日は誠に、ありがとうございました」
終わり



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