傘をとじても(女2 兼用1 30分)【演劇脚本】

短編(30分以内)

〈あらすじ〉

大学生のアキは、親友である楓の「宇宙の話」が原因でアペイロフォビア(無限恐怖症候群)を発症、大学を休学することに。

彼女は「恐怖を与えた対象」として、記憶の中から楓の存在を、楓と過ごした間の記憶を消してしまう。しかし楓は、アキが「こうなった」ことについて、自分が原因であることを知らないのだった。

アキは、雨の日には外に出る。屋根付きのバス停で、雨を避けながら休憩するのを習慣にしていた。廃線になっているので人が来ないし、そこから見る景色が彼女の心を癒していたのだ。

とある雨の日。バス停で偶然再会するアキと楓。楓は初対面の振りをし、アキは半年ぶりの他人との会話を楽しんだ。「また雨の日に」と言い二人は別れる。その後、雨の日のバス停で何度か会った。

楓は、アキが「こうなった」原因が自分であることを知らない。知らないがゆえに純粋な気持ちでアキを助けようとする。

アキは楓と話すうちに、彼女が大切な存在だと気づく。それは、記憶を取り戻したということなのか。それとも、彼女にとって大切なのは、あくまで「今の楓」なのか。

このバス停から始まる小さな物語は、二人にとって「出会い」だったのか、それとも「別れ」だったのだろうか。

〈登場人物〉

◆アキ(女)

無限恐怖症になり大学を休んでいる。地味なタイプ。アニメ好き。

◆楓(女)

アキの大学の友人。肺の病気を患っている。星や宇宙について詳しい。

◆猫

本来はカウンセラーだが、アキには猫に見えている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

舞台中央に【屋根付きのバス停】

上手に【大学の教室】

下手に【部屋】

場面転換は、照明の切替で行う。

基本的にアキが持つ傘の開閉が場面転換のトリガーとなる。

————————————————-

◆大学

   大学の講義中

   アキと楓が話をしている

   楓の姿は観客には見えない

   ♪BGM:ノクターン第二番(ショパン)

アキ「宇宙の広さ?」

アキ「38万km…月って意外と近くない?」

アキ「そっか、確かに。ちなみに太陽は?」

アキ「え…月までが38万kmってのは何となく想像できたけど、1億…」

アキ「ちょっと想像もつかない」

アキ「宇宙の果てって、あるの?」

アキ「それ、どのくらいの距離?」

アキ「ごめん。ちょっと…怖くなってきた」

アキ「じゃあ、その先もずっと続いているってこと?」

アキ「ずっと?」

アキ「いやだ…怖い…」

   猫、現れる

猫「この出来事が原因で、彼女はこうなってしまいました。きっかけなんて些細なものなんです。…ところでみなさん。私のこと、猫に見えますか?…そうですか、それなら良かった。正常です」

猫「彼女はなぜこうなってしまったのでしょうか。現実とは残酷なもの。それではまた、後程お会いしましょう」

   暗転

————————————————

◆ムーブメント ※カット可

   ♪M:エチュード「蝶々」(ショパン)

  

   アキは楓を探し、楓はアキを探す。

   手には閉じた傘。

   雨の日、バス停で出会う二人。

   楽しくおしゃべりをしている。

   暗転

————————————————

◆雨の詩

   アキ、雨の詩をよむ

   ♪BGM:雨だれ(ショパン)

(アキ)

雨が好き

雨の音が好き

君が好き

傘を広げると

雨の音がする

雨が好き

降りはじめの

アスファルトに染みていく音も好き

匂いも好き

だから私は急いで外に出る

君に会いたい

雨が好き

傘を広げられるから

雨が降ったら1人の世界

私だけが雨の音を感じる

雨の鼓動を感じる

傘をとじたら

君はとなりにいるのかな

   アキ、バス停のベンチに座る。

————————————————

◆バス停

   ♪環境音:雨の音

   とある雨の日、古いバス停。

   屋根付きの待合がある。

   アキ、傘をさしたまま座っている。

   そこに楓がやってくる。

   目が合う2人

楓「あ」

アキ「…」

アキ「あの」

楓「はい」

アキ「バス、こないですよ」

楓「知ってますよ」

アキ「ここの路線、もう廃線になっているので」

楓「そうですね、知ってます」

アキ「そうですか」

楓「はい」

   楓、傘をとじ、アキの隣に座る

楓「あの」

アキ「はい」

楓「屋根ありますよ」

アキ「知ってますよ」

楓「屋根があるのに、傘をさしてるから」

アキ「なんとなく」

楓「そうですか」

楓「なぜここに?」

アキ「景色がいいから。目の前が田んぼだし、向こうの山も見える。好きなんです。誰も来ないし、ここ」

楓「すみません、来ちゃって」

アキ「いえ」

楓「良く来るんですか?」

アキ「雨の日には、だいたい」

楓「雨の日だけですか?」

アキ「はい。雨が好きなんです」

楓「変わってますね」

アキ「国語の教科書で【おじさんのかさ】って、ありませんでした?」

楓「あ、あった。えっと、雨が降ったらポンポロロン…(思い出せない)」

アキ「雨が降ったらピッチャンチャン」

楓「だから傘をさしてるんですか?」

アキ「いえ。屋根に当たる音を楽しんでるんです」

楓「そっか、そうですよね」

   楓、雨の音を聞く

楓「うーん」

アキ「どうしたんですか?」

楓「ポンポロロン、じゃないですね」

アキ「確かに」

   楓、耳に手をあて雨の音を聞く

   ♪雨の音フェードアウト

楓「パン、パパン」

アキ「ん?」

楓「雨の音。パン、パパン」

アキ「確かに。トタン屋根に当たる音だね」

楓「うん」

   アキも雨の音を聞く

アキ「ピョコン。ピョコンピョコン」

楓「ん?」

アキ「雨の音。ピョコンピョコン」

楓「確かに。屋根をつたって地面に落ちる音だね」

アキ「うん」

楓「ポンポロロン、ピッチャンチャン、パン、パパン、ピョコンピョコン」

楓「雨の音って楽しいね」

アキ「でも、純粋な雨の音ではないかも」

楓「どうして?」

アキ「ポンポロロンは、雨の音でもあるけど、傘の音でもある」

楓「まぁ、傘に当たる音なんだから、そっか」

アキ「パン、パパンは、雨の音でもあるけど、トタン屋根の音でもある」

楓「ピョコンピョコンは、雨の音でもあるけど、地面の音でもある」

アキ「ちょっとまって」

楓「なに?」

アキ「パン、パパンは、となりの木の枝から落ちた雨が、屋根に当たったときの音なんだから…」

楓「雨の音でもあり、トタン屋根の音でもあり、木の枝の音でもある…。ん?それはちょっとちがうんじゃない?」

   楓、笑う

   ♪雨の音、IN

アキ「どうしたの?」

楓「下らない話で盛り上がってるなって」

アキ「確かに」

楓「いつの間にか、敬語じゃなくなってる」

アキ「確かに」

アキ「ごめん、下らない話して」

楓「なんで?下らないから価値があるんだよ」

アキ「ん?」

楓「楽しい話で盛り上がるのは当たり前でしょ?だからこそ、【下らない話】で盛り上がれるのって、価値があると思わない?」

アキ「なるほど、確かに。価値がある」

アキ「あなたはどうしてここに?」

楓「それは、また今度」

アキ「今度…」

   楓、立ち上がる

楓「もう行かないと」

アキ「また、会える?」

楓「会えるよ」

アキ「いつ?」

楓「雨の日に」

   アキ、傘をとじる

   ♪雨の音、フェードアウト

   照明切り替わり、部屋のシーン

————————————————

◆部屋

   部屋には猫がいる。

猫「気分はどう?」

アキ「うん、大分いいよ」

猫「最近、雨降らないね」

アキ「うん」

猫「予報だと、そろそろ降りそうなんだけどね」

アキ「うん」

猫「出掛けてみたら?すぐ降ってくるよ」

アキ「駄目だよ」

猫「もしかしたら、あの子いるかもよ?」

アキ「駄目」

猫「はいはい」

猫「ところで、可愛かった?」

アキ「傘さしてたから。あんまり見てない」

猫「そっか。だとしても、凄いじゃん。私以外の誰かと話すの、どれくらい振り?しかも結構沢山話したんじゃない?」

アキ「どうだろう。私が大学いかなくなってからだから、半年とか?」

猫「もうそんなに経つんだ」

アキ「それに、話っていったって、ほんと下らない話だよ」

猫「あれ?」

アキ「え?」

猫「あれれ?」

アキ「なに?」

猫「口元ゆるんでる~。まるで恋だね」

アキ「なにそれ。好きは好きだけど、さすがに恋じゃないよ。恋って病気みたいなもんでしょ?病気っていうか、発作に近いのかな?とにかく、冷静じゃない状態」

猫「…なるほど。確かにドキドキするし、ちょっとしたことで悩んで胸が苦しくなるし、思いとは裏腹な行動をとったりするね。そうか、病気って表現も間違いじゃないかも」

アキ「だけど私はいたって冷静。冷静な気持ちで好きだし、大切な人だなって思ってる。だから、これは恋じゃない」

猫「じゃあなに?…愛ってこと?」

アキ「そっか、愛か。そうかもしれない」

猫「初めて会ったのに?」

アキ「不思議だね」

   アキ、傘をひろげる

   照明切り替わり、バス停のシーン

————————————————

◆バス停

   ♪環境音:雨の音

   バス停の待ち合いに楓

   楓、傘をさしたまま座っている。

   アキがやってくる。

   アキも傘をさしたまま座る。

アキ「久しぶり」

楓「久しぶり」

アキ「本当に会えた」

楓「わたし、嘘つきに見えた?」

アキ「どうだろう、傘で顔が見えないし」

楓「わたしは嘘つきじゃありません」

   楓、傘をとじる

アキ「ごめんね、そんな風に思ってないよ」

楓「ねぇ」

アキ「ん?」

楓「この間の話の続き」

アキ「うん。なぜ、あなたがここにいるのか…えっと、お名前は」

楓「…楓」

アキ「楓、さん。私、アキです」

楓「楓でいいよ。私もアキって呼ぶ」

アキ「わかった」

楓「私も、ここのバス停お気に入りなんだ」

アキ「良く来るの?」

楓「うん。晴れた日に」

アキ「晴れた日か。でも、初めて会った日は雨が降ってたよ」

楓「その日は、なんとなく」

アキ「そっか。運命みたい」

楓「私もそう思ったよ」

アキ「へぇ」

   楓、記憶のヒントを与えようとする

楓「病気なんだ、私。ちょっと難しいやつ」

アキ「え…」

楓「治らない病気」

アキ「そうなんだ」

   アキに思い出す様子はない

楓「最初は、ちょっと息が切れるなぁ…って思うくらいで。だんだん、普段出来ていたことが大変になってきて。大学もときどき休むようになった。…肺の病気なんだって」

アキ「治らないんだよね」

   アキに思い出す様子はない

楓「うん。休みの日はついつい引きこもりがちになるけど、晴れた日くらいは散歩しようって。で、いつもここで休憩するんだよ」

アキ「今日も雨だけど」

楓「そうだね」

アキ「病気のこと、なんで教えてくれたの?」

楓「(少し苛立ちながら)友達だから」

アキ「ありがとう」

   楓、気を取り戻す

楓「アキは、友達いる?」

アキ「いたと思う」

楓「思う?」

アキ「一部の記憶が無いんだって、私。大学行ってたことは覚えているんだけど。友達もいた気がする。でも、ある日を境にあまり思い出せないんだ」

楓「ある日?」

アキ「…」

楓「…」

楓「記憶なくしたこと、なんで教えてくれたの?」

アキ「楓は友達でしょ?」

楓「…ありがとう」

   アキ、傘をとじる

   ♪雨の音、フェードアウト

   照明切り替わり、部屋のシーン。

————————————————

◆部屋

   部屋には猫。猫の姿で白衣を着ている。

猫「他人がこわいとか、そういうのは?」

アキ「こわいっていうか、まぁ、ちょっと人と会ったり話したりっていうのは、今はキツイ」

猫「そっか。私とはずいぶん普通に話が出来ているみたいだけど、これはやっぱり信頼の証拠、かな?なんちゃって」

アキ「いくらなんでもあなたと話すくらい平気だよ。だってあなたは猫だもん」

   猫の独白

猫「猫、そうですね。確かに、猫です」

   猫、寝転ぶ

猫「みなさん、どうですか?この状況」

   間

猫「はぁーーーー?あの、ここで笑いが起こるはずだったんですが。だって、ねぇ。猫が、あれですもん、寝転んだ、わけですから。…あれ?もしかして、失笑恐怖症ってやつですか?失笑恐怖症…例えば、お葬式とか、会議中とか、笑っちゃいけない場面ってありますよね。そういう場所に身を置くと、もし笑っちゃったらどうしよう、とか考えちゃって、ストレスで頭が痛くなったり動悸がしたり…あとは、ピーナッツバター恐怖症なんてのもあります。ピーナッツバターを見ると、ついつい口蓋や上顎にひっついちゃうことを想像しちゃって、汗が吹き出たり苦しくなったりするんですよ、うわーーーーーーー(倒れる)まぁ、確かに嫌な感覚ではありますよね~。この辺にこう、ベターって。ピーナッツバターでピンとこなかったら、水飴で想像してみてください。ほらぁ、嫌な感じがする。…みなさんはどうですか?何か怖いものってあります?」

   アキ、傘をひろげる

   照明切り替わり、バス停のシーン

————————————————

◆バス停

   ♪環境音:雨

楓「怖いもの?」

アキ「永遠が怖い」

楓「永遠…ずっと続くものってこと?」

アキ「そう。それがキッカケで私はこうなっちゃったみたい。ずっと続くものを考えると怖くなる…。昼間は平気になったけど、夜になるとグルグル考えちゃって」

楓「ずっと続くなんて、素敵なことなのに」

アキ「ごめん、私はこわい」

楓「例えば、ずっと元気で生きていられるって素敵なことじゃない?好きなものを食べて、好きな映画を観て、もちろん好きな人と一緒に」

アキ「…失言だ。ごめん、本当に」

楓「そうじゃなくて。永遠は素敵なこと、価値のあるものって思えるようになれば、アキの記憶も戻るのかもって。だって、生きるって素敵でしょ?」

アキ「楓にそう言われると、確かにそうだ。本当だね」

アキ「楓には、怖いものってある?」

楓「思いつかないや。病気が分かったときは、死ぬことが怖かったけど」

アキ「今はない?」

楓「うん。死って、どこか非現実的だから怖いのかも。見えないものは怖いでしょ?悪魔だって、幽霊だって、目に見えないから、見たことがないから怖い。神様もそう、見えないからこそ人は恐れるんだよ。実体が普通に見えていたら、案外怖くなかったりして」

アキ「それはそうかも」

楓「私にとって【死】は身近にある。悲しいけど現実的なんだよ。だから怖くないのかな」

楓「…あれ?…あった。怖いもの」

アキ「なに?」

楓「大切な人がいなくなることが、怖い」

アキ「大切な誰かが死ぬってこと?」

楓「それもそう」

アキ「あとは物理的に離れ離れになったり?」

楓「それは、寂しいけど怖いのとはちょっと違う」

アキ「離れていても生きているからってこと?」

楓「惜しいけど」

アキ「教えてよ」

楓「物理的に離れていても、お互いの大切な思い出は生きているでしょ?それって幸せなことだと思う。でも、死んでしまったら思い出はどこに行っちゃうのかなって」

アキ「楓の心には残るよ」

楓「そうだけど、それじゃあ一人ぼっちじゃん」

   アキ、傘をとじる

   ♪雨の音、フェードアウト

   照明切り替わり、部屋のシーン

————————————————

◆部屋

   部屋には猫がいる。完全にカウンセラーの姿。  

猫「死が怖い?」

アキ「うん。ていうか、死んだ後の事が怖い」

猫「死んだ後…なるほど、確かに。輪廻転生ってやつだ」

アキ「あと、こうやって部屋に引きこもってると、何も変化がないでしょ?」

猫「無の状態のままいつまで続くのか…想像すると怖くなる」

アキ「うん。でも、この状況を選んでいるのは自分」

猫「そういうジレンマもまた、君を苦しめているんだね」

猫「たまには散歩なんてどう?やっぱり怖い?」

アキ「ちょっと。誰かに見られている気がして。でも、実は雨の日だけは出掛けられるんだ」

猫「へーなんで?」

アキ「だって、傘をさしていれば、まわりもあんまり見えないし、他の人たちも傘さしてるから目が合わないし」

猫「そっか、そもそも雨の日に出歩く人も少ないしね」

アキ「うん。それにね、雨の音が好きだから」

   アキ、傘をひろげる

アキ「あれ?私、なんで傘を広げてるんだろう。何を怖がっている?…もう、大丈夫。楓と、雨の日に出会ったあなたと、一緒にいたい。ずっと」

   アキ、バス停へ

   照明、バス停に切り替わる

アキ「永遠って、素敵なことだね」

————————————————

◆バス停

   ♪環境音:雨

楓「どうしたの?」

アキ「一緒にいたい」

楓「何?」

アキ「楓は大切な人」

楓「え?」

アキ「大切な人なんだよ。多分、ずっと前から」

楓「私のこと、思い出したの?」

   アキ、首を小さく横に振る

アキ「思い出したとは言えない」

楓「そっか…じゃあどういうこと?」

アキ「私が大切に思ったのは、雨の日のあなただった。でも、あなたは楓でしょ?じゃあ、私が大切に思っているのは、あのときの…大学の友達だった…それが楓だってことになる。ごめん…意味わかんないよね」

楓「アキ、焦らなくていいよ。…とにかく、ありがとう。私もアキのこと大切に思ってる」

アキ「こんなに大切な存在なのに…なんでだろう。なんで忘れちゃったのかな」

楓「アキがこうなっちゃった理由は分からない。何がキッカケで記憶を失ったのか…。でも、こうやって助けることが出来た」

アキ「楓が助けてくれた?」

楓「そうだよ。今までも、これからも、私がアキを守る」

   ♪雨の音、カットアウト

   照明切り替わり、そこに猫(カウンセラーの姿)

猫「今までも、これからも、私がアキを守る…ですか。皮肉なものですね。…いつだって、きっかけは些細なことなんです。そして、現実とは残酷なもの」

   照明切り替わり、大学のシーン

————————————————

◆大学

   大学に行っているころの2人

   楓、講義中に内職をしている

   隣にはアキ。板書をノートに写している。

楓「真面目だね」

アキ「この教授のテスト、ノート持ち込みOKだから」

楓「そうなの?知らなかった。…まぁいっか」

アキ「私知らないよ?」

アキ「ところで、何してるの?」

楓「写真の整理」

アキ「星の写真か」

楓「そう」

アキ「ふーん」

楓「興味ある?」

アキ「興味は特にないかなぁ」

楓「宇宙とか、ロマン無い?」

アキ「宇宙は、まぁ。確かにロマンあるかも。ガンダムとか好きだし」

楓「えっと、なんだっけそれ」

アキ「え?知らないの?」

   教授に注意されるアキ

   ♪SE:黒板を叩く音

アキ「…ガンダムっていっても最近のやつだよ?アニメとか見ない?」

楓「ごめん、知らないかな」

アキ「え~…本当に知らないんだ」

楓「カノープスってあるじゃん?」

アキ「カノープス?なにそれ?」

楓「え?知らないの?全天21の1等星の1つだよ?本当に知らない?シリウスを除いて2番目に明るいやつだよ?」

アキ「えっと、シリウス?」

楓「南の低空にしか見えない上に、地平線上にある時間が短いから、時刻も観測地も計算した上で、天候にも恵まれないと見えないっていう、あの有名なカノープスを…」

アキ「まってまって、ごめん、私が悪かった」

楓「分かれば宜しい」

   教授に注意される二人

   ♪SE:黒板を叩く音

   楓、咳き込む

アキ「大丈夫?辛い?」

楓「ううん、大丈夫。ありがとう」

アキ「うん」

アキ「…あ、そういえば、カノープスとかシリウスとか、ゲームのキャラで見たことあるかも。あれって星の名前からとってたのかぁ」

楓「あれ、ちょっと興味出てきた感じ?」

アキ「ちょっとね」

楓「宇宙の広さとか、考えたことある?」

アキ「宇宙の広さ?」

楓「うん。月までの距離は38万km。確か、新幹線で行くとすれば50日ちょっと」

アキ「38万km?月って意外と近くない?」

楓「んー。新幹線で50日とかカナリ遠いと思うよ?」

アキ「そっか、確かに。ちなみに太陽は?」

楓「たしか、1億4960万km」

   ♪BGM:ノクターン第二番(ショパン)

アキ「え??月までが38万kmってのは何となく想像できたけど、1億…」

楓「4960万km」

アキ「ちょっと想像もつかない」

アキ「宇宙の果てって、あるの?」

楓「470億光年」

アキ「それ、どのくらいの距離?」

楓「1光年で9兆5000億kmだから、それに470をかけて…」

アキ「ごめん。ちょっと…怖くなってきた」

楓「しかも、あくまでそこまでしか観測出来ていないってだけ」

アキ「じゃあ、その先もずっと続いているってこと?」

楓「どうだろうね、でも多分、続いてる」

アキ「ずっと?」

楓「ずっと」

アキ「ずっと?」

楓「ずっと」

楓「ずっと」

楓「ずっと」

楓「ずっと」

楓「ずっと」

楓「ずっと…」

アキ「やめて」

アキ「終わりが、ない」

   アキ、独白

アキ「私には、終わりがある?死んだら体は消えるんだろうね、だって焼かれちゃうし。意識は…消える?意識が消えるってどういうこと?無になるってことだよね。無ってどんな状態?意識が残るとしても、それはそれでどうなる?天国にいく?…天国ではどのくらい生き続ける?ていうか死んでるんだから、生き続けるってのは変か。ということは、永遠に無の状態?。永遠にそこに存在する…体もないのに?…いつまで続く?無限に続く?怖い…怖いよ、なんでこんな話するの?…誰?私にこんな怖い思いをさせるのは…誰?消えて、私の前から…頭の中から…今すぐ消えてよ」

   アキ、楓を遮るように傘を広げる

   ♪BGM、カットアウト

アキ「消えてよ、楓」

   暗転

————————————————

◆バス停

   ♪環境音:雨

   照明切り替わり、バス停のシーン

   アキ、先ほどのように傘を広げた状態

楓「ねぇ、傘」

アキ「ん?」

楓「もう必要ないでしょ?私たちは友達なんだから」

アキ「そうだね。大切な友達」

楓「うん」

   アキ、傘をとじる

   穏やかな笑顔が見える

楓「アキ、おかえり」

アキ「…うん」

楓「これからもよろしくね」

アキ「うん」

楓「長生きできるように頑張るね」

アキ「頑張っちゃダメだよ」

楓「どうして?」

アキ「頑張るってのは、無理をするってことだから」

楓「じゃあ、楽しんで生きる。一緒に」

アキ「そう、ずっと」

アキ「永遠に」

楓「永遠…怖くないの?」

アキ「もう怖くない」

   アキ、傘をささずに表に出る

アキ「冷たい」

楓「濡れちゃうよ」

アキ「今はこれでいい」

楓「変なの」

アキ「楓がいる」

   ♪雨の音、フェードアウト

アキ「傘をとじても」

楓「ん?」

   ♪BGM:別れの曲(ショパン)

アキ「行こうか」

楓「うん、行こう」

   雨の中、二人で歩いていく

   猫IN、アキが忘れた傘を拾ってさす

猫「彼女にとっての大切な人は、同じ大学だった楓さん…それとも、雨の日に出会った楓さんでしょうか。どちらが本物の楓さんなんでしょうね。…もちろん、どちらも本物ですよ。この雨の日のバス停から始まる物語…これは、2人にとって【出会い】だったのでしょうか。…現実とは残酷なものですね」

   暗転

   ♪BGM徐々にボリュームアップ

   終

コメント