廻る木馬(男3 女4 60分)【演劇脚本】

長編

〈あらすじ〉

愛がいっぱいになることで、その相手の記憶だけを失ってしまう翔平は、恋人の彩との恋愛を何度も繰り返していた。辛い運命を辿る二人であったが、彩は毎回「はじめまして」から始まる恋を楽しんでいるようにも見えた。まるでメリーゴーランドにでも乗っているかのように。

〈登場人物〉

ソト  回転男

リン  回転女(新人)

彩  女子大学生

翔平  男子大学生

凛太郎  男子大学生

成美  女子大学生

佳乃  翔平の母親


舞台上には

①学食(学生のシーン)

②公園(彩と佳乃のシーン)

③その他(彩と翔平のシーン)

以上の3つの場がある。基本的に暗転はせず、照明の切り替えで場面が変わる。その度に、彩が舞台上の場面を「廻る」イメージ。

ソト、リンが演出的に場面転換を行う。

——————————-

◆オープニングダンス ※カット可能

  翔平、佳乃のダンス

  曲中、彩がやってくる。翔平と彩の出会い。

  暗転

◆シーン1

  ソト、リン、人間界を見ながら話をしている

リン「うわー、おー、すげー、こんな感じなんですね」

ソト「回ってるね」

リン「回ってます」

ソト「まさに回るべくして回っているようだね」

リン「見事過ぎて、回っていることにすら気づいていないかもしれません」

ソト「それは言い過ぎ」

リン「言い過ぎました」

ソト「まぁでも見事に回ってるね、それは間違いない」

リン「ていうか…」

ソト「なに」

リン「いや…」

ソト「あーーー疑ってるでしょ」

リン「すみません」

ソト「じゃあ何?回そうとしていないのに、勝手に回っているってこと?勝手に回るべくして回っているって、そういうことを言いたいんですかー?」

リン「いや、でも、さすがにアレですよね、フラフープ…」

ソト「フラフープはね、僕が回してるんだよ」

リン「え、本当ですか」

ソト「そうだよ、あとはあれ、床屋さん」

リン「え?あのくるくる回ってるやつですか?」

ソト「そうだよ、あれも僕」

リン「すごい」

ソト「回ってるものは全部僕」

リン「洗濯機」

ソト「僕」

リン「車のタイヤ」

ソト「僕」

リン「お手玉」

ソト「僕」

リン「えーっと」

リン「山手線」

ソト「僕」

リン「すごすぎ」

リン「あ、でも、さすがのソトさんでも回していないものがありますよ」

ソト「なるほど、とりあえず言ってみて」

リン「目が回る」

ソト「それも僕」

リン「オーマイガ」

ソト「回ってるものは全部僕」

リン「あのメリーゴーランドも」

ソト「もちろん僕だよ」

リン「順番待ちしている、あの女の子、悲しそうな顔してますね」

ソト「そうだね」

リン「楽しくないのかな」

ソト「そうでも無かったよ」

リン「どういうことですか?」

ソト「さっきも乗っているからね。その時は楽しそうだったよ」

リン「飽きちゃったのかな?でも、だったら何でもう一度並んでるんだろう」

ソト「さぁね。乗ってしまったら回すしかないからね。それが僕の仕事」

  ソト、指を鳴らす

  照明、学食に切り替わる。

◆シーン2 学食

  翔平、成美、テーブルについている

  二人は勉強をしているように見える

  そこに凛太郎がやってくる

凛太郎「なに、似合わないことしてるじゃん」

成美「どういう意味?」

翔平「どういう意味だよ~」

凛太郎「はいはい。英語でしょ?教えようか?」

成美「ほんと?」

翔平「ほんとにほんと?」

凛太郎「いいよ、サークルいくまで時間あるし。成美は今日はどうするの?」

成美「んー私は今日はやめとく」

翔平「俺たち忙しいもんな」

成美「そうそう」

凛太郎「これじゃ、俺が暇みたいじゃん」

成美「え?ちがうの?」

凛太郎「さて、もう行こうかな」

翔平「待って待って、教えてくれるんでしょ?」

凛太郎「はいはい。で、何教えればいいの?」

成美「えっと、これなんだけどさ。手のひらに収まるように、このくらいのサイズにしてみたんだけど。これ以上大きくしたら、流石にバレるよね?」

凛太郎「えーーっと。うん、大きくするんじゃなくて、裏側にもびっしり書いてみたらどうかな?」

翔平「おー、ナイスアドバイス」

凛太郎「どうもありがとう」

成美「さすが、凛太郎。カンニングの才能もあるんだね」

凛太郎「ないないない。あのね、そんな事に時間を使う暇があれば、普通に勉強したらよくない?」

成美「そりゃそうだけどさぁ」

翔平「あのさ、カンニングは芸術なんだよ。ただ怠けたい、だとかズルしたい、なんてものじゃない。凛太郎はカンニングを何だと思ってんの」

成美「なにそれ」

凛太郎「不正行為」

凛太郎「卑劣」

凛太郎「最悪」

凛太郎「最低な行為」

凛太郎「姑息な手段」

凛太郎「下品」

凛太郎「汚い」

凛太郎「卑怯」

凛太郎「馬鹿」

凛太郎「あほ」

凛太郎「間抜け」

凛太郎「くず」

凛太郎「童貞」

凛太郎「ペテン」

凛太郎「消えてください」

翔平「途中からただの悪口じゃん。て、ていうか…童貞じゃないし」

成美「ぷっ(吹き出す)」

  彩がやってくる。

彩「楽しそうだね」

成美「楽しくないって、彩も手伝ってよ」

彩「うん。いいよ」

凛太郎「彩、だまされるな」

彩「え?」

凛太郎「ほら」

彩「あ、カンニングペーパー」

成美「ちがうちがう、小さい紙に書くとさ、集中力が上がって、勉強の効率が上がるんだって」

彩「え、そうなの?知らなかった」

成美「彩も一緒にやる?」

彩「うん、やる」

凛太郎「こらこら」

翔平「(彩に)えっと、こんにちは」

彩「……」

凛太郎「あ、そっか、あれだよね、初めましてだよね」

成美「そっか、そうだよね。ごめんごめん」

凛太郎「えっと、同じサークルの彩」

翔平「どうも」

凛太郎「で、こっちが、同じ学部の翔平」

翔平「どうも…てか、大人しいね」

成美「この子、人見知りだから」

翔平「何学部?」

彩「教育学部」

翔平「へー優秀」

彩「そうでもないよ」

翔平「そっか…。あのさ、うちら(凛太郎と成美)同じ高校だったんだよ」

彩「知ってるよ」

翔平「あれ、そうなの?」

凛太郎「俺らの中で、時々翔平の名前出てたから」

翔平「あ、そうなんだ。なんか照れる」

成美「照れるところじゃないし」

翔平「俺ら、空き時間は大体ここにいるんだけど、彩ちゃんは?」

彩「私は……特に決めてない」

翔平「そうなんだ、じゃあ、ここ来なよ。お昼とかもここで食べたらいいじゃん」

彩「ありがとう」

  指を鳴らす音

  照明、公園に切り替わる

  彩、独白

  喋りながら佳乃の元(公園)へ

彩「食べたらいいじゃんって、上からですよねちょっと。ていうか、2年前からそこで食べてるんですけどって、思わず口に出しそうでしたよ」

佳乃「確かに、そりゃそう思うよね」

◆シーン3 公園

佳乃「あ、そうだ。彩ちゃんさ、運命の赤い糸って信じる?」

彩「…信じません」

佳乃「そう、意外」

彩「そんな風に見えますか?」

佳乃「ううん、そんな変な意味じゃなくて。そう信じてるから、あの子と一緒にいてくれるのかなって」

彩「なるほど、そういうことですか」

佳乃「うん」

彩「私が信じているのは、赤い糸…とか、そんなものじゃなくって」

佳乃「うん」

彩「いや、赤い糸なんて信じてたら、一緒になって当たり前…って気持ちになっちゃうと思うんです」

佳乃「うん」

彩「そうじゃなくて。毎回毎回、頑張って好きになってもらうぞっ…て。そんな感じです」

佳乃「なんか照れる」

彩「なんでお母さんが照れるんですか」

佳乃「彩ちゃん、本当にありがとう。あのこには勿体ないくらい良いこ。大好き」

彩「なんか照れます」

佳乃「でね、大好きだから言うんだけど…」

彩「やめてください」

佳乃「え?」

彩「やめてください」

佳乃「でも…」

彩「いいんです。私の意思ですから」

佳乃「そう」

彩「はい」

佳乃「じゃあ、これからも宜しくお願いします」

彩「お願いします」

佳乃「お友達にも、うちの子をお願いします…って伝えておいてね。凛太郎くんと…」

彩「成美」

佳乃「そう、成美ちゃん」

佳乃「あの二人にも本当にお世話になってるから。前は良く遊びに来てくれたんだよ」

彩「高校が一緒だったんですよね」

佳乃「そう。成美ちゃんなんて、中学から一緒」

彩「それは知らなかったです」

佳乃「あの子、あんまり友達がいないでしょ?」

彩「ええ、全然」

佳乃「はっきりいうね」

彩「女の子の友達は結構いるみたいですけど」

佳乃「あれ?ヤキモチ?」

彩「違います。まぁ、仕方ないかなって思います」

佳乃「あ、男の人が苦手なの、知ってるんだ」

彩「はい。小さい頃と違って、今はそれほどでもないみたいですけど。凛太郎とも仲いいですし」

佳乃「そうそう。今は怖いって感じはないみたい。ただ、やっぱり女の子の方が居心地がいいんだと思う」

彩「そんな感じですね」

佳乃「やっぱり妬いてる」

彩「まぁ、ちょっと」

  指を鳴らす音

  照明、バス停に切り替わる

  彩、バス停に歩く

  大学の講義が終わり、帰宅する為にバス停に向かったが、そこには翔平がいた。

◆シーン4 バス停

彩「あ」

翔平「あ、授業おわり?」

彩「うん」

翔平「バスで来てるんだ」

彩「うん」

翔平「どこまで?」

彩「南町」

翔平「そうなんだ、俺東町だから結構近いね」

彩「うん、近い」

翔平「だよねー」

彩「う、うん」

  沈黙

翔平「雨、降らなかったね」

彩「うん、降らなかった」

翔平「降るって言ってたよね」

彩「ん?」

翔平「天気予報」

彩「あ…今日、予報見てなかった」

翔平「そっか。傘、持ってきちゃったよ」

彩「そうなんだ」

翔平「そうなんだす」

彩「え?」

翔平「そうなんです」

翔平「噛んだ」

  笑う

彩「そうなんだす」

翔平「ちょっと、やめてよ」

  笑う

翔平「えっと、ご趣味…」

彩「お見合いみたい」

翔平「ほんとだ」

彩「カメラ、かな」

翔平「え、写真撮るの?」

彩「え?そりゃ…カメラだし」

翔平「ん?」

彩「ううん、実はね、撮るんです写真。カメラで」

  彩、思わず笑う

翔平「なんで笑うの?」

彩「天然だなって」

翔平「なんかおかしいこと言ったかなぁ」

彩「別に」

翔平「うーん」

彩「気にしなくていいよ」

翔平「いや、ていうか、なんかこう、上手く話せないなーって」

彩「そう?」

翔平「緊張してるのかな」

彩「してるのかな」

翔平「してるのかな」

彩「してるのかも」

翔平「してる?」

彩「えーっと?」

翔平「えーっと?」

彩「どっちが?」

翔平「なにが?」

彩「あれ?何の話だっけ」

翔平「なんだっけ」

  笑う

翔平「緊張する」

彩「してんじゃん」

翔平「どうやら、そうなんです」

彩「そうなんだす」

翔平「ちょっと」

  笑う

彩「なんで緊張するの」

翔平「いや、しっかり話すの初めてだし」

彩「…うん」

翔平「そのスカート、かわいいね」

彩「うん」

翔平「緊張する」

彩「こっちまで緊張してくるし」

翔平「バス、遅れてるね」

彩「そうだね」

翔平「でも、流石にそろそろかな」

彩「そろそろかな」

翔平「来ちゃう、かな」

彩「来なければいいのにな」

翔平「え、なんで」

彩「なんでもない」

翔平「うん」

彩「ねぇ、私、歩いて帰ろうかな」

翔平「え?」

彩「翔平は、どうする?」

翔平「俺は、もうちょいバス待ってみる」

彩「…うん、じゃあ、また明日」

翔平「また明日」

  指を鳴らす音

  照明が公園に切り替わる

  彩、独白

  喋りながら、佳乃の元(公園)へ

彩「もうちょいバス待ってみる、じゃないですよね。ここは当然、じゃあ俺も歩くよ…じゃないですか?」

佳乃「あのこらしいけどね」

◆シーン5 公園

佳乃「それよりさ、運命と宿命の違いって知ってる?」

彩「そういう話、結構好きですね」

佳乃「うん、好き」

彩「そうだなぁ。宿命の方が、なんかちょっと重いような気はします」

佳乃「お、するどい」

彩「どうも」

佳乃「運命っていうと、すでに決められている未来ってイメージあるでしょ?」

彩「はい」

佳乃「実はね、運命っていくつもあるんだよ」

彩「どういうことですか?」

佳乃「聞きたい?」

彩「んー」

佳乃「話すね」

彩「あ、はい」

佳乃「運命っていうのは、あくまで未来の可能性ってこと」

彩「えっと、そっか。だから、1つじゃないってことですね」

佳乃「さっすが、ほんと賢いよね。良く言われるでしょ?」

彩「いや、それが意外と…」

佳乃「でね、でね」

彩「あ、はい、はい」

佳乃「良い運命も、行動次第では掴めないし、逆に…悪い運命は…行動次第で…回避…で」

彩「きる」

佳乃「そう、さすが」

彩「どうも」

佳乃「まぁ、良い運命も行動次第では掴めないし、逆に悪い運命は行動次第で回避出来るってことよ」

彩「二回言った…」

佳乃「ねぇ、良い運命って、どうすれば掴めると思う?」

彩「話したいですか?」

佳乃「話したい」

彩「じゃあ、聞きます」

佳乃「うわーほんと?ありがとう…ってなんでやねーん」

彩「あはは…」

佳乃「あのね、良い運命を掴むには、常に正しい行動をとること」

彩「シンプルですね」

佳乃「そう」

彩「でも難しいです」

佳乃「そうだね」

彩「んー。ていうか、何が正しい行動なのか、それが難しいです」

佳乃「正しい行動とは何か…哲学だね」

彩「はい」

佳乃「でも、答えはシンプルかもよ」

彩「そうですか?」

佳乃「うん。何が正しい行動なのかは難しい。でもさ、少なくとも、自分が間違っていると思う行動は、正しい行動じゃないよね」

彩「……確かに。間違っていると分かっていて、やってるんだから、それは正しくないです ね」

佳乃「そう」

彩「なんでこんな話したんですか?」

佳乃「何度も言うようだけど、私は彩ちゃんのこと大好き」

彩「ありがとうございます」

佳乃「だから、彩ちゃんには幸せになってほしい」

彩「だから、それは…」

佳乃「最後まで聞いて」

彩「はい」

佳乃「だからね、良い運命を掴むように、行動して欲しいってこと」

彩「良い運命…ですか」

佳乃「うん」

佳乃「彩ちゃんにとって、どれが良い運命なのかは分からない。でも…」

彩「間違っていると思う行動をとらないこと」

佳乃「そういうこと」

彩「ありがとうございます」

  照明が学食に切り替わる。そこには凛太郎と成美

◆シーン6 成美と凛太郎

成美「運命の赤い糸ってあると思う?」

凛太郎「少女漫画でも読んでる?」

成美「ちがうよ~。どうなのかなって」

凛太郎「初対面なのに、やけに気が合う人っているじゃん?」

成美「いる」

凛太郎「そーいうのって、やっぱり他の人とは違って特別なのかも、とは思うよね」

成美「うん」

凛太郎「でも、見ず知らずの2人が、遠く離れていても繋がっていて、その赤い糸を手繰っていつか出会う…みたいなやつは、ちょっとやり過ぎかな。都合良すぎ」

成美「翔平と彩、また付き合いはじめたよね。明日は動物園デートだってさ」

凛太郎「ああ、そういうことね」

成美「あの二人の場合はどうなんだろうね」

凛太郎「うーん」

成美「物理的に遠く離れているわけじゃないけどさ。でも流石にもう、3回目じゃん?付き合うの」

凛太郎「翔平が何度記憶を失おうが、結局は彩が諦めるかどうか、じゃない?」

成美「そっか、確かにそうだ」

成美「私だったら言っちゃうかも。あなたの彼女なんだよって」

凛太郎「ていうか、諦めたほうがいいよね」

成美「え?」

凛太郎「本当に彩のこと考えたら、そのほうが良くない?」

成美「だめだよ」

凛太郎「なんで?」

成美「何でも」

凛太郎「成美のは感情論」

成美「違うよ、しっかり考えてるし」

凛太郎「ドライな言い方になっちゃうけど、結局は縁があるかどうかでしょ?さすがに次ダメだったら縁が無いとしか思えないよ。それよりも、他に縁を探したほうがいい。彩には幸せになって欲しいし」

成美「他の縁ってなに?自分とでも言いたいの?」

凛太郎「どういうこと?」

成美「はいはい」

凛太郎「ちょっと待てよ、こっちは真剣に話してるんだよ」

成美「私だって真剣だよ」

凛太郎「だったら何で茶化すんだよ」

成美「茶化してない」

凛太郎「茶化しただろ」

成美「茶化してない」

凛太郎「茶化したって」

成美「ていうか…茶化すってどういう意味だっけ」

凛太郎「…まぁいいや」

成美「ごめんバカで」

凛太郎「じゃあさっきのは何?俺が彩のこと好きだって言いたいの?」

成美「違うの?」

凛太郎「違うよ。なんだよそれ。そんなふうに見えてた?」

成美「別に大した意味はないよ」

凛太郎「は?」

成美「別になんでも無いから」

凛太郎「とにかく、彩はもう二回も忘れられているんだ。三回目が来てしまったら、それはもう諦めたほうがいい」

成美「…うん」

  様子を見ていたソト、リン、話し出す

リン「3回目なんですか?」

ソト「まぁ、そうだね」

リン「何でこんな辛い思いをしてまで乗るんですか?」

ソト「僕に聞かれたって困るよ」

リン「そりゃそうですが」

ソト「…」

リン「止めてくださいよ」

ソト「え?」

リン「止めてくださいよ、メリーゴーランド」

ソト「回すことが僕の仕事なの」

リン「でも…」

ソト「乗るかどうかは彼女次第だよ。それに、乗っている時は楽しそうだけどね」

リン「そうかもしれないけど。…じゃあ、楽しむために、敢えて何度も乗っているってことですか?」

ソト「回すことが僕の仕事、それだけだよ」

  ソト、指を鳴らそうとする

凛太郎「ちょっと」

ソト「?」

凛太郎「あの…」

ソト「(私?というジェスチャー)」

凛太郎「そう、あなた」

リン「バレました」

ソト「そのようだね」

リン「こんなことあるんですね」

ソト「たまたまだよ」

成美「(周りを見て)これ、なんか変だよ」

凛太郎「うん」

リン「ここだけ時間の流れを変えているから」

凛太郎「は?」

ソト「朝日が昇り夕日が沈む」

リン「月が出て星が輝く」

ソト「そしてまた朝日が昇る」

リン「その繰り返し」

ソト「春が過ぎて夏が来る」

リン「秋が過ぎて冬が来る」

ソト「春夏」

リン「秋冬」

ソト「季節はめぐる」

リン「季節はめぐる」

ソト「それらもまた回っている」

リン「回っているのです」

ソト「時の流れは回っている」

リン「回っているのです」

成美「えーっと」

凛太郎「どういうこと」

成美「ていうか誰」

凛太郎「ここ、どこ?」

成美「さっきメリーゴーランドって言ってませんでした?あれなんですか?」

ソト「リン」

  リン、頷く

◆リンのダンス ※ムーブメントでも可

  リンが不思議なダンスを踊りだすと、つられて凛太郎、成美も踊りだす。

  成美、凛太郎、リンの不思議な力により、消えていく。

リン「さて、続きといきましょうか」

  ソト、指を鳴らす

  照明、動物園に切り替わる

◆シーン7 動物園

  付き合い始めた彩と翔平。二人が動物園でデートをしている。

翔平「あ…」

彩「ん?」

翔平「彩ちゃん、ここ来たことあるよね?」

彩「え?うそ」

  翔平、一瞬何かを考える

翔平「あ…いや、小さい頃とかさ」

彩「あー。あ、いや、ない、ないよ」

翔平「なにそれ」

彩「良く考えたら、ない。行ったのは…他の動物園」

翔平「そっか…じゃあ僕がエスコートしましょう」

彩「詳しいんだ」

翔平「そうなんです」

彩「そうなんだす」

翔平「そうなんだす」

  笑う

彩「まずは、どこ行く?」

翔平「そりゃあ、やっぱりあれですよ」

彩「どれですか」

翔平「順路通りにいきます」

彩「わー素敵」

  少し歩く

翔平「さて、最初の動物ですが……どうですか?ここのにおい」

彩「そうだね…臭いね」

翔平「この臭いの正体は、フラミンゴです」

彩「うん、ここにいるからね、フラミンゴ」

彩「ていうか、ほんと見事に片足で立ってるね」

翔平「なんで、水辺で片足立ちしてるか、知ってる?」

彩「…え、なんでだろう」

翔平「知りたい?」

彩「話したい?」

翔平「うん」

彩「じゃあどうぞ」

翔平「フラミンゴが水辺で片足立ちしているのは……」

彩「…」

翔平「水が冷たいから」

彩「(ため息)」

翔平「あれ?信じてない?」

彩「そんなわけないじゃん」

  翔平、立て札を指差す。

  そこに書いてある説明を読む、彩。

彩「フラミンゴが片足で立つのは、地上にいるときより水中に時のほうが多いこともわかっています。さらに暖かい日より………寒い日のほうが多いのです」

  翔平、どや顔

彩「そのため、今有力な説は【フラミンゴは片足立ちすることで体温を調節している】というものです。南国のような気候の野生のフラミンゴであっても、水中は空気以上に体温を奪います。そのため、水中に沈んでいる体の表面積を減らすことで、体温やエネルギーを守るのです」

  翔平、どや顔

彩「なに」

翔平「どうも、動物博士です」

彩「むかつく顔~」

 笑う

翔平「中学生のころのあだ名、ムツゴロウさんだったんだよ」

彩「へー。翔平が動物に詳しいなんて知らなかった」

翔平「見直した?」

彩「まだまだ知らないことが多いんだなーって」

翔平「付き合い始めたばっかりだし」

彩「そうだね」

  指を鳴らす音

  照明、公園に切り替わる

  彩、独白

  喋りながら、佳乃の元(公園)へ

彩「こうやって、動物園に来たのも3回目なんですよ。でも、不思議ですよね。翔平は毎回違う行動をとるし、違う話をしてくる。前回来たときは、真っ先にウサギのふれあいコーナーに連れていかれたのに。今回は順路通りにフラミンゴ」

彩「もし、運命が決められているものだとしたら、翔平は毎回同じ行動をとると思う。だからやっぱり、運命は一定じゃないってことですよね」

佳乃「もちろん」

◆シーン8 公園

彩「そういえば、宿命の話、まだ聞いてません」

佳乃「おーーー」

彩「なんですか」

佳乃「求めるね」

彩「話したいんですよね」

佳乃「ええ、とても。ていうか忘れてた、ありがとう」

彩「はい」

佳乃「宿命っていうのは、これはもう、行動ではどうにもならない、決まった未来ってこと」

彩「なるほど」

佳乃「でもね、宿命って考え方、私は嫌いなんだよね」

彩「んー、なんとなく、分かる気がします」

佳乃「でも、一応理由聞きたいでしょ?」

彩「…どうぞ」

佳乃「じゃあ、ありがたく、いただきます」

彩「はい」

佳乃「ちなみに、何でだと思う?」

彩「…もう。まぁ、あれですよね。1つに決められた未来なんて、つまんないですもん。それが良い未来だったとしても」

佳乃「そうだね」

彩「良い未来が宿命で決まっていたら、私なら絶対にさぼる。でも、悪い未来が宿命だったとしても、やっぱり努力はしない。だって決まっちゃってるんだもん」

佳乃「うん」

彩「翔平の病気は、宿命で決まっていたんでしょうか」

佳乃「宿命なんてないよ。運命のうちの1つにしか過ぎなかった」

彩「……」

佳乃「聞きたい?」

彩「話したいですか?」

佳乃「そうでもないよ」

彩「珍しいですね」

佳乃「あなた次第かな」

  彩、少し考える

彩「ここで聞かないのは、間違った行動だと思ったので、聞きます」

佳乃「そっか…。あのね、あのこが高校生の頃、初めて彼女が出来てね」

彩「あ、そういう話になりますか」

佳乃「やめとく?」

彩「続けてください」

佳乃「良く家にも遊びに来たよ。それこそ、凛太郎くんや、成美ちゃんも一緒に。その子もとっても良い子だったんだよ、彩ちゃんに負けず劣らず。でもね、彼女がきっかけで、翔平はああなった」

彩「え?」

彩「何があったんですか?」

佳乃「事故で亡くなっちゃってね」

彩「え、その子が?」

佳乃「うん」

彩「翔平はそれで記憶を?」

佳乃「そう、彼女の記憶だけすっぽり。不思議だよね、他の友達のことは全部覚えてるんだよ。もちろん家族のことも」

彩「でも…私は生きてます」

佳乃「きっと本能的に、愛する人が消えてしまうことを恐れているんだと思う。だから、彩ちゃんへの気持ちが一杯になったときに…ね」

彩「それで、私の記憶だけ消えるんですかね」

佳乃「うん、多分」

彩「しかも、2回も」

佳乃「へー」

彩「なんですか?」

佳乃「意外と冷静」

彩「いや、ちゃんと愛してくれてるんだなって」

佳乃「そう、記憶を失うくらい」

  笑う

彩「それに、今はまたこうして、翔平と一緒にいるんだし。3回目のお付き合い」

佳乃「そうだね」

彩「私、不謹慎かもしれないですが、どこかで楽しんでいるのかもしれません。この状況を」

佳乃「ほんと、やっぱり運命の赤い糸だよ。素敵」

彩「……」

佳乃「自分勝手なのは分かってるけど、それでもやっぱり息子のことはかわいい。だから、出来れば彩ちゃんみたいな子に、ずっとそばにいて欲しいって思ってるよ」

彩「ありがとうございます」

佳乃「今度こそ、良い運命掴もうね」

彩「実は、昨日初めて喧嘩したんです。3回も付き合って初めて」

佳乃「お」

彩「それって自分の中で凄く大きくて。…あ、良い意味で」

佳乃「うんうん」

彩「私たちに必要なことだったと思うし、その……あそこでおもいっきり感情をぶつけたの は、正しい行動だったと思うんです。だから……」

佳乃「良い運命、掴んだかもね」

彩「はい、そんな気がしてます」

佳乃「それを報告したかったんだね」

彩「いえ、本当に報告したいことは他にあって…」

佳乃「…え、彩ちゃん…もしかして」

  指を鳴らす音

  照明、海に切り替わる

  彩、海辺へ向かう。

◆シーン9 夜の海

  1日ドライブをした帰り道、海に立ち寄って休憩する2人。

  彩、翔平に缶ジュースを持ってくる。

彩「はい」

翔平「ありがと」

彩「疲れた?」

翔平「ううん、すっごい楽しかった」

彩「うん、楽しかったね」

翔平「今日は何時までに帰れば大丈夫?」

彩「シンデレラの魔法が解ける前には帰してください」

翔平「そっかーさみしいな」

彩「そうだね」

翔平「魔法、解けてもいいのに」

彩「だめだめ」

翔平「どうなっちゃうの?魔法が解けたら」

彩「んー。すっぴんになります。あー恐ろしい」

翔平「すっぴんも可愛いじゃん」

  彩、まんざらでもない

彩「ひげも生えてきちゃう」

翔平「それはそれで、かわいい」

彩「なにそれ、ありがと」

  翔平、一瞬考える

翔平「すみません、前言撤回します」

彩「撤回されるのも微妙な気持ちになるし」

   間

翔平「ガラスの靴、ちゃんと俺に預けていってね」

彩「なにそれ」

翔平「だって、そうすればまたすぐに会えるでしょ?」

彩「無理無理」

翔平「え?」

彩「くさいよ」

翔平「え?」

彩「だって…(笑う)」

翔平「なに」

彩「ガラスの靴、ちゃんと俺に預けていってね(翔平のマネ)」

翔平「なんで、いいじゃん」

彩「だから、くさいって」

翔平「あれ?」

彩「ん?」

翔平「あっ、俺のセリフがくさいってこと?」

彩「そうだよ?」

翔平「彩の足がくさいから…ってことかと」

彩「あ、そっち?」

  笑う

  間

翔平「あのさ」

彩「なに?」

翔平「すっごくおかしなこと言うんだけど」

彩「散々おかしなこといってるけどね」

翔平「うん…」

  間

彩「どうしたの?」

翔平「あのさ、この間…動物園、前にも…彩ちゃんと…」

彩「え?」

翔平「一緒に、行ったとか、あるわけない、よね?」

  間

彩「……私とってこと?」

翔平「そう」

彩「私と、動物園に行ったこと、覚えてるの?」

翔平「ほんとに、行ったってこと?…え?」

彩「落ち着いて、翔平。大丈夫だから。ゆっくり話そう」

翔平「うん」

  間

彩「なんで…そう思ったの?」

翔平「なんでって言われたら、何となく…としか言えない。でも…彩ちゃんのこと、前から  知ってるんだよ、なんだよこれ」

彩「……」

翔平「どうしたの?」

  彩、涙が溢れる。

彩「動物園、行ったよ、一緒に。思い出してくれて、ありがとう」

  翔平、混乱により、彩の涙の意味を考えるに至らない。

翔平「…何とも説明しにくい、感覚…記憶は無いんだけど、何かが残ってる…みたいな、こう、この辺に」

彩「うん」

翔平「俺…あれ?あー、あのさ、彩ちゃんの記憶、失くしてるってことだね?」

彩「そうだよ、2回も」

翔平「え……」

翔平「ちょっと…頭が混乱して。でも、納得してる自分もいる…けど」

彩「大丈夫?」

翔平「こわい」

彩「大丈夫、私、いるよ」

翔平「俺、彩ちゃんのこと、大好きなんだよ」

彩「ありがとう」

翔平「忘れたくない」

  翔平、震えが止まらない

彩「翔平」

翔平「忘れたくない」

翔平「忘れたくない」

彩「大丈夫」

翔平「忘れたくない」

彩「大丈夫だよ」

翔平「きっとまた忘れちゃう」

彩「忘れたっていい」

翔平「…え?」

彩「忘れてもいいよ」

翔平「何言ってるの?」

彩「たとえまた忘れたとしても、私たちは必ずまたこうやって出会えるから」

翔平「そんな保証ないよ、それに記憶がリセットされたら、なんの意味もない。大事な思い出なんだよ」

彩「リセットされてないよ、残ってた」

翔平「残ってない」

彩「残ってたじゃん」

翔平「分かるのかよ、この感覚が」

彩「分かんないよ」

翔平「じゃあ、簡単に言わないでよ。彩ちゃんはいいよね、リセットされるのは俺だけで、彩ちゃんは記憶が残ってるんだから。ずるいよ、なんで俺だけ」

彩「私だって」

彩「私だって怖い…ふざけんな」

彩「私だって怖いよ」

  彩、思わず声を荒げる。

  翔平、頭を抱える。

  間

彩「ごめん」

翔平「忘れたくない」

彩「うん」

翔平「忘れたくないよ」

彩「うん」

翔平「彩ちゃんのこと、忘れたくない」

彩「うん、忘れないで」

翔平「うん」

彩「私のこと、忘れないで」

翔平「うん。忘れない」

彩「大丈夫、ちゃんと残ってたよ。だからもう、忘れない」

翔平「そうだよね。彩ちゃんのこと知ってた。体が記憶してた」

彩「きっと、もう大丈夫」

  間

翔平「そうだよ…俺、覚えてた。いや、思い出した」

彩「全部…思い出した?」

翔平「全部かどうかは…わからない」

彩「うん。ゆっくりでいいよ」

翔平「うん」

彩「…おかえり」

翔平「うん、ただいま」

彩「これからも、よろしくね」

翔平「うん」

  間

翔平「彩ちゃん、ありがとう」

彩「どうしたの」

翔平「寂しくなってきちゃった」

彩「なんで?」

翔平「そろそろ帰らないと」

彩「そうだね」

翔平「寂しいな」

彩「明日も大学だよ」

翔平「うん」

彩「すぐに会いに行くね」

  暗転

  指を鳴らす音

  照明、学食に切り替わる

◆シーン10 学食

  翔平、凛太郎、成美が学食で話をしている。

  楽しそうに盛り上がっている。

  そこへ彩がやってくる。

彩「楽しそうだね」

成美「楽しくないって、彩も手伝ってよ」

彩「うん。いいよ」

凛太郎「彩、だまされるな」

彩「え?」

凛太郎「ほら」

彩「あ、え?反省文?」

成美「ちがうちがう、何もしてないんだよ?でも、したと想定してさ、反省文とか始末書とか書くと、すごーく文章力がつくんだよ。そういうトレーニング」

彩「え、そうなの?知らなかった」

成美「彩も一緒にやる?」

彩「うん、やる」

凛太郎「こらこら」

翔平「(彩に)えっと、こんにちは」

彩「…え?うそ…」

  彩、一瞬頭が真っ白になる。

  凛太郎、成美も動揺を隠せない。

凛太郎「あ、そっか、あれだよね、初めましてだよね」

成美「そっか、そうだよね。ごめんごめん」

凛太郎「えっと、同じサークルの彩」

翔平「どうも」

凛太郎「で、こっちが、同じ学部の翔平」

翔平「どうも…てか、大人しいね」

成美「この子、人見知りだから」

翔平「何学部?」

彩「教育学部」

翔平「へー優秀」

彩「そうでもないよ」

翔平「そっか…。あのさ、うちら(凛太郎と成美)同じ高校だったんだよ」

彩「知ってるよ」

翔平「あれ、そうなの?」

凛太郎「うちらの中で、時々翔平の名前出てたから」

翔平「あ、そうなんだ。なんか照れる」

成美「照れるところじゃないし」

翔平「俺ら、空き時間は大体ここにいるんだけど、彩ちゃんは?」

彩「私は……特に決めてない」

翔平「そうなんだ、じゃあ、ここ来なよ。お昼とかもここで食べたらいいじゃん」

彩「ありがとう」

  暗転

  彩にのみ照明があたる

  ソト、リンがやってくる

ソト「お疲れさまでした。楽しんでもらえましたか?」

彩「はい」

リン「本当に、楽しかったですか?」

ソト「リン」

リン「だって」

彩「楽しかったですよ。だって、いつも新鮮な気持ちになれるから」

リン「さっきはあんなに落ち込んでたのに」

彩「でも、すぐにまた会えるから」

リン「え、まさか…」

ソト「もう一度乗るんだね?」

彩「はい」

リン「でも、メリーゴーランドですから、必ず同じ場所に戻ってくるんです…だから…」

ソト「リン」

彩「はい、それは何となく分かってます」

リン「そんな…それなのになんで」

彩「いいんです。…いいんです、それで」

  ソト、一つ息を吐く

ソト「回すことが僕の仕事であって、このメリーゴーランドを作ったのは僕じゃない」

彩「え…」

ソト「だから、降り口を決めるのは君たち次第。だって、君たちのメリーゴーランドだからね」

彩「良い運命を掴むのも、自分たちの行動次第…」

ソト「そう。宿命なんてない。でしょ?」

彩「はい」

リン「じゃあ…」

ソト「回すことが僕たちの仕事。ただそれだけだよ」

リン「そうですね」

彩「私、頑張ります。良い運命を掴むまで」

ソト「もう一度お乗りになりますか?」

彩「はい、お願いします」

ソト「わかりました。リン」

リン「はい」

  リン、頷く

◆リンのダンス ※ムーブメントでも可

  リンの案内により、メリーゴーランドに乗る彩

  ソト、バス停に翔平を連れてくる

  リン、彩をバス停に行かせる

  またバス停で会う彩と翔平

  幸せそうな二人を残し、ゆっくりと暗転

  終わり

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