〈あらすじ〉
ポールは病弱だった為、部屋から出られない状態だった。唯一の遊び相手は、背中にゼンマイがついた少女アリス。二人は窓の外の景色を見ながら、色んな想像をして遊んでいた。ある時、ポールはアリスに外の世界を見せるため、旅行に出かける。二人は旅先で不思議な生き物に出会うが、その中で自分の運命を悟ったポールは、呪縛から逃れるため女王に戦いを挑むのだった。
〈登場人物〉
◆アリス(女)
ポールが小さいころから大事にしている人形。背中にゼンマイがあり、止まると【眠って】しまう。自分が人形であることを忘れている。
◆ポール (男)※音楽が女性キーです
小さいころから身体が弱く、ほとんど外に出ていない。ポールにだけは、アリスが自我のある人形(少女)に見えている。
◆母/女王(女)
母)ポールの母。学校の先生。息子に少しずつ毒を飲ませている。歪んだ愛を持っている。
女王)異世界の女王。自分の子供(ブタの姿をしている)を愛するがあまり、わざと怪我をさせて面倒を見る…という形で母としての欲を満たしている。
◆医者/時計屋(男)
医者)ポールの主治医。ポールの母親に疑いを持っている。ポールから好かれている。
時計屋)異世界の時計職人。時間の分からない時計を作っている。
◆笑いネコ ※音楽が女性キーです
異世界のネコ。普段は眠りの森に住んでいる。不思議な言葉を使い、会話をそらすイタズラが好き。
◆慌てん坊のウサギ ※音楽が女性キーです
異世界のウサギ。女王の城の門番をしている。とにかく慌てん坊。
◆嘘つき鳥 ※音楽が女性キーです
異世界の鳥。迷いの丘に住んでいる。嘘しかつかない。
◆考える木 ※基本的には男性
異世界の木。長老とも呼ばれている。常に何かを考えており、博識。知らないことはない。
◆傾き花 ※基本的には女性
異世界の花。常に傾いている。
◆少年(男) ※子役がいれば一番良い
幼少期のポール
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【注意】
本作品はオリジナルミュージカルです。上演される場合は音源の提供も出来るかもしれません。まずはご相談下さい。
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M1 序曲
M2 オープニングダンス
(アリス、ポール、母親)
アリス、ポールのペアダンス。
アリス、ポール、はけ
母親IN
息子を授かってから、現在、未来のストーリーを表現する。
少年、IN
母親、はけ
曲終わり、少年のみ舞台上。
悲しそうに座っている。
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ポール、IN
ポール「こんにちは」
少年「…」
ポール「元気ないの?」
少年「お父さんが、死んじゃった」
ポール「そっか。寂しいね」
少年「大丈夫だよ」
ポール「なんで?」
少年「お母さんがいるもん」
ポール「そうだね。お母さん、大事にしてあげてね」
少年「うん。お利口にしてるよ」
ポール「例えば?」
少年「わかんない」
ポール「良く言うことを聞いてるってことかな」
少年「わかんない」
ポール「そっか」
少年「あのね、お利口ってどういうこと?」
ポール「え?」
少年「僕、お利口って、良くわからないんだ。でも、お母さんは僕のことをお利口っていうんだよ」
ポール「…」
少年「ねえ、お兄ちゃんは分かる?お利口ってなに?」
暗転
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シーン①【部屋】
M3「窓のある部屋に暮せば」
(アリス&ポール)
窓のある部屋に暮せば
流れる雲を 眺めて
どんな形に変わるのか そんな遊びができる
森にはどんな生き物がいるのかな
湖はどのくらい広いのかな
あの丘には何があるのかな
窓のある部屋に暮せば
2人で想像し合えば
どこにだって行ける
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(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
ポール、幸せそうな表情
アリス「どうしたの?」
ポール「何が?」
アリス「だって…」
ポール「良い天気だなって」
アリス「おうちの中にいるのに?」
ポール「おうちの中にいるけど、天気はいいじゃない」
アリス「そうだけど、やっぱり変だわ」
ポール「おうちの中にいたって、天気が良ければ暖かくて…あれ」
ポール、体に違和感
アリス「どうしたの?」
ポール「いや、何でもない」
アリス「今言おうとしたのに」
ポール「してないって」
アリス、ポールを見つめる
ポール「薬飲んだっけ?」
アリス「え?」
ポール「だから、朝の薬、忘れたかなーって」
アリス「また忘れたの?」
ポール「いや、忘れたのかどうか、聞いてるんだよ」
アリス「ちょっと待って。私が言っているのは、飲むのを忘れたの?ってことじゃなくて、飲んだのかどうかを忘れたの?ってことよ」
ポール「だから、そう、忘れたんだよ」
アリス「本当にわかってる?」
ポール「とにかく、どう?僕、薬飲んでた?」
アリス「最近、すぐ忘れちゃうよね」
ポール「そんなことないよ。ああ、薬は飲んだよ。今思い出した。はっきりとね」
アリス「まだまだ若いんだから、そんなんじゃ困るよ」
ポール「あのね、忘れたんじゃないんだよ。むしろ、頭の中が【タンス】で整理されているっていう証拠だよ」
アリス「何それ、おもしろそう。聞かせて」
ポール「人間の頭の中にはね、常に新しい情報が入ってくるんだ」
アリス「そうね(微笑む)」
ポール「なんか馬鹿にしてる?」
アリス「してないよ。続けて」
ポール「だからさ、普通にしてたら頭の中がごちゃごちゃになるんだよ」
アリス「そこでタンスね」
ポール「そう。頭に入れた情報はタンスにしまう。そうやって整理するんだよ」
アリス「えっと、朝薬を飲んだっていう情報も、タンスにしまったってこと?」
ポール「そういうこと」
アリス「でも、それで忘れちゃったら意味ないじゃない」
ポール「違うよ。しっかりタンスにしまってあったけど、どの引き出しに入れたのか迷っただけ」
アリス「タンスのどの引き出しにしまったのか忘れていたってことよね。結局それって忘れていたってことじゃない」
ポール「まぁ、そうだね」
笑う
ポール「ねぇ」
アリス「なに?」
ポール「ちょっと…聞いてくれる?」
アリス「うん」
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M4「君に見せたい世界」
(ポール)
アリス 君に 見せたいものがあるんだ
窓から いつも見てる 景色だけど
肌で感じたい 近くに感じたい
僕の隣においで
アリス 願いが叶うなら
君と旅がしたいんだ
遠くに行ってみたい 君にも見せてあげたい
この部屋を飛び出して
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アリス、ポールの話を聞きながら寝てしまう
ポール、アリスの背中のゼンマイを巻く。
目を覚ますアリス
(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
アリス「…ごめん。さっきの話し…」
ポール「ああ、大したことじゃないよ。また話すね」
アリス「そう、なんだ」
アリス「ポール」
ポール「なに?」
アリス「朝の分の薬、忘れないうちに飲んでおいてね」
ポール「うん。…あ、そうだ。今日って先生が来る日じゃない?」
アリス「そういえば、そうかも。ポール、あのお医者さんのこと好きね」
ポール「まぁね。面白い話、たくさんしてくれるし」
アリス「早く来るといいね」
ポール「うん」
母親が入ってくる
アリス「おはようございます」
ポール「(アリスの言葉を遮るように)おはよう」
母親「おはよう」
母親、部屋の片づけを始める
母親「またお話していたの?」
ポール「うん」
母親「そう」
母親、部屋の片づけをしている
母親「アリスさん、いつもありがとうね。(ポールの視線を感じて)なに?」
ポール「なんでもない」
母親「(アリスに)あなたはいつもそうやって笑顔で話を聞いてあげるから、だからこの子はあなたのことが好きなのね。それに比べて私は口うるさいから…」
ポール「母さん」
母親「どうしたの?」
ポール「……」
母親「言いたいことがあるなら言いなさい」
ポール「旅行にいきたい」
アリス「え…」
アリス寝てしまう
BGM、フェードアウト
母親「急にそんなこと言われても、お母さんも仕事があるし…」
ポール「母さんはいいんだ」
母親「え?じゃあ、誰と?まさか一人でなんて言わないわよね?」
ポール「一人じゃないよ(アリスを見る)」
母親「ダメよ」
ポール「そう言うと思った」
母親「旅行って、どこに行きたいの?」
ポール「どこか、遠く」
母親「そう…でも、まずは近所の公園を散歩出来るようになってからね」
ポール「…」
母親「身体のことだって心配なのよ…朝の薬は飲んだ?」
ポール「まだ飲んでない」
玄関からノック
母親が医者を連れて部屋に戻る
母親「先生、よろしくおねがいします」
医者「ああ、はい。(ポールに)やぁ、元気?」
ポール「元気なわけないよ」
医者「ん?何かあった?」
ポール「そうじゃなくて」
医者「なに」
ポール「元気だったら、先生が来る意味がないもの」
医者「うんうん、元気そうだね」
ポール「先生、僕の話聞いてる?」
ポールの言葉を遮り診察を始める
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M5「病は気から」
(医者)
はい 口を 開けて
喉の腫れは 特にありません
病気になっていても 怪我をしていても 友達いなくても
元気があれば上手くいく
(ポール)
セリフ)友達なんていらないですよ
(医者)
はい おでこ 出して
発熱も 特にありません
病気になっていても 怪我をしていても 恋人いなくても
元気があれば上手くいく
(母親)
セリフ)恋人なんて早いですよ
(医者)
病気になっても
怪我をしてても
友達いなくて
恋人いなくて
お金もなくて
雨に振られて
風に吹かれて
体が冷えて
病気になっても
元気があれば上手くいく
だから 僕の仕事は
君が元気なのか 調べること
病気になっても
怪我をしてても
友達いなくて
恋人いなくて
お金もなくて
雨に振られて
風に吹かれて
体が冷えて
病気になっても
元気があれば大丈夫
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医者、診察を終える
医者「良し、終わったよ」
ポール「先生、この間の話の続き」
医者「なんだっけ」
ポール「初めて【恋】というものを知った恐竜の話」
医者「そんな話した?」
ポール「したよ」
医者「そうか。よーし分かった。じゃあね…」
母親「ほらほら、先生も忙しいんだから」
医者「いえ、大丈夫ですよ」
母親「今日は、私がもう出なければいけないので。ところでこの子の調子、どうですか?」
医者「とりあえず、様子を見てみましょう」
母親「そうですか」
医者「薬はしっかり飲んでいただいていますよね?」
母親「ええ」
医者「そうですか」
医者、カバンから薬を出す
医者「引き続き、この薬をしっかりと飲ませてください。必ずね」
母親「もちろんですよ、先生」
医者「病院の方に来てくれれば詳しく検査出来るんですが」
母親「何度も言うように、それは出来ないんです」
医者「…それでは、先ほどの薬をしっかりと飲ませてください。必ず」
母親「…」
医者「それでは、失礼します。…ポール、今日はもう帰るから、さっきの話の続きはまた今度。じゃあね」
医者、去る
母親「じゃあ、お母さんはそろそろ行くからね」
ポール「母さん、さっきの…旅行」
母親「一人で旅行だなんて許可できません」
ポール「一人じゃない」
母親「そうね、アリスも一緒だったわね。こうやって、あなたの薬の世話もやってもらえるのなら、少しは任せられるのだけどね」
母親、ポールに薬を渡す
母親「じゃあ、行ってくるわね」
母親、部屋を出ていく
ポール、薬を飲み、アリスのゼンマイを巻く
目を覚ますアリス。
(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
アリス「…あれ?お母さんは?」
ポール「仕事に行ったよ」
アリス「ねえ、さっき旅行って」
ポール「ああ、行くよ」
アリス「大丈夫なの?」
ポール「なんで?」
アリス「えっと…お母さん反対していたような…まぁ寝ちゃったから聞けてないんだけど」
ポール「行っていいって」
アリス「うそ」
ポール「ほんと」
アリス「じゃあ、私外に出られるのね」
ポール「そうだよ。すぐに支度しよう」
アリス「うん」
暗転
M6 場転ダンス
ネコ、ウサギ、鳥、ダンスしながら転換
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シーン②【眠りの森】(笑いネコの縄張り)
アリスとポール、森にいる。
(環境音)深い森
ポール「ちょっと迷っちゃったみたい」
アリス「うん」
ポール「座ろうか」
アリス「うん」
切り株に座る
アリス「ねえ、おかしなこと言ってもいい?」
ポール「何?」
アリス「外って、広いのね」
ポール「うん」
アリス「このままずーっとまっすぐ行ったら、どこまで繋がっているの?」
ポール「多分、ずっと」
アリス「ずっと?」
ポール「そう、ずっと」
アリス「終わりがないってこと?」
ポール「うん…多分」
ネコ、顔を出す
アリス「あの森を抜けたとして、その先は?」
ポール「森の先には…山がある」
アリス「その山の向こうは?」
ポール「山の向こうには、川が流れている」
アリス「その川を下ったらどうなるの?」
ポール「川を下れば、そこは海だ」
アリス「海を渡ると?」
ポール「海を渡ると、また陸に出る」
ネコ「まずは船が必要だね」
ネコ、IN
ネコ、怪しい動きをしている
ネコ「海を渡るには、まずは船が必要だよ」
アリス「船なんて持ってないわ、どうしたらいいの?」
ポール「ちょっと待って。君は誰なんだ?」
ネコ「君は誰?ああ、僕のことか。僕は誰なんだ。ひどく難しい」
ポール「難しい?何故?」
ネコ、怪しい動きをしている
ネコ「じゃあ、君は誰なんだい。答えられる?」
ポール「そんなの簡単だよ。僕はポール」
ネコ「そうか、ポールってのは誰なんだい?」
ポール「ポールは僕だよ」
ネコ「僕…僕っていうのは君のことかい?」
ポール「そうだよ」
ネコ「そうか、君はポールっていう名前なんだね」
アリス「あなたって、いつもそんな回りくどい話し方してるの?」
ポール「気を付けて。こいつ、【笑いネコ】だよ」
アリス「なにそれ」
ポール「こいつはね、意味不明なしゃべりで話をそらしてしまう悪戯ネコさ。こいつに何を質問してもダメだよ。それもそらされちゃうから」
ネコ、怪しい動きをしている
アリス、ポールはそれをじっと見ている。
アリス「でも、別に害はないわ」
ポール「まぁ…たしかに」
ネコ、怪しい動きをしている
ポール「ねえ、何色が好き?」
アリス「え?なんで?」
ポール「いいから」
アリス「やっぱり…黄色かな。だからこのドレスもお気に入りなの」
ポール「そうだよね、やっぱり母さんがつくったマーマレードを塗るのが一番だよね」
アリス「…ちょっと、どうしたの?」
ポール「でもね、意外と雨の日も好きなんだよ、だってさ、屋根に当たる音が楽しいんだよ。特に降り始めが最高でさ、コン、ココン、コココンって、とっても心地いいんだ」
ネコ「僕の名前はね、フランソワっていうんだ。カッコいいでしょ?」
ネコ、怪しい動きを止める
ポール「ほらね、思った通りだ」
ネコ「みんなは僕のことを笑いネコって呼ぶんだ。この眠りの森に住んでいるんだよ」
アリス「眠りの森って何?」
ポール「こいつにはまともに質問しても無駄だよ。だから、頭の中に聞きたいことを思い浮かべながら、口では意味不明なことを話せばいい」
アリス「じゃあ、頭の中で猫さんの名前やこの森について考えながら、マーマレードとか屋根に当たる雨の音の話をしたってこと?…とってもややこしいのね」
ポール「まぁね」
ポール「…趣味は雲を見ることなんだ。曇って沢山あるだろ?そのうち1つをずっと見るんだ。で、それが何に変わるのかを当てる…そんな遊び」
アリス「それ、いつも一緒にやってるやつじゃない」
ネコ「眠りの森っていうのはね、その名の通り眠りの森なのさ。だけど眠くなる森じゃない。眠くならない森なんだよ」
ポール「ほら、わけの分からない話をすれば、逆に知りたいことを教えてくれる」
アリス「眠くならない森…そういえば私、眠くならない」
ネコ「ところで」
環境音、フェードアウト
ネコ「さっきから誰と話しているの?」
アリス「え?」
ポール「誰にって何をいっているんだ…君だ、君だよ」
ネコ、怪しい動きを始める
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M7「僕は僕と話をしている」
(ネコ)
君 そりゃそうだ
君は僕と話してる
君は僕と話してる
君って誰だ 僕って誰 僕も僕なんだ
君も僕のことだ ということは
僕は僕と話をしているってこと?
(アリス)
やめて 頭がおかしくなりそう
やめて 何の話をしているの
(ネコ)
僕って誰だ 君って誰 君も君なんだ
僕も君のことだ ということは
君は君と話をしているってこと?
僕は僕で 君は君
でも 僕は僕と話をしている…
アリス「頭がおかしくなりそう」
ポール「アリス、いこう」
アリス「うん」
アリス、ポール、走り去る
M8 移動ムーブメント(アリス、ポール)
アリス、ポール、ムーブメントで移動を表現。動物たちは転換
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シーン③【眠りの森】(時計屋の工房)
2人が逃げた先にあったのは、時計屋の工房だった。
部屋にはいくつか時計がおいてある。
時計屋は、手に砂時計のようなものを持っており、それを修理しているのか反対の手にはハンマーを持っている。
(環境音)時計の音
ポール「(看板を読む)時計屋…工房かな」
アリス「あ、誰かいる。こんにちは」
ポール「(遮るように)こんにちは」
時計屋「こんにちは?」
ポール「えっと…こんにちは」
時計屋「うーん」
ポール「何かおかしなこと言いましたか?」
時計屋「こんにちはってことは、今は昼間ってこと?」
ポール「すみません、時間は分からないのですが…多分昼間じゃないですか?」
時計屋「ふーん」
ポール「道に迷ってしまって…。あの、今何時ですか?」
時計屋「それは、聞かないほうがいい」
ポール「なぜ?」
時計屋「君が時間を聞く」
ポール「はい」
時計屋「12時だったとする」
ポール「はい」
時計屋「それを僕が教える」
ポール「はい」
時計屋「ね、聞かないほうがいい」
ポール「いや、全然わからないよ」
時計屋「お腹減らない?」
ポール「え?」
時計屋「12時だと知ったら、お腹減らない?」
アリス「(ポールに耳打ち)お昼の時間だから?」
時計屋「朝の6時だったらどう?お腹減るでしょ?」
アリス「朝ごはんの時間」
時計屋「夕方の5時もそう、知ったらお腹が減る」
アリス「(ポールに耳打ち)この人、晩ごはんの時間早いんだね」
ポール「今の時間は11時かもしれないよ」
時計屋「後1時間でお昼の時間だ、となる」
アリス「お腹が減る」
ポール「午後1時かもしれない」
時計屋「お昼の時間から1時間も経っている、となる」
アリス「お腹が減る」
ポール「えっと、じゃあ午後3時だったら…」
3人「おやつの時間」
笑う
時計屋「だからね、時間は知らないほうがいいんだ。…それに、僕には時間は分からない」
ポール「時計屋なのに?」
時計屋「僕の時計はね、時間を知るためのものじゃあない」
ポール「じゃあ、何が分かるの?」
時計屋「(部屋にある時計を指し)これは、今日出るしゃっくりの数が分かる時計。これは、お母さんのへその緒の長さが分かる時計。これは、後悔して眠れない夜の長さが分かる時計」
ポール「おじさんが持っている時計は?」
時計屋「これはね、生き物の命の長さが分かるんだ」
ポールに見せながら砂時計をひっくり返す。
ポールの命があと僅かであると気づく。
時計屋「…」
ポール「どうかしたの?」
時計屋「いや………道」
ポール「道?」
時計屋「道に迷っているんだろう?僕が教えてあげるよ」
アリス「良かったね」
ポール「うん」
時計屋「…あっち。あっちに向かって真っ直ぐ。いい?真っ直ぐだよ」
ポール「わかった。ありがとう」
アリス、ポール去る
時計屋、二人の背中を目で追う
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M9「命が見える時計」
(時計屋)
人の命は 砂のように崩れていく
少しずつ 少しずつ
さらさらと落ちて 地に帰る
人の命は 砂時計とは違うんだ
ただただ 落ちていく
逆さにしても やり直すことは出来ない
僕の時計は 何のためにある
時計屋「君を助けることが、僕の使命なんだね」
暗転
M10 場転ダンス
ネコ、ウサギ、鳥、ダンスしながら転換
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シーン④【静かな湖】
アリスとポールが進んだ先には湖があった。
(環境音)湖のほとり
アリス「素敵な場所。これが…海?」
ポール「これは湖だよ」
ちょうど良い大きさの岩に座る
アリス「湖と海って…何が…違うのかな」
アリス、うとうとする
ポール「えっと、何だったかな…でも、これは湖なんだよ。それは間違いない」
アリス、いつの間にか寝ている。
ポール、アリスのゼンマイを巻く。
目を覚ますアリス。
アリス「ごめん、いつもの私に戻っちゃった」
ポール「そうだね。…あ、海と湖の違い、1つ思い出したことがある」
アリス「ポール」
ポール「何?」
アリス「さっきのネコ、私がいることに気づかなかったのかな?時計屋さんも、私のこと見ていなかった気がするの」
ポール「まさか」
ポール、微かに動揺を見せる
アリス「…ポール、ありがとう」
ポール「何のこと?」
アリス「いつも私を起こしてくれて」
ポール「どうしたの急に」
アリス「何だか怖くなっちゃった」
ポール「どうして。ずっと一緒なんだから、大丈夫だよ」
アリス「ポールがいなくなったら?眠ったまま、私は一人になるの…?」
ポール「アリス、あの雲、分かる?」
アリス「え?」
ポール「ほら、あのクロワッサンみたいな…」
アリス「…あ、あれね。…何に変わると思う?」
ポール「そうだな…ダックスフント」
アリス「お、そう来ましたか。じゃあね、私は…」
ポール「あーーーほら、ほら、ダックスフントになった」
アリス「残念ね、あれはアザラシよ。耳がないもの」
ポール「でもほら、アザラシには後ろ足がないよ」
アリス「あれ?そうだった?」
ポール「ん?…そういわれると自信が無くなる…」
二人、思わず笑う
アリス「なんで笑ったの?」
ポール「君だって笑ったじゃないか」
アリス「だって…(笑う)」
ポール「笑ってないで教えてくれよ」
アリス「せっかく旅行に来てるのに、毎日お部屋でやってることと変わらないから。なんだかおかしくて」
ポール「うん」
アリス「ポール、ありがとう」
ポール「こちらこそ」
アリス「そういえば…そろそろお薬の時間じゃない?」
ポール「そうか、もうそんな時間か」
ポール、薬を出す
ウサギIN、慌てている
ウサギ「大変だ、大変だ」
ポール「どうしたんですか?」
ウサギ、慌てている
ウサギ「大変なんです」
ウサギ、慌てている
ポール「(アリスに)ちょっと面倒くさいね、放っておこうか」
アリス「そうね」
ウサギ、立ち止まる
ウサギ「聞いてもらってもいいですか」
アリス「(ポールに)ちょっと変だよ、このウサギ」
ポール「まぁ…聞かせてもらおうかな」
ウサギ、慌てる
ウサギ「大変なんです。女王さまの子供が死にそうなんです」
アリス「大変」
ポール「病気…ですか?」
ウサギ「実は…ちょっと言いにくいんですが…暴力を受けすぎて…」
ポール「誰がそんなことを」
ウサギ「実は…ちょっと言いにくいんですが…女王様が…」
ポール「えっと、どういうこと?女王さまの子供を女王さまが痛めつけているって、そう聞こえたんだけど」
ウサギ「実は…ちょっと言いにくいんですが…その通りなんです」
ポール「そんなバカな」
ウサギ「たぶん、悪魔にとりつかれているだよ、あーーどうしたらいいんだーー」
アリス「(ポールに)事情は分かったけど、私たちにどうにかできることじゃ…」
ポール「アリスの言う通りだ。残念だけど……いや、でも何かできることがあるのなら」
ウサギ、立ち止まる
環境音、フェードアウト
ウサギ「アリス?」
アリス、息をのむ
ポール「……」
(環境音)湖のほとり
ウサギ「まぁいいか。今はネコの手も借りたい時だ」
ネコ、IN
ネコ「ネコっていうのは誰なんだ、知っているような知らないような。でも、それが僕のことなんだとしたら、それは僕がネコだってことになる。だとしたら、僕はネコなんだから、やっぱり今呼ばれたのは僕のことなんだ」
ウサギ「ありがとう、別に呼んじゃいないが、素直にネコの手を借りることにするよ」
ウサギ、ネコに手を差し出す。
それをキッカケにじゃれあい始める2匹。
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M11「ネコとウサギ」
しばらくネコとウサギがじゃれあう。
突然笑い出すアリス。
(ポール)
どうしたんだよ こんな時に
(アリス)
外の世界って 色々あって 楽しいのね
(ポール)
色々ありすぎさ
眠らなくなる 眠りの森
話がややこしい いたずらネコ
時間が分からない 時計屋
慌てん坊の ウサギ
(2人)
次は何が出てくるのか
次は何が出てくるのか
(ウサギ)
何が出る 何が出る 何が出るーー
(ネコ)
セリフ)知りたいことがあるのなら長老に聞くんだね。なぜなら、何だって知ってるから。あ~そうだ、だったら女王のことも聞いたらいい。そうだ、長老に聞くべきだ。
(ウサギ)
長老に 聞いてみよう どこにいるのかね
(ネコ)
セリフ)迷いの丘さ
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ウサギ「迷いの丘、聞いたことがある、大変だ大変だ、大変だーーー」
ウサギ、慌てはじめる
(環境音)湖のほとり
ポール「迷いの丘に行けばいいんだね」
ウサギ「ぼぼぼ僕はごめん、いけない、いけないんだ、どどどどうしても、苦手な、やつがいる」
ポール「どんな人なの?」
ネコ「僕の友達さ。ちなみに、この場合の僕というのは、僕のこと、であって、君のことではないからね」
ウサギ「ききき君というのは、ぼぼぼ僕のことじゃなくて、ききき君のことだと思うけど、ななな何だかややこしくて、こここ混乱して、慌ててしまいます。僕は慌てん坊のウサギですから。そうですとも、僕は慌てん坊の…」
ウサギ、はける
アリス「行っちゃった…」
ポール「良くわからないけど、とりあえず行ってみようか。迷いの丘に」
暗転
M12 場転ダンス
ネコ、ウサギ、鳥、ダンスしながら転換
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シーン⑤【迷いの丘】(麓)
アリスとポールが進んだ先には、丘があった。
(環境音)広々とした丘
アリス「ここが、迷いの丘?」
ポール「多分」
アリス「ただの丘のように見えるけど…なぜここで迷うのかな?」
ポール「わからない。ここじゃないのかな。…ちょっと休憩しようか」
地面に座る
アリス「どうして、ウサギさんの力になろうと思ったの?」
ポール「だって、子供が痛めつけられているなんて、可愛そうじゃないか」
アリス「うん、そうだね。しかもお母さんから…だなんて、ひどいよね」
ポール「うん」
アリス「母親失格」
ポール「うん」
アリス「悪魔を追い払う方法なんて、どうしたらいいんだろう」
ポール「それを聞くためにここに来たんでしょ?」
アリス「怒ってるの?」
ポール「…怒ってない」
アリス「そっか…なら、いい、けど…」
アリス、眠ってしまう
ポール「…母さんは、僕のことを一番に考えてくれてるんだ」
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M13「僕のお母さん」
(ポール)
何も 怖いことなんて ないよ
だってそうでしょ?
僕は信じている これが僕の幸せだって
母さん 僕の母さん
この先に 何があるのかな?
でも大丈夫 だって ずっと一緒だから
今までも これからも
何年も 何年も
頑張るからね 母さん
僕を見ていて
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嘘つき鳥、IN
(環境音)広々とした丘
鳥「おや」
ポール「あ、こんにちは」
鳥「こんばんは」
ポール「あれ?そんな時間?」
鳥「夜です」
ポール「昼ですよ」
鳥「夜ですよ?」
間
鳥「なんで、ずっと喋ってるの?」
ポール「黙ってたけど…」
鳥「ん?」
ポール「いや、なんでもない…」
ポール「あの…ちなみにここは、迷いの丘…ですか?」
鳥「迷わない谷だよ」
ポール「迷わない谷、ですか?」
鳥「迷いの丘」
ポール「ん?迷いの丘であってるの?」
鳥「迷わない谷で間違ってるよ」
ポール、さらに困惑
ポール「どうしよう…でも、他に聞ける相手もいないしなぁ」
鳥「何も探してないの?」
ポール「探してます。長老に会いたくて。知ってますか?」
鳥「探してないんだ、赤ちゃんのこと。知らないよ」
ポール「…困ったなぁ」
鳥「だから、知らないって。教えてあげないよ?」
ポール「知らないのに、どうやって教えるんですか。もういいですよ」
時計屋、IN
時計屋「ちょっと待って」
ポール「あれ、時計屋さん?」
時計屋「こいつは恐らく嘘つき鳥」
ポール「嘘つき鳥…」
時計屋「僕に任せて」
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M14「嘘つき鳥」
(時計屋) 君は 嘘つき鳥だね
(鳥) いいえ 正直鳥です
(時計屋) 君は 生きているね
(鳥) いいえ 死んでいます
(時計屋) なるほど こいつは やはり 嘘つき鳥
(ポール) なんでわかるの
(時計屋) こいつは 全て 反対の言葉で話す
(ポール) なるほど
(ポール) ここは 迷わない谷って言ってた
(時計屋) てことは?
(二人) 迷いの丘
(ポール) 長老のこと知らないって言ってた
(時計屋) てことは?
(二人) 知ってる
(ポール) 全部嘘なんだ
(時計屋) 全部嘘
(二人) 嘘嘘嘘嘘ぜんぶ嘘
(鳥)
ちがーーう
私は嘘なんてついていない
反対の言葉になってしまう
ただ それだけ
心優しく 清らかに
いつでも真面目に生きてきた でも
反対の言葉になってしまう
ただ それだけ
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鳥「はぁ…」
(環境音)広々とした丘
ポール「今、普通に言えてなかった?」
鳥「はい…頭に血がのぼると…言えるんですが。またすぐに戻ると思います」
ポール「じゃあ今のうちに聞きます」
鳥「はい」
ポール「ここは迷いの丘ですか?」
鳥「いいえ、迷わない谷です」
ポール「もう戻っちゃった…」
時計屋「まぁ、要は迷いの丘ってことだよ。反対にすればいい」
ポール「そっか。長老にはどっちに行けば会えますか?」
鳥「あっち」
時計屋「てことは」
ポール「あっち(反対)、ですね」
ポール、アリスのゼンマイを巻く
ポール「鳥さん、ありがとう」
鳥「恩を忘れないで」
時計屋「気にしなくていいよってことだね」
アリス、目を覚ます
アリス「…うわ、派手な鳥」
ポール「さて、長老のところに行かないと」
時計屋「気をつけて」
ポール「うん、ありがとう」
ポール「鳥さん、またね」
鳥「もう二度と来ないでね」
アリス「え、ひどい、なんで」
鳥「あっちだからね」
ポール「うん、ありがとう(反対に進む)」
アリス「ちょっと、あっち…じゃないの?」
ポール「いいんだよ」
アリスとポール、長老のもとに向かう
M15 移動ムーブメント
アリス、ポール、ムーブメントで移動を表現。動物たち、転換する。
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シーン⑥【迷いの丘】(長老登場)
アリスとポールが進んだ先に、考える木、傾き花がいる
アリス「もう大分歩いたけど」
ポール「いないね」
アリス「ちょっと休まない?」
ポール「そうだね」
木「女王のことを知りたいんだね」
ポール「え?」
木「いろいろな使命が交錯しているね」
アリス「木がしゃべった」
ポール「もしかして、長老ですか?」
木「いかにも」
花「いかにも」
ポール「木と…花?」
木「私はすべてを知るもの」
花「私はすべてを疑うもの」
傾き花は怪しくうごめいている
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M16「賢者のあそび」
※音楽に合わせて台詞を入れていく
花「ときに考える木よ、どうして全てを知ると言える?」
木「以前もそのような話をしたことを、私は知っているぞ」
花「私は自分の記憶すら疑うのです。さぁ、なぜすべてを知ると言える?」
木「すべて、私の中に答えがあるからだ」
花「その答え、とやらは、正しい答えなのか?」
木「正しいに決まっている。知らぬものはないからな」
花「すべてを知っているからといって、正しい答えを導き出せるとは限らないのでは?」
木「何が正しいのか、それさえも知っているのだよ」
花「すべてを知る、根拠を示せ」
木「根拠を示したところで、お前は考えを曲げないだろう」
花「そうだろうな」
木「どうだ、私はお前の性格、考えを知っている。根拠を1つ示したぞ」
花「これですべてを知るものと言えるのか」
木「すべての根拠を示せ、というのか」
花「そうだ、すべての根拠を示せ」
木「私は知っている、すべての根拠を示すことは不可能なことを」
花「根拠がない以上、すべてを知るものとは言えないだろう」
M、フェードアウト
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ポール「信じることだよ」
ポール「何が正しいのか、なんて分からない。すべてを知ることも不可能だよ。でも、だからといってすべてを疑ってしまったら…そんなの悲しい。信じることに理由なんていらないんだ」
花「裏切られても良いというのか?私は嫌だ。だから疑うのだ」
木「私はすべてを知っているからな。裏切られることなどない」
ポール「僕はちゃんと受け入れているよ。でも…すべてを知るのはやっぱり怖い。疑うのも怖い…だって、疑ったら新しいことを知ってしまうかもしれないでしょ?知るのは怖い。知らなくて良いものもあるんだ。だから僕は、知りたくないから、信じているのかもしれない」
アリス「大丈夫?」
ポール「うん」
木「いろいろな使命が交錯しているね」
ポール「さっきも言っていたけど…どういうこと?」
木「女王を止める使命、君を助ける使命」
ポール「僕を?」
木「そう、2つの使命」
時計屋「僕だよ」
アリス「時計屋さん、来てたんだ」
ポール「どうして?」
時計屋「そんなことより、何を知りたくてここに来たんだ?」
ポール「女王にとりついている悪魔を何とかしたいんだ。その方法が知りたい」
時計屋「長老、教えてあげてくれ」
木「毒を飲ませることだ。ショックを与えれば正気に戻る。でも強い毒ではいけない。死んでしまうからね」
花「死なない程度に弱い毒」
時計屋「そんなもの…どうしたらいいんだ」
アリス「ポール、このままじゃ…」
ポール「これを、使って」
ポール、いつも飲んでいる薬を出す
アリス「え?」
時計屋「それは?」
ポール「これを、女王に飲ませればいいんだね?」
木「それが毒なのだとしたら」
ポール「それは、あなたなら知っているはずですよね」
木「無論」
時計屋「だとすれば、君の手で飲ませるんだ」
ポール「僕の手で?」
時計屋「そう、君がやるべきだ。君が助かる方法はそれしかない。いいね?」
ポール「僕が…助かるため…」
時計屋「そうだ。断ち切るんだ、自分の手で」
ポール「…」
時計屋「ポール。待ってるからね」
時計屋、去る
木、花、いつの間にか消えている。
(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
アリス「ねえ…私、今頭が混乱しているの」
ポール「……」
アリス「さっきの薬、いつもポールが飲んでいる薬だよね?」
ポール「そうだけど、それがどうかしたの?」
アリス「だよね、だよね…良かった、私てっきり…」
ポール「毒だよ」
アリス「え?ちょっと…うそ」
ポール「あれで……助かるんでしょ?」
沈黙
ポール「ごめん」
アリス「あれが毒だって…お母さんは知っているの?」
ポール「そんなことはどうでもいいんだ」
アリス「どうでもよくないよ…ポール、私嫌だよ…なん、で、そんな…」
アリス、うとうとする
BGM、フェードアウト
ポール「大好きな母さんが飲むようにって言うんだ。僕のことを愛してくれている母さんが。理由なんてそれで充分なんだ。それが毒だろうと関係ない。僕は言われた通り飲み続けるだけなんだよ。何年だって…何年だって…」
アリス、いつの間にか寝ている。
ポール「寝ちゃったか」
アリスの表情が目に入る
ポール「こんなに悲しそうな顔をして…」
アリスの頭を撫でる
ポール「ごめんね…アリス…ごめん…。こんなにも…それなのに僕は…」
ポール「アリス…やっぱり君と一緒に…ずっと一緒にいたい。目を覚まして」
そう言いながらアリスのゼンマイを巻く
目を覚ますアリス。
(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
アリス「ポール…私、一人になるのがこわいよ」
ポール「アリス…もうあの薬は飲まないよ」
アリス「本当?」
ポール「うん、約束する」
アリス「これからも、私のこと起こしてくれる?」
ポール「もちろん。何度でも起こすよ」
アリス「…時々ね、眠るのが怖い時があるの。このまま、ポールと会えなくなるんじゃないかって」
ポール「大丈夫。居なくなんてならないよ」
アリス「嬉しい」
ポール「あのさ……」
アリス「何?」
ポール「この旅行が終わったら…眠りの森で一緒に暮らさない?」
アリス「うん」
ポール「ちょっと、あのネコが鬱陶しいけどね」
アリス「うん、ちょっとだけ」
ポール「じゃあ、行こうか。女王のところに」
アリス「うん」
ポール「これが終わったら、二人で静かに暮らそう」
アリス「うん」
暗転
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M17「女王の城」
アリス、ポール、時計屋、木、花、ネコ、ウサギ、鳥
(全員)
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
何が起こるか 何が起こるか 女王の城で
(時計屋)
本当の 愛の形求めて
小さな幸せ 手にするために
立ち上がるんだ
(全員)
倒せ 倒せ 倒せ 倒せ 悪魔を
断つんだ 君の手で
君の手で 君の手で 君の手で
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
女王の城へ 女王の城へ 女王の城へ
何が起こるか 何が起こるか 女王の城で
ポール、力なくその場に膝をつく
ポールを残し、全員はける。
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少年、IN
少年「お兄ちゃんは行かないの?」
ポール「疲れちゃったみたい」
少年「お病気?」
ポール「はは、そう。お病気なんだよ」
少年「お薬、持ってきてあげるね」
ポール「ありがとう。でも、大丈夫だよ。お薬、持ってるんだ」
少年「うん、わかった」
ポール「お母さんは?」
少年「お仕事」
ポール「そっか。お母さんいなくて寂しい?」
少年「うん。ときどき泣いちゃうんだよ」
ポール「1人で?」
少年「お母さんがいるときも、泣いちゃう」
ポール「あんまり心配させちゃダメだよ」
少年「いつもお利口にしてるから大丈夫」
ポール「そうだったね。君はお利口さんだ。…僕も、お利口さん」
少年「お兄ちゃんも?」
ポール「そう。僕たちは、お利口さんなんだ」
2人、消えていく。
暗転
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シーン⑦【女王の城】
M18「坊や」
※バックに坊やの泣き声が入っている
(女王)
坊や 怪我の具合はどう?
無理をしては駄目よ
お母さんが 何でもしてあげるからね
オムツは大丈夫?
絵本読んで欲しいの?
欲しいおもちゃがあるんじゃない?
お腹は大丈夫?
すいているわよね?
何が食べたい?
オムライス?
それともミルク?
ソーセージたっぷりのポトフ?
甘いのが食べたいのかな?
クッキー?
チョコレート?
フルーツパフェ
ああああ うるさい
まだ元気が残っているようね
だったら何も出来ないように
してあげるわ
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女王、坊やを攻撃しようとする
アリス、IN
(環境音)坊やの泣き声
アリス「やめて」
女王「あら、アリスじゃない」
アリス「え?…私のこと…何故?」
女王「ふん」
アリス、女王の顔に見覚えがある。
アリス「うそ、まさか…」
一緒に来たはずのポールがいない
アリス「え?ポール?」
女王「どうしたんだい?私を止めに来たんじゃないのかい?」
アリス、ポールを必死で探す
女王「探したって無駄だよ」
アリス「どういうこと?」
女王「ごちゃごちゃうるさいんだよ」
アリス「ポール、あなたが女王を止めるんじゃなかったの?一体どこに…」
女王「ごちゃごちゃうるさいんだよ」
アリス、意を決する
アリス「……なんで、あの子をイジメるんですか?」
女王「イジメる?」
アリス「まさか、これが教育だって言うんですか?」
女王「教育?」
アリス「愛してないんですか?」
女王「愛しているさ」
アリス「だったら何故傷つけるようなことを…」
女王「愛しているからよ、心からね」
アリス「どういうこと…」
女王「ヒントをあげようかしらね」
アリス「遊んでいる暇はないわ。ポールを探さないと」
女王「ごちゃごちゃ言うと、首を跳ね飛ばすよ」
アリス「それは困ります」
女王「ふん。……例えば…そうね。大人の犬と、子犬だったら、どちらが可愛いかしら」
アリス「どっちも可愛いけど、でもやっぱり子犬かな」
女王「子犬は可愛いわよねぇ。なんで?」
アリス「え…なんでだろう。ふわふわして可愛いし…」
女王、頷きながら聞く
アリス「あとは…ヨチヨチしてて、コロって転んじゃったり…」
女王、頷きながら聞く
アリス「色んな所でオシッコしちゃったりするけど、何か逆にそういうところが可愛かったりもするし…」
女王、満足気な表情
女王「要は、手がかかるほど可愛いんじゃないか…ってことね?」
アリス「ちょっと極端だけど、間違いではないわ」
女王「そういうことよ」
アリス「どういうことよ」
女王「そういうことよ」
アリス「どういう…」
女王「うるさい」
女王「あなたには分からないかもね、ええ、分からなくて当然ね。いつまでも子供でいてほしい、手のかかる子でいてほしい、ずっと面倒をみていたい…っていう母親の気持ちが」
静寂。坊やの鳴き声だけが響いている
アリス「嘘でしょ?…面倒をみたいから、わざと弱らせているってこと?」
女王「あなたには分からないわ」
アリス「信じられない…」
女王「だから、あなたには分からないでしょうね」
アリス「ええ、分からないわ。人は成長していくのよ。あの人もそう。出会った頃はあんなに小さくて、わがままで泣き虫で…可愛かった。当然、今はすっかり大人よ、でもね、私は変わらず愛している。成長するにつれて失われるものは確かにある。だけど、それと同じだけ新しい魅力が増えていくの。むしろ、時が経てば経つほど愛情があふれてくる。でもあなたはどう?時が止まっているのよ。なんて不幸なんでしょう…」
アリス、女王を優しく抱く
アリス「大丈夫。もう大丈夫だから」
環境音、フェードアウト
女王「あの子も、人形のように歳をとらず、ずっとそのままでいてくれれば…そんな風に思っていた。でも、時の流れには抗えない…だから、せめて…」
アリス「人形…」
アリス、近くにある椅子に座る。
アリス「私は…」
アリス、人形に戻る
女王「アリス、ありがとう。あの子はきっと幸せよ。ずっと、あの子のそばにいてあげてね」
暗転
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シーン⑧【部屋】
(環境音)暖炉の火
ここはポールの部屋。
ベッドに横になっているポール。
隣で寝ているアリス。
暖炉の火が揺れている。
ポール、アリスのゼンマイを巻く。
ポール「アリス、おはよう」
アリス「うん」
ポール「…大丈夫?」
アリス「ごめんね、寝ちゃってた」
ポール「ううん、僕も寝ちゃってたから」
アリス「私、夢見てた」
ポール「どんな夢?」
アリス「ポールとね、旅行に行ったの。眠りの森で迷ってね、そこで…」
ポール「眠りの森?」
アリス「うん。あ、でもね、眠りの森って言っても、眠らない森ってことで…」
ポール「え?どういうこと?」
アリス「あ、いや、眠らないっていうか、眠くならない森ってこと」
ポール「そっか、もしそんな森があるのだとしたら、僕はそこでアリスと二人で暮らしたいよ」
アリス「え?…どうして、そう思うの?」
ポール「だって、君も眠くならないで済むし、そうすればずーっとお話が出来るでしょ?」
アリス「私、いつも肝心なところで寝ちゃうものね」
ポール「うん」
なごやかな雰囲気
ポール「…ごめん」
アリス「ん?」
ポール「…アリス、実はね、もう君を起こしてやれそうにないんだ」
環境音、フェードアウト
アリス「え?」
アリス「どういうこと?」
ポール「僕にはもう…。実はね、もう体に力が入らないんだよ」
アリス「えっと…」
ポール「最後に(ゼンマイを)目いっぱい巻く。だから、どこか君が行きたいところに行くんだ。長い時間は難しいかもしれないが、目いっぱい巻けば少しは遠くにいけるかもしれない」
ポール、最後の力を振り絞ってアリスのゼンマイを巻く
ポール「アリス、今までありがとう」
ポールはゼンマイを巻いている
ポール「アリス、君がいてくれたおかげで、僕の人生は最高のものだったよ」
ポールはゼンマイを巻いている
ポール「旅行………行きたかったね…一緒に行きたかった」
ポール、手が止まる
ポール「ごめん…もう巻けないや」
アリス「旅行、行ったよ」
ポール「夢の中でね」
アリス「違うよ」
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M19「想像の世界」
(アリス)
いつも この部屋の窓から
色々なものを見てたでしょ
森だって 山だって 湖だって
遠くにお城も見えた
そこから二人で 色々想像しあって
楽しかったな
(ポール)
セリフ)ウサギの門番がいるお城
(アリス)
セリフ)その門番が 仕事をサボって湖に いたのよね
(ポール)
セリフ)そんなこと 言ったかな?
(アリス)
セリフ)言ったよ
(二人)
いつも この部屋の窓から
色々なものを見てた
鳥だって 花だって 野良猫だって
遠くに一本杉も見えた
※以下、M3のリプライズ
窓のある部屋に暮せば
流れる雲を 眺めて
どんな形に変わるのか そんな遊びができる
窓のある部屋に暮せば
2人で想像し合えば
どこにだって行ける
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悲しい笑顔
アリス「窓さえあれば…いつだって旅行に出られるの」
ポール「アリス、早く行かないと。僕はもう君を起こしてやれないんだ」
アリス「ううん。いいの。私が一番行きたい場所は、ここなんだから」
ポール「…………僕が眠るまで起きていてくれる?」
アリス「起きているよ」
ポール「ありがとう」
暖炉の火が小さくなる
アリス「さっきの夢の続き、話してもいい?」
ポール「うん、聞かせてほしい」
アリス「あのね、眠りの森で、変なネコにであったの」
ポール「そっか、どんなネコなの?」
暖炉の火が小さくなる
アリス「なんかね、意味の分からない話し方をするネコでね、なんだっけ…確か…君は、僕と話をしている。僕も僕なんだ。でも、君も僕のことだ。ということは、僕は僕と話をしているって…」
ポール「ちょっと待ってよ、どういうこと」
暖炉の火が小さくなる
アリス「そうしたら今度はウサギが出てきてね、あ、そういえば近くにお城があったかも……あれ?起きてる?」
ポール「起きてるよ。…ウサギが出てきて、どうなったの?」
暖炉の火が小さくなる
アリス「……あれ?どうなったんだったけ?」
ポール「忘れちゃったの?」
アリス「ち、ちがうわ、あれよ、タンスに…しまったのよ…」
アリス、うとうとしはじめる
ポール「それ、僕が言ったやつじゃん。…で、どこの引き出しにしまったのかな?」
暖炉の火が小さくなる
ポール「あれ?……寝ちゃった?」
アリス「…起きてるよ」
暖炉の火が小さくなる
アリス「ポール?」
ポール「何?」
アリス「良かった。起きてた」
ポール「眠くなってきた?」
アリス「うん、少し」
暖炉の火が消える。観客からは2人の姿は殆ど見えない
静寂
ポール「アリス」
アリス「何?」
ポール「僕のこと、いつから好きでいてくれたの?」
アリス「ずっと」
ポール「ずっと?」
アリス「ずっと」
静寂
ポール「起きてる?」
アリス「うん」
ポール「手、つないでいい?」
アリス「いいよ」
静寂
ポール「アリス」
アリス「ん?」
ポール「ありがとう」
アリス「こちらこそ」
静寂
ポール「アリス」
静寂
ポール「アリス…」
静寂
ポール「おやすみ」
暗転
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シーン⑨【部屋】
(BGM)ゼンマイ仕掛けの少女
部屋にアリス、幼い頃のポール
アリス「あの雲見て。何に変わると思う?」
ポール「えーっとね」
アリス「うん」
ポール「えーっと」
アリス「うん」
ポール「ヘビ」
アリス「ヘビ?怖いなぁ」
ポール「怖くないよ」
アリス「じゃあ、ちょっと待ってみようか。ヘビに変わるかなぁ」
母親、IN
母親「ポール。今日は体調も良いみたいだし、天気もいいからお散歩でも行く?」
ポール「うん。アリスも一緒に行く」
母親「アリスはね、お留守番なの。だって、お家に誰もいなくなったら、ドロボウさんが来ちゃうでしょ?」
アリス「それもそうね」
母親「楽しそうな声が聞こえてたけど、何してたの?」
ポール「雲遊び」
母親「雲遊び?なにそれ、お母さんにも教えてくれる?」
ポール「うん。あのね、あのね…」
ポール、窓を指差し何やら説明している
それを優しく聞いている母親
窓から差し込む光が、3人を暖かく包んでいた。
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終


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