走れ、のんちゃん(男1 女1 15分)【演劇脚本】

短編(30分以内)

<あらすじ>

大学生カップルのヒカルと希実。大学卒業を前にプロポーズをしたヒカルは、希実からの返事を2ヶ月待っていた。とあるデートの帰り道、開かずの踏切で足止めされる二人。ヒカルは希実に、この踏切が開くまでにプロポーズの返事がほしいと伝えるのであった。

<登場人物>

水野ヒカル(みずの ひかる) 男 大学4年生

吹石希実(ふきいし のぞみ) 女 大学4年生

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   ヒカル、希実、踏切につかまっている

ヒカル「お腹減ってない?」

希実「大丈夫」

ヒカル「うん」

ヒカル「あ」

希実「なに」

ヒカル「さっきの映画、学割で観たじゃん」

希実「そうだけど…」

ヒカル「いや、もう学割使えなくなるのかって」

希実「急に思ったの?」

ヒカル「そう」

希実「へんなの」

ヒカル「いろいろ変わっちゃうね」

希実「いろいろって何」

ヒカル「いろいろ変わっちゃうじゃん、四月から」

希実「…まだ何か月かあるよ」

ヒカル「遠距離かぁ…」

希実「そうだね」

ヒカル「上手くいくかな」

希実「ヒカル次第かな」

ヒカル「え?のんちゃん次第だよ」

   希実、伏し目がちな笑顔

ヒカル「映画、どうだった?」

希実「感想?」

ヒカル「うん」

希実「面白かったかといわれると…」

ヒカル「ちょっと疑問だね」

希実「だよね」

ヒカル「良いものではある」

希実「そうなのかな」

ヒカル「多分」

希実「どの辺が?」

ヒカル「全体的に…」

希実「全体的に」

ヒカル「芸術作品って感じでさ」

希実「うん」

ヒカル「想像力を刺激された」

希実「想像力を」

ヒカル「うん」

希実「刺激されて何を描いたの?」

ヒカル「頭の中で?」

希実「うん」

ヒカル「…」

ヒカル「災害の恐怖…絶望感?人類の無力さと…」

希実「子どもアニメだよ」

ヒカル「佐々木先生の作品は子供向けじゃないよ」

希実「隣町のぽっぽちゃん、なのに?」

ヒカル「でも確かに、昔は子供でも楽しめる作品が多かったかも」

希実「天空の姫システィーナ、までは良かったな。そこからは何ていうのかな」

ヒカル「良くわかんなくなったよね」

希実「やっぱ分かってないんじゃん」

ヒカル「うん」

   希実、少し表情が和らぐ

ヒカル「クリスマス、今年はどうしようか」

希実「うん」

ヒカル「行きたいとこある?」

希実「うーん」

ヒカル「だいたい、行っちゃってるからね」

希実「確かに」

ヒカル「中二から付き合ってるんだもんなぁ」

希実「…そうだね」

   希実、体が強張る

ヒカル「この間の…」

希実「ヒカルってさ」

ヒカル「え?」

希実「バイト、もうやめたんだっけ?」

ヒカル「…なんで?」

希実「…」

ヒカル「一応年末までは入っているけど」

希実「…そっか。あれだよ、クリスマス、バイト入っちゃったりしないのかなって」

ヒカル「今年のクリスマスは入れないつもりだよ、流石に」

希実「そっか、そうだね」

   希実、1つ息を吐く

希実「来年からは、いよいよ工場の方に集中する感じ?」

ヒカル「そうなるかな。父さんはもう少し後で良いって言ってるけど」

希実「お、ついにやる気出てきた?」

ヒカル「微妙だよ。何かパッとしない仕事だし」

希実「そんなことないじゃん。大事な部品作ってるんでしょ?」

ヒカル「自動車に大事じゃない部品なんて無いけどね」

希実「…怒ってる?」

ヒカル「怒ってないよ」

ヒカル「まわりが就職活動に必死になる中、取り残されたような感覚だった」

希実「そっか」

ヒカル「それを思い出しちゃって、ごめん」

希実「いいよ」

ヒカル「のんちゃん、コント番組よく観るでしょ?」

希実「観る」

ヒカル「コントで時々見るシチュエーションでさ、すごーくニッチな部品を作ってる工場…みたいな設定あるじゃない。ファミレスの伝票入れる筒…みたいな」

希実「あーわかる。でも、それとはちょっと違うよ」

ヒカル「そうだけど、ちょっとバカにされた気分にはなる」

希実「気にし過ぎだと思うよ」

希実「本当は、何の仕事がしたいの?」

ヒカル「…分かんない。考えても意味ないし」

希実「…」

ヒカル「のんちゃんは凄いよね、夢叶っちゃうんだから」

希実「実業団に入ることが夢ではないよ」

ヒカル「そうだけどさ、着実に進んでる」

希実「もっと結果出せてたら、強豪チームに入れたと思うし。順調ではないよ」

ヒカル「これから強くなるかもよ。今注目されてるチームだし」

希実「東北初の女子チーム…ってだけだし、長距離競技はまだ全然結果出てないよ」

ヒカル「オリンピック、出られるといいね」

希実「いつか一緒に出ようねって、言ってたのにね」

ヒカル「中学生の時じゃん」

希実「そうだけど」

   間

   ヒカル、ため息をつく

希実「何?」

ヒカル「やっぱり、寂しいなぁ」

希実「ごめんね」

ヒカル「結婚のこと、考えてくれてる?」

希実「…考えてるよ」

ヒカル「怒ってる?」

希実「怒ってないよ」

ヒカル「そろそろ二か月経つからさ」

希実「うん」

   長い間

   ヒカル、静かに希実を見つめる

   希実、踏切のシグナルをじっと見つめる

   ヒカル、静かに一つ深呼吸をする

ヒカル「ここ、この辺では有名な開かずの踏切だよね」

希実「…?」

ヒカル「日本一長い踏切って、どのくらいだと思う?」

希実「分かんないよ」

ヒカル「58分なんだって」

希実「そうなんだ」

ヒカル「この踏切は何分なんだろうね」

希実「何の話?」

ヒカル「もう待てない」

希実「どうしたの」

ヒカル「返事もらおうかな」

希実「え?」

ヒカル「この踏切が開くまでに返事が欲しい」

希実「なにそれ」

ヒカル「もらえなかったら別れる」

希実「ちょっと待って」

ヒカル「もう散々待った」

希実「そんなこと言ったら私だって」

ヒカル「何?」

希実「…」

ヒカル「何をそんなに悩むの?」

希実「私の中では、もう答えは出てるよ」

ヒカル「じゃあ何で」

希実「だから、ヒカル次第なの」

ヒカル「俺からプロポーズしたんだから、のんちゃん次第でしょ」

希実「…私は、競技に集中したいって思ってて」

ヒカル「なんだよ、それが答え?」

希実「違う」

ヒカル「分かんないよ」

   間

希実「何で陸上辞めたの?」

ヒカル「いつの話だよ」

希実「ちゃんと話して欲しい」

ヒカル「今自分がやるべきことじゃないって、そう思ったんだよ。限られた人生だから、自分の中にある才能を探したくて」

希実「見つかりそう?」

ヒカル「そんな簡単な事じゃないよ」

希実「ヒカルはもっと出来たはずだよ」

ヒカル「…なにそれ」

希実「怒ってるの?」

ヒカル「怒ってる」

希実「ごめん」

ヒカル「のんちゃんはいつも俺の前を走ってるから、競技のことしか見えてなくて。俺の気持ちなんて見えてない、多分」

希実「感じるよ。苦しんでた」

ヒカル「だったら、簡単に【もっと出来たはず】なんて言わないでよ」

希実「ヒカル、中学の時は自分の目標に向かって真っすぐ進んでた。でも段々そうじゃなくなった」

ヒカル「何が言いたいの」

希実「私はヒカルの前なんて走ってない。私は私の目標に向かって走ってただけ。でもヒカルは、いつの間にか私の背中を追うようになってた」

ヒカル「違う」

希実「私はそう思ってる。で、結局諦めちゃった」

ヒカル「…どうせ家も継ぐし、だから高校で辞めたんだよ」

希実「ねぇ、本当はやりたい仕事があるんじゃないの?」

ヒカル「だから、考えても仕方がないから、考えてないって」

希実「逃げてる」

ヒカル「え?」

希実「ヒカルは就職活動からも逃げてる」

ヒカル「家継ぐんだから、意味ないじゃん」

希実「じゃあ、なんで大学入ったの?工業系ならまだしも、全然関係ない学部じゃん」

ヒカル「わがままで行かせてもらってるんだよ」

希実「自分で奨学金借りてまで?」

ヒカル「…のんちゃんと同じ大学行きたかったし」

希実「…」

   間

希実「本当に、お父さんの工場を継がなきゃいけないの?最近までそんな話聞いたことなかったけど」

ヒカル「……」

希実「中学から一緒にいるのに」

ヒカル「結局何の話なのか分かんないよ。別れたいってこと?」

希実「別れたいと思ってた」

ヒカル「どういうこと?ハッキリ言ってよ」

希実「言わない」

ヒカル「なにそれ」

希実「別れたいと思ってたけど、プロポーズされて考え直した」

ヒカル「で?答えは決まってるんでしょ?」

希実「ヒカル次第」

ヒカル「そればっかりじゃん」

希実「ねえ」

ヒカル「なに」

希実「本当に結婚したいと思ってる?」

ヒカル「思ってるよ」

希実「何で?」

ヒカル「何でって…。このまま遠距離になるなんて寂しいじゃん」

希実「うん」

   会話が途切れる

希実「そっか。……そうだね」

   間

   踏切が開く

希実「踏切、開いちゃった」

ヒカル「そうだね」

希実「とりあえず、行こうか」

ヒカル「行けよ」

希実「え?」

ヒカル「一人で行けよ。もうお別れなんだから」

希実「…うん…分かった」

   希実、動かない

ヒカル「行けよ」

希実「え?」

ヒカル「行けよ!早く」

希実「でも…こんな終わり方…いっぱい感謝だってしてるのに」

ヒカル「そんなのどうだっていい!こんな所で止まってる場合じゃないだろ?走れよ!いつだって俺の前を走っていたじゃないか。頑張って、もっと有名な選手になって、オリンピックに出るんだろ?行けよ!走れ」

希実「…」

   希実、言葉を飲み、走り出す

ヒカル「行け!頑張れ希実!振り向くな!…走れ!走れよ…こら、振り向くな!」

   希実、躓いて転ぶ

ヒカル「あっ…なにやってんだよ。立て!立て、希実!泣くな…泣くなよ。そのまま走れ!負けるな希実!頑張れ!頑張れよ…」

   希実、姿が見えなくなる

   ヒカル、その場で崩れる

ヒカル「…のんちゃん…頑張れ、頑張れ」

   終わり

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