夏!駆け抜けてビー玉(男3 女6 子役2 100分)【演劇脚本】※歌、ダンス多め

長編

〈あらすじ〉

とある8月。とある田舎の加藤家で起こるお話。東京で挫折したケンイチが田舎に帰ると、実家が民泊をやっていることが発覚する。そこに宿泊していた夏樹に恋をするケンイチだったが、実家に棲みつく幽霊の幸子と三角関係に…?ケンイチの恋の行方やいかに。ひと夏のドタバタコメディ。

〈舞台〉

舞台上、加藤家の居間

舞台前面には縁側があり、その先に庭がある

〈登場人物〉

◆加藤ケンイチ

28歳。東京で働くも挫折。女好きだが不器用。通称:ビー玉、ビー玉男

◆加藤由美

50歳。ケンイチの母。2年前から自宅で民泊を始める。肝っ玉系母さん。

◆加藤奈々

20歳。ニート。密かにアイドルを目指している。功太に気がある。ツンデレ系女子。

◆鈴木幸子

享年25歳。2年前から加藤家に棲む幽霊。死んでる系女子。

◆水元夏樹

21歳。大学四年生。失恋を癒すため、田舎に民泊。魔性系女子。

◆山崎功太

28歳。ケンイチの幼馴染。友達思いのいいやつ。ちょっと鈍感。

◆ンジンガ

アフリカ系女性。日本文化を学ぶために民泊。謎めいている。

◆佐々木めぐみ

28歳。みく、めい、かんたの母。田舎に移住するため、お試しで民泊。

◆みく

小6。しっかり者の姉。

◆めい

小3。学校になじめない。それがキッカケで家族で田舎に移住することに。

◆かんた

幼稚園児。

◆変なおじさん

とても変なおじさん

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【オープニング】

   BGM:蝉の声

   ケンイチが立っている

   BGM:カットアウト

ケンイチ「俺は、女の子が、大好きです」

M:オープニングダンス  

   暗転

   BGM:蝉の声

   点灯

【1日目 昼】

   夏樹、居間に座っている

   由美、台所から来る

   夏樹に麦茶を出し、また台所に戻っていく

   玄関からケンイチの声

ケンイチ「ただいまー」

   夏樹、ソワソワする

ケンイチ「おーい、ケンイチだけどー?」

   夏樹、ソワソワする

ケンイチ「入るよー」

   ケンイチ、居間に入る

   目が合う2人

ケンイチ「失礼…しまーす」

   ケンイチ、座る

ケンイチ「どうも」

夏樹「どうも」

ケンイチ「どうも〜」

夏樹「……」

ケンイチ「あの…せ、せ」

ケンイチ「せめてお名前だけでも」

夏樹「え?」

ケンイチ「せめて、あの、あの、あの、せめて…」

夏樹「あの」

ケンイチ「はい」

夏樹「いろいろ、すっとばしましたね」

ケンイチ「すっとばしました?」

夏樹「はい」

ケンイチ「…どうも~」

夏樹「息子さんですよね?」

ケンイチ「あれ?ご存じで?」

夏樹「由美さんから聞いていたので」

ケンイチ「え?母さんに?えっと…君は、親戚の方?」

夏樹「いえ、全然。私はただの宿泊客です」

ケンイチ「宿泊客…って何?」

夏樹「え?ここに、泊まってるんですけど」

ケンイチ「なにそれ、まるで民泊じゃん」

夏樹「民泊ですよ?」

ケンイチ「やってるの?民泊?…いつの間に」

夏樹「知らなかったんですか…」

ケンイチ「まぁ…ね。でも、うちの母さんなら全然あり得るか」

夏樹「なんか、色々苦労してきたんですね」

ケンイチ「今度お茶でも」

夏樹「すっとばしてます」

ケンイチ「またすっとばした?」

夏樹「はい」

ケンイチ「難しいな」

夏樹「ちょっと会話の流れを整理しましょう」

ケンイチ「ぜひ」

夏樹「久しぶりに実家に帰ってきた」

ケンイチ「うん」

夏樹「居間に入ったら、見知らぬ女がいた」

ケンイチ「うん」

夏樹「まず、どう思いました?」

ケンイチ「せめてお名前だけでも」

夏樹「…そっか…そうでしたね。じゃあ、次にどう思いました?」

ケンイチ「この子、誰なんだろう」

夏樹「次は?」

ケンイチ「かわいいなぁ」

夏樹「次は?」

ケンイチ「付き合いたいなぁ、デートしてくれるかな?手、つなぎたいなぁ…」

夏樹「ダダ漏れてますよ」

ケンイチ「漏らしてます」

夏樹「意図的なんですね、最低です」

ケンイチ「誘導尋問です」

夏樹「違います」

ケンイチ「はい」

   台所から、由美の声

由美「(台所から)ちょっと、ケンイチ?」

ケンイチ「(台所に)ただいまー、あがってるよ。ていうか何、民泊始めたの?」

由美「(台所から)なにもう、連絡くらいしなさいよ、本当に…」

   由美、なにか言いながら台所からやってくる

   背後に女の幽霊(幸子)が取り憑いている

ケンイチ「う、うわおおおおおおおおおおおお」

由美「ちょっと、何、そんなに驚く?」

ケンイチ「え?え?え?え?え?」

由美「夏樹ちゃん、ごめんね、息子のケンイチ」

夏樹「はい、今話してたところです」

ケンイチ「母さん、その…(幸子を指差す)」

由美「あんた、急に帰ってきてどうしたの?」

ケンイチ「い、いや。え?…ていうか、別にいいだろ?それより民泊やってるって聞いたけど…」

由美「やってるよ。ていうか、うちに男がいないから夏樹ちゃん泊めたのにさ」

ケンイチ「いや、実家なんだから急に帰ったっていいだろ、だいたいさ…」

由美「ご飯だってさ、無いよ?あんたの分。今夕飯の支度始めちゃったところだからね、どうするの?食べるの?」

ケンイチ「いや、食べるにきまっ…」

由美「何が食べたいの?シャケ焼こうと思ってたんだけど、あんたお魚あんまり好きじゃなかったよね?」

ケンイチ「どちらかと言えば肉派ってだけで、別にシャケ…」

由美「ハンバーグ?ハンバーグでいいね?」

ケンイチ「ちょっと、いいよ俺もシャケ食べ…」

由美「お母さんは、ハンバーグの材料を買いに行くよ?あんたも来る?」

ケンイチ「俺はいいよ」

由美「そう。ついでにトイレットペーパーも買いたいから、荷物多くなるんだけどね」

夏樹「じゃあ、私ご一緒しますよ」

由美「ほんと?悪いね、お客さんなのに。じゃあ、財布取ってくるから」

   由美、言いながら台所に消える

夏樹「嵐のようだね」

ケンイチ「うん…ていうか…さっきの…(幽霊のことを言おうとする)」

夏樹「ん?…ああ、話の途中でしたね。私、水元夏樹っていいます。8月末までここでお世話になります」

ケンイチ「え?うそ?俺も、8月末までここにいようかと」

夏樹「あーそうなんですか」

ケンイチ「なんでまたこんな田舎に?」

夏樹「まぁ、また今度話します」

ケンイチ「そっか。あ、何歳?俺28なんだけど」

夏樹「私、21です」

ケンイチ「へーーー大人っぽく見えるね、あのさ、あのさ…」

   由美、財布を持って戻ってくる

   もちろん背後には幽霊(幸子)

ケンイチ「あああああああああああ…目を背けたい現実」

由美「うるさいね、いちいち驚かないでくれる?さ、夏樹ちゃん行こう」

夏樹「はい」

由美「(ケンイチに)あんたの部屋、今は奈々が使ってるから。勝手に入るんじゃないよ」

ケンイチ「うん…」

   由美、夏樹、出ていく

   なぜか居間に残る幸子

   幸子、ゆっくり振り返る

   そっと部屋を出ようとするケンイチ

   おもむろにケンイチに近づく幸子

ケンイチ「え?」

   ケンイチ、さらっとかわす

   幸子、取り憑こうとする

ケンイチ「え?え?」  

   ケンイチ、さらっとかわす

   幸子、取り憑こうとする

ケンイチ「あの」

   幸子、取り憑こうとする

ケンイチ「ちょっと」

   幸子、止まる

ケンイチ「…見えてますよ?」

幸子「私のこと…見えるんですか?」

ケンイチ「はい、見えてますよ」

幸子「そうなんですか」

ケンイチ「はい」

幸子「見えるタイプの人なんですね…じゃ、そういうことで」

   幸子、ケンイチに取り憑こうとする

ケンイチ「ちょっと」

幸子「はい」

ケンイチ「えーっと、あの、まさかとは思うんですが…」

幸子「はい」

ケンイチ「…取り憑こうとしてます?」

幸子「はい、幽霊なんで」

ケンイチ「はい、幽霊なんで…じゃねーよ。あの、やめてもらえます?」

   幸子、しおらしくなる

幸子「それが…少しくらいなら平気なんですが…実は、誰かに取り憑いていないと、体調が悪くなるんです」

ケンイチ「体調が?」

幸子「はい」

ケンイチ「悪くなる?」

幸子「はい」

ケンイチ「幽霊なのに?」

幸子「背後霊です」

ケンイチ「うるせーよ」

幸子「とにかく、体調が悪くなるんです。そういうシステム。ちなみに、この家にも縛られてるんで、地縛霊とのハイブリッド仕様ですね」

ケンイチ「とっても素敵な掛け合わせですね」

   幸子、咳き込む

ケンイチ「ちょっと…?」

   幸子、さらに大きく咳き込む

ケンイチ「あの…」

   幸子、チラッとケンイチを見る

ケンイチ「…??」

   幸子、わざとらしく咳き込む

   ※何度か繰り返しても良い

   ケンイチ、仕方なく心配する

ケンイチ「あの…大丈夫ですか?」

幸子「…はい、すみません、ご迷惑でしょうから…奈々さんのところに行ってきます」

ケンイチ「ち、ちょっと待ってよ」

幸子「はい?」

ケンイチ「妹に取り憑こうとしてる?」

幸子「そうですね」

ケンイチ「あのさ…仮に、仮にだよ?俺に取り憑かせてあげたとして…そしたらさ、俺に」

幸子「助かりまーす」

   幸子、取り憑こうとする

ケンイチ「いやいやいや、早いよ」

幸子「すみません」

ケンイチ「…あのさぁ、そうやってがっつくの良くないと思う」

幸子「はい、本当にお恥ずかしい。棺桶があったら入りたいくらいです」

ケンイチ「ん?…ああ、幽霊だけにね」

幸子「は?」

ケンイチ「なんでピンとこねーんだよ」

ケンイチ「で?仮に俺に取り憑いたとして…俺には何かあるの?その…リスク的な」

幸子「まぁ、ちょっと肩は重くなると思います」

ケンイチ「それだけ?」

幸子「あとは…そうですね。こんなのが背後に張りつくわけですから、相当鬱陶しいと思います」

ケンイチ「自分で言っちゃうんだ」

幸子「じゃあ、そろそろやばいんで奈々さんのところ行ってきます」

ケンイチ「あーーちょっと待って」

幸子「?」

ケンイチ「いいよ、おっけ。取り憑いていいよ」

幸子「いいんですか?」

ケンイチ「良くはないけど…なんとなく、いいよ」

幸子「…じゃあ、お言葉に甘えて」

ケンイチ「はい…」

   幸子、背後から取り憑こうとする

   取り憑つ瞬間、こわ~い顔をする

   ケンイチ、殺気に気付き振りかえる

   幸子、素知らぬ顔

ケンイチ「あの」

幸子「はい」

ケンイチ「大丈夫なんですよね?」

幸子「肩が重くなるだけです」

ケンイチ「ですよね、じゃあ…はい、どうぞ」

   幸子、背後から取り憑こうとする

   取り憑つ瞬間、こわ~い顔をする

   ケンイチ、殺気に気付き振りかえる

   幸子、素知らぬ顔

ケンイチ「本当に、大丈夫なんだよね?」

幸子「肩が重くなるだけです」

ケンイチ「…はい」

   そんなやり取りを繰り返す(アドリブOK)

   幸子、背後からケンイチの肩に手を置き、取り憑く

ケンイチ「うわぁ…冷たいのね」

幸子「はああああ」

   遠くを見つめる2人

幸子「おかげで生き返りました」

ケンイチ「いいえ、死んでます」

幸子「悲しい現実ですね」

ケンイチ「受け入れなさい。そしてね、成仏するんだよ、成仏を」

幸子「世知辛いです」

ケンイチ「…ていうかさぁ、さすがにずっとこのまま…ってわけにもいかないしさ、出来ないの?成仏」

幸子「…随分、簡単に言いますね」

ケンイチ「…そもそも、なんでこの家にいるの?」

幸子「なんででしょう。忘れちゃいました」

ケンイチ「え?そんなことある?」

幸子「ああ、頭うって、忘れちゃいました」

ケンイチ「頭うって?」

幸子「はい」

ケンイチ「幽霊なのに?」

幸子「……」

   2人、見つめ合う

ケンイチ「あのさ……。俺が、一緒に探すよ」

幸子「え?」

ケンイチ「東京に戻るまで、後1ヶ月あるからさ、一緒に探すよ。君が何でこの家にいるのか、どうすれば成仏できるのか」

幸子「なんで?」

ケンイチ「いや……暇だから、うん」

幸子「ありがとう…私、鈴木幸子っていいます」

ケンイチ「何歳なの?」

幸子「享年25です」

ケンイチ「へぇーそうなんだ、そりゃ若くして…ああ、いや、若いね~」

幸子「…はい」

ケンイチ「それに、よく見たら結構かわいい顔してるし…あの…」

   功太、庭先にやってくる

功太「ケンイチ、やっぱりいたんだ」

ケンイチ「お、おーー功太、久しぶり、どうしたどうした」

功太「外でお前の母さんと会ったんだよ」

ケンイチ「そういうことね」

功太「ところで…何、彼女連れてきたの?」

ケンイチ「…え?」

   ケンイチ、幸子、動揺を見せる

功太「そんな分かりやすく動揺するかね」

ケンイチ「いやいやいや、そうじゃなくて…えっと…どっち?」

功太「は?どっちって、どういうこと。お前の母さんと一緒にいた子だよ」

ケンイチ「あ、ああ、あああ、そっちね、夏樹ちゃんっていうんだよ。ていうか、ただのお客さんだよ。なんか、急に民泊始めたみたいで」

功太「…え?民泊やってるの知らなかったの?」

ケンイチ「ビックリしたよ」

功太「町おこしの一環でさ、何軒かやってるところあるよ」

ケンイチ「そうだったのか…」

功太「ところで、相変わらず彼女いないの?」

ケンイチ「うるせーよ」

功太「さすがビー玉男」

ケンイチ「おい、久しぶりに聞いたよそれ」

功太「いつからビー玉だっけ?」

ケンイチ「んー小学校4年生くらいじゃない?」

功太「そんな昔からビー玉だっけ?」

ケンイチ「お前がつけたんだろ」

功太「まぁまぁ、で、いつ帰るの?」

ケンイチ「……まぁ、しばらくいる予定」

功太「そうか。久しぶりに飲むか?」

ケンイチ「おう」

功太「後で行くわ。ビールでいい?」

ケンイチ「おう、ありがとう」

   功太、去る 

   暗転

   BGM:フェードアウト

   BGM:蛙の声

   点灯

【1日目 夜】

   夜の縁側

   ケンイチ、功太、夏樹がいる。ケンイチの背後には幸子

   適当な肴をつまみながらビールを飲む

功太「ていうかさ、帰ってくるなら連絡くらいしろよ」

ケンイチ「母さんと同じこと言ってるし」

夏樹「二人は、どのくらい振りの再会?」

功太「どうだっけ」

ケンイチ「3年くらい帰ってなかったかなぁ」

功太「(夏樹に)高校までは一緒だったんだよ。で、こいつは東京の大学に行って、俺はずっと地元」

ケンイチ「(功太を指して)こう見えて、公務員」

功太「どう見たって真面目じゃん、公務員顔」

夏樹「そうかな」

功太「ちょっと〜」

   笑う

夏樹「私、入っちゃって良かったの?せっかく感動の再会なのに」

功太「ていうか、むしろこいつ(ケンイチ)がお邪魔なんだよ」

ケンイチ「もっとお邪魔なのがいるけどね」

   幸子、ケンイチの頭をスリッパではたく

ケンイチ「いて」

夏樹「ん?」

ケンイチ「あ、いや、なんでもない」

功太「夏樹ちゃん、まだ飲むでしょ?」

夏樹「ううん、そろそろ部屋もどる」

ケンイチ「えー飲もうよー」

夏樹「積もる話もあるでしょうし、ここはお二人に…」

功太「部屋に戻って何するの?」

夏樹「秘密」

功太「えーー気になるーーー」

ケンイチ「もう1本だけ、のも?寂しいよ〜」

夏樹「なんで?ケンイチさんは、いつでも会えるのに?」

ケンイチ「お、おう…そうだな、確かにそうだ」

   ケンイチ、まんざらでもない表情

夏樹「じゃあ、功太さん失礼しますね」

功太「おやすみ〜」

夏樹「(ケンイチに)おやすみ」

ケンイチ「おうっ」

   夏樹、部屋に戻る

功太「おうっ、じゃねーよ、何だよビー玉、…まさかとは思うけど」

ケンイチ「そういうことになるね」

功太「わかりやす…ま、いいじゃん。夏が終わるまでに何とかしないとね」

ケンイチ「夏樹ちゃん、つかみどころ無いんだよなぁ」

功太「いや、ていうか、なんだろ」

ケンイチ「何?」

功太「ん~。ま、お前には高嶺の花だよ」

ケンイチ「うるせーな、わかってるよ」

   間

功太「…で、何があった?」

ケンイチ「…何がってなんだよ」

功太「いいから、話せよ」

   ケンイチ、上司の真似をしながら

ケンイチ「爪を隠すのは能あるタカなんだよ。能無しバカは、そもそも爪なんてねぇ」

功太「なんだそれ」

ケンイチ「要は、役立たずってことだ。うちの上司、詩人だからさ。センスあるでしょ」

功太「ケンイチは、やれば出来るやつだよ。俺は分かってる」

ケンイチ「でも、爪を隠してたら能無しと同じでしょ」

功太「……」

ケンイチ「休職してるんだよ、今」

功太「いつまで?」

ケンイチ「今月末」

功太「そっか」

ケンイチ「おう」

功太「…人から認められないのって、辛いよな」

ケンイチ「うん」

功太「もうちょい聞かせてよ」

ケンイチ「うん」

  暗転

  点灯

  功太、酔っている  

功太「でさ〜そこで俺はあいつに言ってやったんだよ、俺の辞書にナポレオンはいねぇってよ〜」

ケンイチ「お前、それいろいろと違ってるぞ」

功太「うるっせーんだよ。いいか、言うぞ?俺はお前に言うぞ?」

ケンイチ「はいはい、何だよ」

功太「お前の広辞苑にも、不可能はねぇんだよ」

ケンイチ「惜しい、一歩近づいたけど、半歩遠のいた」

功太「ケンイチ、頑張れーーーおい、頑張れよケンイチーーーおい、おい」

   功太、ケンイチの胸ぐらを掴む

ケンイチ「おい、いい加減に…悪酔いし過ぎだぞ」

功太「お前のナポレオンは…辞書とか持って…ねぇんだよ…」

   功太、泣き出す

ケンイチ「もう、めちゃくちゃじゃん…」

功太「ケンイチーーー俺は、俺は応援してるからなーーー歯ぁ食いしばれ」

ケンイチ「は?」

   功太、ケンイチの顔を殴る

   ケンイチ、倒れる

   暗転

   BGMフェードアウト

   点灯

   功太、寝てしまっている

幸子「大丈夫?」

ケンイチ「ん?…ああ、大丈夫だよ、こんなの」

幸子「昔からこんな感じなんだ」

ケンイチ「いや、初めてだね、あいつがここまで熱くなるの」

幸子「…そうなんだ」

ケンイチ「………」

幸子「大丈夫」

   ケンイチ、涙を隠す

ケンイチ「誰かの役に、立ちてぇな」

   言いながら仰向けになり、直ぐに起き上がる

ケンイチ「明日さ、図書館行ってくるよ」

幸子「え?」

ケンイチ「この辺に伝わる怪談とか調べたらさ、何か分かるかもしれないでしょ?」

幸子「うん」

ケンイチ「そこに、幸子が成仏するヒントがあるかもしれない」

幸子「うん」

ケンイチ「俺、頑張らないと」

幸子「…そうだね」

ケンイチ「頑張るよ」

幸子「ありがとう」

   暗転

   BGM:蝉の声

   点灯

【6日目 朝】

   ケンイチが実家に戻って6日目。朝の食卓

   食卓を囲む、ケンイチ、夏樹、由美、奈々。幸子はケンイチの背後に

由美「ケンイチ、今日も暇なんでしょ?」

ケンイチ「夏樹ちゃんは、予定ある?」

夏樹「え、私は朝ごはん食べたら行くところがある」

ケンイチ「それは、俺も一緒に行けるところだったり…」

夏樹「しないですね」

ケンイチ「ですよね。じゃあ母さん、暇だよ」

奈々「だっさ」

   ケンイチ、奈々を睨む

由美「じゃあ、おつかいお願いね。働かざる者、食うべからず」

ケンイチ「えー。奈々に行かせればいいだろ」

奈々「は?なんで」

ケンイチ「暇じゃん」

奈々「忙しいし」

夏樹「そういえば奈々ちゃんって何してる子?」

ケンイチ「こいつ、ニートなんだよ」

奈々「違うし、フリーターだし」

ケンイチ「働いてないんだから、フリーターじゃないよ」

奈々「違うし、フリーターの卵だし」

夏樹「フリーターの卵」

ケンイチ「フリーターの卵」

奈々「なに」

由美「あんた、上手いこと言うね」

ケンイチ「上手くないよ、結局なにもしてないんだから、それはニートって言うんだよ」

奈々「フリーターになろうとしてるんだから、フリーターの卵じゃん」

ケンイチ「は?」

奈々「フリーターを目指してないニートは、ただのニート。でも私はフリーターを目指してるニートなんだから、それはフリーターの卵だよ」

夏樹「奈々ちゃん、自分でニートって言っちゃってる」

奈々「あ…」

ケンイチ「ブッ(吹き出す)」

由美「ケンイチ、後でおつかいメモ渡すから、お願いね」

ケンイチ「結局俺かよ」

由美「結構量があるから、こういう時は男でしょ。それとも2人で行ってくれる?」

ケンイチ「そうだよ、一緒に行こうよ」

奈々「絶対無理」

夏樹「ブッ(吹き出す)」

由美「じゃあ、お昼までにはお願いね」

   暗転

   BGM:フェードアウト   

   BGM:蝉の声

   点灯

【6日目 昼】

   一人でソワソワする奈々。玄関の鍵、部屋のドアが閉まっていることをチェック

   庭先を見て、誰もいないことを確認。ガラス戸をしめる

   BGM:フェードアウト

   テレビをつける奈々。アイドルが出る歌番組が放送されている

   BGM:ランキングTV

奈々「…あ、よっしゃ、完全☆ムテキ少女、間に合った」

   テレビでは「ランキングTV」が流れている。アイドルのゆっけが出演している。

   ●ゆっけのセリフ(音源)

ゆっけ「ランキングTVをご覧の皆さん、こんにちは。完全☆ムテキ少女のゆっけです。えーっと、このたびソロユニットとして楽曲を出すことになりました。わーー(自分で拍手)。はい、ということで…どういうことで?まぁいっか。はい、とっても可愛くて、ちょっと切ないけど元気が出る、そんな曲になっていると思います。それでは聞いてください。恋☆するクリームソーダ」

   前奏が始まると、アイドルの格好をした女の子たちが登場

   ハンドマイクを奈々に渡す

奈々「え?え?だれ?お母さん、誰か来たーーー」 

M:恋☆するクリームソーダ(オリジナルソング)※代用可 

   奈々、最初は戸惑いながらも、一緒に歌ってノリノリで踊る

♪空を染める レモンスカッシュ

ピーチソーダで 君を待つよ

夢が覚めちゃう

だからコーヒーはラテにして

ブルーハワイな 空を見上げて

レモネードの 君を想う

わたしを連れ出して

冷めちゃう ミルクココア

どうしてなの

どうしてなの

どうしてなの なぜ?

さみしがりなコースターが 笑ってる

《サビ》

恋のまちぼうけは クリームソーダ

君はきっといらない あのサクランボ

恋のまちぼうけは クリームソーダ

ソフトクリーム消えるまで

待ってる

(間奏)

♪空を染める パインスムージー

イチゴミルクで 君を待つよ

夢が覚めちゃう

だからコーヒーはアメリカン

メロンソーダの 空を見上げて

ミックスジュースな 君を想う

わたしを連れ出して

冷めちゃう カフェオーレ

どうしてなの

どうしてなの

どうしてなの なぜ?

さみしがりなグラスがまた 泣いてる

《サビ》

恋のまちぼうけは クリームソーダ

君はきっといらない あのサクランボ

恋のまちぼうけは クリームソーダ

ソフトクリーム消えるまで

待ってる

   歌の途中、庭先に功太がやってくる

   功太、窓を開けて部屋に入る

   しばらく歌って、功太に気づく奈々

   歌うことをやめる

   テレビを消し、何事もなかったように座る奈々

   M:カットアウト

奈々「あ、こんちには」

功太「無理無理無理無理」

   BGM:蝉の声

奈々「……」

功太「今なかったことにしようとした?」

奈々「えっと、まぁ…」

功太「無理ーーーーー、無理だからーー」

奈々「うるさい」

   功太、奈々の先ほどの一連の動きを真似する

功太「あ、こんにちは」

功太「無理ぃーーーーーーー」

   功太、ひっくり返って大笑い   

功太「ていうか、へーそっかー、好きなんだ、完全☆ムテキ少女」

奈々「ムカつく…あの…うん。ていうか、アイドル全般だけど」

功太「そうなんだ、いいじゃん」

奈々「あのさ、アイドル目指してるの…内緒にしておいてくれない?」

功太「え?目指してるの?」

奈々「あ…」

功太「奈々ちゃんって、基本的に天然だよね」

奈々「違うし」

功太「いやいや、天然だからーーーーーーーー」

   功太、奈々の先ほどの一連の動きを真似する

功太「あ、こんにちは」

奈々「ざっけんな、マジざっけんな」

功太「わるいわるい、良いと思うよ、アイドル。応援する」

奈々「ありがとう」

功太「ていうか向いてるよ」

奈々「そうかな」

功太「歌上手だったし」

奈々「ありがとう」

功太「ダンスも良かったよ」

奈々「ありがとう」

功太「顔もかわいいし」

奈々「うるさい」

功太「何か怒ってる?」

奈々「簡単に人のことほめるのやめた方がいいと思う」

功太「なんで」

奈々「ほんとうるさい」

功太「ごめんて。でさ、ケンイチいる?」

奈々「いないよ。おつかい行った」

功太「そっか」

奈々「…心配してくれてるんだ」

功太「まぁね」

奈々「ありがと」

功太「うん」

   暗転

   BGM:フェードアウト 

   BGM:蛙の声

   点灯

【6日目 夜】

   夜の縁側。ケンイチと幸子

   ケンイチ、ビールを飲んで一言

ケンイチ「くぅ~、生きてるって感じ」

幸子「死人の前でいいますかそれ」

ケンイチ「そうだね」

   笑う

ケンイチ「今日も何も分からなかったなぁ」

幸子「色々調べてくれてありがとう」

ケンイチ「明日は、父さんの部屋を探してみようか。何かヒントがあるかもしれないよ」

幸子「…うん、そうだね」

ケンイチ「…ねぇ、何で死んじゃったの?」

幸子「事故」

ケンイチ「そうなんだ」

幸子「なんで?」

ケンイチ「いや、何か成仏するヒントとか、ここに縛られてる理由とか…まぁ色々分かるかもしれないでしょ?」

幸子「ありがとう」

ケンイチ「成仏って、なんだろうね」

幸子「死んで仏に成ること」

ケンイチ「そりゃ、そうだけどさ」

幸子「三途の川って分かる?」

ケンイチ「分かる」

幸子「この世にやり残したことが重すぎると、渡れないんだよ」

ケンイチ「幸子は、渡れなかったんだ。三途の川」

幸子「そう。後悔の念をそぎ落として、身体を軽くしないと渡れない」

ケンイチ「なるほどね」

ケンイチ「幸子の後悔って、何なんだろうね」

幸子「うん」

ケンイチ「もうすぐ何か掴む気がするんだよな」

幸子「うん」

   間

幸子「ごめん。…本当は全部覚えてる」

ケンイチ「え?」

幸子「成仏する方法も分かってる」

ケンイチ「うそ、なんで」

幸子「なんだろ…途中からは、引っ込みがつかなくなって」

ケンイチ「そう、なんだ」

幸子「ごめん」

ケンイチ「いや、いいよ。一緒に探すよ、なんて言ったはいいけど、実際どうしていいか分からなかったし」

幸子「ごめん」

ケンイチ「…またダメだったな」

幸子「ごめんって」

ケンイチ「あ、いや、別に落ち込んでるわけじゃないよ、大丈夫」

幸子「そっか」

ケンイチ「ただ、俺って必要なのかなって。何で生まれてきたんだろう、なんて考えちゃうことが多くて」

幸子「理由なんて必要?」

ケンイチ「必要だよ」

幸子「……」

ケンイチ「父さんと母さんが愛し合って俺が生まれた。けど、これって親のエゴだと思わない?」

幸子「思わないよ」

ケンイチ「だってさ、俺は産んでください、なんて頼んでないんだから」

幸子「そりゃそうだけど」

ケンイチ「親のエゴで、勝手に【生きる】っていう目的を与えられて、ただ何となく生きてきた。でも、理由や目的もないまま生き続けるには、今の世の中はつらすぎるよ」

   ケンイチ、虚空を見つめる

幸子「大丈夫?」

ケンイチ「うん」

幸子「大丈夫?」

ケンイチ「うん」

ケンイチ「…幸子のことも聞かせてくれない?」

幸子「うん、聞いてほしい」

ケンイチ「ありがとう」

幸子「眠くない?」

ケンイチ「ちょっと眠い」

幸子「明日にする?」

ケンイチ「ううん、今聞く」

幸子「そっか」

ケンイチ「うん、もう少し話したい」

幸子「うん」

   夏樹がやってくる

夏樹「起きてたんだ」

ケンイチ「あーーああ、うん、ちょっと寝れなくて」

夏樹「ていうか、誰と話してたの?今」

ケンイチ「……」

夏樹「ケンイチさんの声と風鈴の音しかしなかったけど。まさか、風鈴と話してた…とか?」

ケンイチ「まぁ、そんなところかな」

夏樹「ちょっと嫉妬しちゃうな〜」

ケンイチ「ん?」

夏樹「風鈴に、なんちゃって〜」

ケンイチ「えー?あはは」

   ケンイチ、まんざらでもない表情

夏樹「私も涼んでいい?」

ケンイチ「うん、いいよ」

   幸子、ケンイチから離れ、別の部屋に消える

夏樹「今日は何してたの?……」

ケンイチ「なんだろ、まぁ、アレかな…」

夏樹「なに、アレって」

   ケンイチ、幸子が気になっている

ケンイチ「アレはアレだよ、そう、夏樹ちゃんのこと考えてたんだよ」

夏樹「一日中?」

   ケンイチ、上の空

ケンイチ「そう、年中考えてるよ。夏樹ちゃんのアレ」

夏樹&ケンイチ「…は?」

夏樹「何か一瞬、すごい不快な気持ちになった」

ケンイチ「あ、あああ、いや、違うよ?違うよ?夏樹ちゃんのアレっていうのは、決して夏樹ちゃんの、その、アレってことではなくて、あくまでアレっていうのは、とにかくその、アレとかアレのことを連想させるんだけど、決してアレのことではなく…」

夏樹「あの」

ケンイチ「はい」

夏樹「不快です」

ケンイチ「自覚、あります」

夏樹「まぁでも、楽しいけど」

ケンイチ「え、え、え、ほんと?ほんと?」

   会話が弾む2人(無声でお芝居)

   BGM:フェードアウト

   暗転

   BGM:蝉の声

   点灯

【13日目 朝】

   ケンイチが帰ってきて13日目の朝

   食卓を囲むケンイチ、夏樹、由美、ンジンガ

   遅れて奈々がやってくる。その肩には幸子

奈々「おはよう」

夏樹「おはよう」

由美「顔洗った?」

奈々「洗った」

   奈々、食卓につく

奈々「眠い」

由美「また遅くまで下らないことやってたんでしょ」

奈々「また金縛りになって…全然眠れなかった」

夏樹「えーこわい」

由美「幽霊でもいるのかね、この家は」

奈々「ちょっと、やめてよ」

由美「私も時々、肩が異様に重くなるんだよ。最近は何だか楽になったけどね」

奈々「やめてよ…私も最近肩重いんだから」

由美「(ケンイチに)あんたは大丈夫?」

ケンイチ「うん、俺は取り憑かれてないよ」

奈々「取り憑かれるとか…やめてって」

ンジンガ「タシカニ トリツカレル トイウノハ トテモヘビーナ ヒョウゲン デスネ」

ケンイチ「ていうか、誰ーーー」

由美「今日からしばらく宿泊する、ンジンガさん」

ケンイチ「ん?」

由美「ん じ ん が」

ケンイチ「ン?」

由美「そう、ン」

ケンイチ「呼びにくいな」

夏樹「確かに」

奈々「確かに」

ケンイチ「(ンジンガに)なんか、あの、ニックネームとか…ないですか?」

ンジンガ「ンジンガ ウツクシイ イウ イミ ダカラ ソウデスネ… ダンミツ デ イイデス」

ケンイチ「ンジンガさんって呼ぶね、よろしく」

夏樹「よろしくね、ンジンガさん」

奈々「ンジンガさん、ゆっくりしてってね」

ンジンガ「ハイ」

   黙々と朝ごはんを食べる

由美「しかし、ダンミツっていうのも、すごいチョイスだね」

ケンイチ、夏樹、奈々「そこ広げちゃうんだ」

ンジンガ「ワタシ ニホン ブンカダイスキ ダカラ テレビヨクミマス ウツクシイ ジョユウサン タクサン アリマス ダンミツ トテモ アノ…アノ… ア、ダメダシモネタニナル デモ ニホンノ シモネタ トイウハ リッパナ ブンカデス チョクセツ デハナク アクマ デ ワビサビ チラリズム アリマス センスアル シモネタ ジョシダイジョブ デモ シ、シモネタ デ スベルト ドンビキ スベッタウエニ ドンビキ コレ トテモリスクアル ミナサンモ キヲツケテ クダサイ」

ンジンガ「コレ ナンノハナシデシタ?」

由美「あ…あんた達、何とかしなさい」

ケンイチ「手に余ります」

夏樹「自信ありません」

奈々「強すぎます」

   黙々と食べる

   暗転

   BGM:フェードアウト

   BGM:蝉の声

   点灯

【13日目 昼】

  新たな宿泊客として、佐々木めぐみと子供3人がやってくる

  ●玄関のチャイム

由美「はーい」

   玄関に向かう由美

   客を連れて居間に戻る

由美「とりあえず座ってね」

   台所から飲み物を持ってくる由美

   めぐみには麦茶。子供達にはカルピス。

由美「暑かったでしょ?さぁ、とりあえず一息ついて。(子供達に)はい、あなた達にはカルピス」

めぐみ「すみません、ありがとうございます」

みく「ありがとうございます」

めい「ありがとうございます」

みく「かんたは?」

めい「ありがとう、って」

かんた「ありがとう」

由美「あら、えらいね~」

めぐみ「すみません、ご無理を言ってしまって」

由美「いいのいいの、ちょっと狭い部屋だけど大丈夫?」

めぐみ「はい」

由美「(小声で)その代わりちょっとお安くしとくから」

めぐみ「ありがとうございます」

かんた「ありがとうございます」

めぐみ「かんた」

由美「あら」

   笑う

由美「宿泊についての説明は…」

めぐみ「はい、一応事前に確認しておきました」

由美「そう、何か聞きたいことはある?」

めぐみ「…そうですね、ちょっと」

   裕美、何かを察する

由美「あ、そうだ、あそこのお庭自由に使って遊ばせてね。大きな声出しても怒る人いないから」

めぐみ「そうですか、ありがとうございます。じゃあ…みく、お庭で遊んであげて。いい?」

みく「うん、わかった。めい、かんた、お庭で遊ぼう」

めい「うん」

   子供3人、玄関から出て庭先に

由美「さて、聞くよ」

めぐみ「はい。実は、この辺りに移住しようか…ちょっと検討していまして」

由美「そう。それで、お試しでここに来たんだね」

めぐみ「そうなんです」

由美「あなた達、東京の人でしょ?こんな田舎じゃ退屈かもしれないよ」

めぐみ「どうなんでしょうか。とりあえず今月末までここでお世話になってみて、子供達が大丈夫そうだったら…そんな感じです」

由美「民泊はじめて2年になるけど、ありがたいことに色んな人がここに来てね。でも、観光目的の人って少ないんだよ。だって、ここ何もないでしょ?」

めぐみ「そうかもしれませんね」

由美「だいたい、みんな何かしらの目的があってここに来る。あなたにも深い事情があるんでしょうね、敢えて聞かないけど。何か私に出来ることがあれば、相談して」

めぐみ「ありがとうございます。…ここに来る途中に学校があったんですが」

由美「ああ、北小学校と北中学校だね。この辺に移住したら、あの子達はあそこに通うことになるね」

めぐみ「やっぱり生徒数は少ないんですよね」

由美「そうだね、小学生と中学生、あわせて30人くらいじゃないかな~」

めぐみ「そうですよね」

由美「あの子達には退屈かもね」

めぐみ「いえ、あの子には、その方が良いのかも…って思ってるんです」

   二人、庭で遊ぶ子供に目をやる

由美「あの、真ん中の子?」

めぐみ「はい、めいっていいます。お姉ちゃんがみく。下の子はかんたです」

由美「めいちゃん、向こうでお友達と馴染めなかった?」

めぐみ「…はい。何度か転校させたんですが、どうも駄目で」

由美「そう。…お姉ちゃんは?」

めぐみ「みくはしっかりした子で、友達も沢山いるんです。…でも、めいの為になるならって、移住には賛成してくれてるんです」

由美「いいこなんだね」

めぐみ「はい、私もついついあの子に甘えてしまっている気がして…。本当は辛い思いをしているんじゃないかって…」

由美「そんなこというもんじゃないよ」

めぐみ「え?」

由美「そりゃ、みくちゃんにとって友達は大切だし、別れるのは辛いだろうよ。でもね、それでも彼女は家族を選んだんだよ。あとね、めいちゃんの為でもあるけど、きっとあなたの笑顔が見たいから…だから、みくちゃんは移住に賛成したんじゃない?」

めぐみ「私の笑顔?」

由美「そうだよ。だからね、そんな彼女の決断を大切にしてあげて。あなたがそんなんでどうするの」

めぐみ「そっか…そうですね」

M:童謡(何でもよい)※カット可

   子どもたち、歌う

   めいとかんたが遊ぶ姿を、少しはなれたところから眺めるみく

   その顔は微笑みにも見えるが、悲しそうにも見える

   暗転 

   BGM:蛙の声

   点灯

【13日目 夜】

   夜の縁側。ケンイチと夏樹が話している

   ケンイチ、ビー玉を弄んでいる

   楽しそうに会話する2人

   夏樹、急に自分の腕をはたく

ケンイチ「ビックリした」

夏樹「蚊に刺されそうになった」

ケンイチ「あ、このやろう、どこのどいつだ」

   ケンイチ、蚊を探す

夏樹「何やってんの~」

ケンイチ「夏樹ちゃんに、悪い虫がつかないように」

夏樹「もうついてるけど。ケンイチ虫」

ケンイチ「お、上手いこと言うね」

   間

ケンイチ「誰が悪い虫だ〜い」

   笑う

ケンイチ「ねぇ、そろそろ教えてくれない?」

夏樹「ん?」

ケンイチ「なんでここに来たのか」

夏樹「…失恋」

ケンイチ「へー…そうなんだ」

夏樹「失恋した傷を癒しに1人田舎に民泊」

ケンイチ「ん?」

夏樹「ベタすぎて笑えないでしょ」

ケンイチ「そんなことないけど」

夏樹「笑ってくれた方が楽なのに」

ケンイチ「そういうものかね」

夏樹「そういうものです」

ケンイチ「そっか…じゃあ」

   ケンイチ、大笑いする(サラっと悪口も織り交ぜる)

   夏樹が止めるまで笑う

夏樹「ねえ」

ケンイチ「ん?」

夏樹「やめて」

ケンイチ「はい」

   間

ケンイチ「じゃあ、彼氏いないってことか」

夏樹「いや、まぁちょっとね~なんていうのかな~」

ケンイチ「え?」

夏樹「なんちゃって。いないよ」

ケンイチ「そ、そっか」

   ケンイチ、ビー玉を弾き、夏樹に当てる

ケンイチ「えい」   

夏樹「痛…なに?」

ケンイチ「これで夏樹ちゃんゲット」

夏樹「は?」

ケンイチ「ビー玉の遊び方、知ってる?」

夏樹「ねぇ」

ケンイチ「ん?」

夏樹「痛かったんですけど」

ケンイチ「あ……ごめん」

   間

ケンイチ「ビー玉の遊び方、知ってる?」

夏樹「良く同じテンションで言い直せたね」

ケンイチ「どうも」

夏樹「ビー玉で遊んだことないからなぁ」

ケンイチ「ビー玉を弾いてね、相手のビー玉に当てたら、それを貰えるんだよ」

夏樹「へー。シンプル、だね」

ケンイチ「そう」

夏樹「…てことは、そーいうことか」

ケンイチ「そう」

夏樹「きも」

   間

ケンイチ「花火大会、一緒にいかない?」

夏樹「いいよ」

ケンイチ「へ?」

夏樹「今月末のやつでしょ?空いてるからいいよ」

ケンイチ「いや、そうじゃなくて」

夏樹「ん?」

ケンイチ「念のために確認したいんだけど」

夏樹「うん」

ケンイチ「上手くいく流れだった?」

夏樹「ちがうね。直前にきもって言ってるし」

ケンイチ「ですよね」

夏樹「でも…いいよ、行く。行きたい」

ケンイチ「ありがとう」

夏樹「こちらこそ」

   ケンイチ、小さくガッツポーズ

ケンイチ「ていうか、一気に賑やかになったよね、うち」

夏樹「たしかに。子供達もいるしね」

ケンイチ「なぞの外国人も」

   笑う

   幸子がやってくる。そっとケンイチに取り憑く

夏樹「朝食のときやばかったよね、急に変な話始めるし」

ケンイチ「ああ、ダンミツの話ね」

夏樹「そうそう、なんか笑える空気でもないし、しかも由美さんが変なところ拾っちゃうから…」

ケンイチ「あ、あのさ、こんな時間だけど大丈夫?」

夏樹「ん?…まぁ、そうだね、確かに。こんな時間だ」

ケンイチ「………」

夏樹「そろそろ、戻るね」

ケンイチ「うん、ごめん」

夏樹「…なんでごめん?」

ケンイチ「あ、ああ、何でもない」

夏樹「そっか、おやすみなさい」

ケンイチ「おやすみ、なさい」

   夏樹、部屋に戻る

ケンイチ「おかえり」

幸子「何それ、変なの」

   間

幸子「良かったの?」

ケンイチ「なにが?」

幸子「別に」

ケンイチ「…あのさ、この間の話の続き」

幸子「なんだっけ」

ケンイチ「幸子が何で成仏出来ないのか」

幸子「…失恋」

ケンイチ「え?」

   夏樹が去った先を見て

ケンイチ「え?」

幸子「そんな驚くようなこと?」

ケンイチ「いや?だよね。そうだよね」

幸子「20の時、初めて人に恋をして、そこから5年、その人だけを愛した」

ケンイチ「告白しなかったの?」

幸子「しようと思った。けど…私、その日に事故にあって」

ケンイチ「え…」

ケンイチ「その人のこと、まだ好きなの?」

幸子「その人も、もうこの世にいないから」

ケンイチ「…そうなんだ。でもさ、だったら成仏して天国に行けば会えるんじゃない?」

幸子「そうかもね。…でも、今のままじゃ三途の川を渡れない」

ケンイチ「そっか…」

   ケンイチ、幸子の様子を気にする

ケンイチ「大丈夫?」

幸子「なにが?」

ケンイチ「だって…」

幸子「ねぇ、愛されるってどんな感覚?」

ケンイチ「……」

幸子「…愛が通じるって、きっと幸せな気持ちになるんだろうな」

ケンイチ「……俺が」

幸子「え?」

   めぐみがやってくる

めぐみ「こんばんは」

ケンイチ「…あ、ああ、こんばんは。どうしたんですか?」

めぐみ「子供達が寝たので、ちょっと涼みに」

ケンイチ「そうなんですね。…あ、そう言えば、ここにはいつまで?」

めぐみ「8月末です。子供の夏休みが終わるまで。あ、私もそこ、いいですか?」

ケンイチ「…はい、いいですよ」

   めぐみ、縁側に座る

ケンイチ「僕も、今月末までなんですよ」

めぐみ「そうなんですか。いいところですよね、ここ。羨ましいです」

ケンイチ「ていうか…失礼を承知で聞くんですが…歳、同じくらいですよね?多分」

めぐみ「おいくつ、なんですか?」

ケンイチ「28です」

めぐみ「そうなんですね」

   めぐみ、笑顔を一つ

めぐみ「女性に年齢を聞いちゃうの、失礼じゃないですか?」

ケンイチ「ですよねーー」

めぐみ「うそうそ。ていうか、同い年です」

ケンイチ「あ~そうだったんだ。でも凄いな…同い年なのに子供3人いるとか。……あれ?一番上の子、小6?」

めぐみ「はい、結構若くして母になりまして」

ケンイチ「いや~すごいなぁ」

めぐみ「そんなことないですよ」

ケンイチ「俺はいったい何やってんだろうなーって考えちゃうんだよね~」

めぐみ「子供いないから?ていうか結婚もまだか」

ケンイチ「彼女もまだ」

めぐみ「え…でも…それって…」

ケンイチ「あ、いや、出来たことはあるよ、あります。だから、いたって、そーいうこと、ではない」

めぐみ「そーいうこと?」

ケンイチ「あ、いや、あの……イエーイ」

   無理やりハイタッチ

ケンイチ「…スミマセン」

めぐみ「良く分かんないけど、とにかく全然凄いことじゃないです。だって、たまたま授かっただけだもん。こればっかりは、ただの縁ですから」

ケンイチ「縁…」

めぐみ「でも、それって素敵なことですよね」

ケンイチ「そうなのかな」

めぐみ「ケンイチさんだって縁があって産まれてきたんですから、縁は素敵です」

ケンイチ「何のために産まれてきて、何のために生かされているんだろう…なんて考えちゃうんだよなぁ。まぁ、生きる目的ってやつ」

めぐみ「生きる目的…ですか。それ、絶対考えちゃダメ」

ケンイチ「それは…なんで?」

めぐみ「考えても良いことないから」

ケンイチ「どういうこと?」

めぐみ「……わかった。じゃあ、人が生きる目的、教えるね」

ケンイチ「うん」

めぐみ「人が生きる目的は…子孫を残すため」

ケンイチ「…極論だけど、確かにそうだ。なんか、うん…何とも言えない気持ちになる」

めぐみ「そうなんです。だから、絶対に深く考えちゃダメ」

ケンイチ「あ…」

めぐみ「考えてもむなしくなるだけ」

ケンイチ「そっか…生きる目的なんて考えても、そこには何もなくて当たり前なのか」

めぐみ「そういうこと」

ケンイチ「なんか、気持ち楽になった」

めぐみ「それは良かったです」

めぐみ「それに…何のために生きてるのか…なんて言ったら、由美さん悲しいだろうな」

ケンイチ「そういうもんかね」

めぐみ「一応私も人の親ですよ」

ケンイチ「そっか…確かにそうだ」

めぐみ「由美さんの生きる目的は、ケンイチさんや奈々さんの幸せを祈ること、だと思いますよ」

ケンイチ「それってさっきの話と矛盾してない?」

めぐみ「母は特別、ですよ」

ケンイチ「何か説得力あります」

   ケンイチ、横目でめぐみを見る

ケンイチ「めぐみさん…めぐみさん素敵ですね、なんていうかその…」

めぐみ「は?」

ケンイチ「めぐみさんって、旦那さんは…」

めぐみ「何が?」

ケンイチ「旦那さんは…こないんですか?」

めぐみ「え?何でですか?」

ケンイチ「いや、あの、だってこんな素敵な方なの…」

めぐみ「ていうか、え?」

ケンイチ「(口説こうとする)」

めぐみ「は?」

ケンイチ「(口説こうとする)」

めぐみ「は?」

ケンイチ「(口説こうとする)」

めぐみ「は?は?」

ケンイチ「…なんでも…ないです」

めぐみ「そうですよね」

幸子「はい、ビー玉通過~」

ケンイチ「(小声で)うるせーよ」

   暗転

   BGM:フェードアウト

   BGM:蝉の声

   点灯

【20日目 昼】

   ケンイチが実家に戻って20日目

   由美、奈々、ンジンガに日本語や日本文化について教えている

   夏樹、縁側で本を読んでいる

由美「他にはある?」

ンジンガ「イロイロ アリマス」

奈々「勉強熱心だよね~」

   ンジンガ、本を見ながら

ンジンガ「コレ ナンテヨミマスカ カンジムズカシイ」

由美「これは…鉈(なた)、だね」

ンジンガ「ニャ タ」

由美「な た」

ンジンガ「ナタ ノウグ デスネ?」

由美「そう、良く知ってるね」

ンジンガ「サッショウリョク ハ ドウデスカ?」

由美「え?」

奈々「殺傷力…?」

由美「そんな、分かんないよ。どう言ったらいいの」

ンジンガ「シニ マスカ?」

由美「そりゃ、出来ないことはないだろうけど」

   ンジンガ、メモを取る

ンジンガ「ナタ…サッショウリョク…ワリト…アル…シヌ」

由美「えっと…他には?」

ンジンガ「コレ ナンテヨミマスカ カンジムズカシイ」

由美「これは…鍬(くわ)だね」

ンジンガ「キュ ワ」

由美「く わ」

ンジンガ「クワ サッショウリョク…」

奈々「反乱起こそうとしてるよね?」

   由美、ンジンガの本を取り上げる

由美「この本は…やめておきましょう」

ンジンガ「ハイ」

奈々「まぁ、普通に農具の本…だけどね」

   めぐみと子供達がやってくる

めぐみ「こんにちは~」

ンジンガ「コンニチワ」

   由美、奈々、軽く挨拶

   奈々、トイレにたつ

夏樹「あ、こんちには。どこか行くんですか?」

めい「川遊び」

かんた「川遊び」

夏樹「そっか~いいね~」

めい「お魚とるんだよ」

かんた「おさかな」

夏樹「取れるといいね」

めい「うん」

みく「そんな簡単にとれないよ」

めい「取れるよ」

みく「はいはい」

めい「取れる」

みく「取れない」

めい「取れる」

みく「取れない」

めい「取れる」

みく「取れない」

めい「取れる」

みく「取れない」

ンジンガ「ヤレバ デキル!」

   子どもたち、ビビる

めぐみ「…ほらほら。じゃあ、行ってきます」

夏樹「いってらっしゃい」

   めぐみたち、玄関から出ていく

   庭先に功太がやってくる

功太「夏樹ちゃん」

夏樹「こんにちは」

功太「ビー玉、いる?」

夏樹「ううん、今出かけてる。ていうか、いつも庭から入ってきますね」

功太「ああ。子供のころからそうなんだよね。玄関使ったことない」

   笑う

功太「最近どう?あいつ元気?」

夏樹「元気。でもちょっと変」

功太「…何かあった?」

夏樹「いや、普通に変。人として」

功太「なるほど」

   笑う

功太「迷惑かけてる?」

夏樹「なんで?」

功太「あいつ、弾いたビー玉みたいに一直線だから」

夏樹「確かに」

夏樹「…昔からあんな感じ?」

功太「うん、昔からだね。女好きに見られるんだけどさ、なんていうか…誰かから認められたいって気持ちが大きいだけなんだよ」

夏樹「承認欲求ってやつね」

功太「そう。…まぁいいやつだよ。不器用なだけ」

夏樹「うん」

   夏樹、横目で功太を見る

夏樹「花火大会、誘われたよ」

功太「おーーー。いいね、いくの?」

夏樹「どうしよっかな~」

功太「いいじゃん、行ってきなよ」

夏樹「うん。まぁ、約束してあるけど」

功太「なんだそりゃ」

夏樹「なんでしょう~」

   居間に戻った奈々、功太をみつける

奈々「あ」

功太「おっす」

奈々「おっす、どうしたの?おにぃ?」

功太「そうそう」

夏樹「ケンイチさん出掛けちゃってるみたいで」

奈々「じゃあ、帰ればいいのに」

功太「なにそれ、冷たいなぁ」

夏樹「私、お邪魔?」

奈々「は?は?は?意味分かんないし、は?」

夏樹「(小声で)分かりやすいね、あの子」

功太「へえ?何が?」

夏樹「単細胞バーサス鈍感」

功太「ん?」

夏樹「なんでもない」

夏樹「そうだ、奈々ちゃん、花火大会いかないの?」

奈々「いかない」

夏樹「嫌いなんだ」

功太「そんなことないでしょ。小さいころ良く一緒にいったよね?」

夏樹「そうなんだ」

奈々「私友達いないし、興味ない」

夏樹「そっか、一緒に行く?」

功太「なんでだよ、ダメじゃん」

夏樹「え?なんで?」

功太「ケンイチ、楽しみにしてるんだろ?」

夏樹「行くよ。約束したし。3人でも良くない?」

   功太、夏樹の言葉を遮るように

功太「奈々、俺と行こう」

奈々「え?」

功太「なんか予定ある?」

奈々「どうだったかな~」

功太「ああ、予定があるなら大丈夫」

奈々「ないないないない」

功太「そっか、じゃあ決まり。ね?」

奈々「うん」

功太「楽しみだね」

奈々「うるさい」

   奈々、部屋に戻る

夏樹「ほんと、かわいいよね~」

功太「夏樹ちゃんってさぁ…」

夏樹「なに」

功太「何でもないよ」

   暗転

   BGM:フェードアウト

   BGM:花火

   点灯

【20日目 夜18時】

   由美、縁側で花火を見ている。手にはビール

   由美の肩に幸子

   ●花火の音

由美「おーーすごいすごい」

幸子「きれいーー」

由美「たーまや~」

由美「かーぎや~」

幸子「う~らめ~しや~」

由美「やっぱりいいねぇ~」

幸子「ほんとに、いいなぁ~」

由美「日本人に生まれて、良かったんだね~」

   由美、ビールを一口

幸子「はい、ほんとに、良かったです」

由美「だよね~」

由美、幸子「え?」

   由美、立ち上がって振り向く

   幸子、口を押さえて身を伏せる

由美「…死んだお父さんかね」

幸子「微妙にするどい」

   童謡「花火」前奏が流れる  

   庭に変なおじさんが入ってくる

幸子「え?死んだおとうさん?」

由美「だれ?へへへ変なおじさん入ってきた」

幸子「ひえ、う、うそーーー」

由美「だ、だ、だれか、だれかーー」

(変なおじさん)

♪どんとなった花火だ きれいだな

空いっぱいに広がった

しだれやなぎが広がった

   ケーサツに電話する由美

由美「もしもし、はい、事件です」

由美「庭に、へへへ変なおじさんが」

由美「無駄に、うまいです」

幸子「た、確かに…」

(変なおじさん)

♪どんとなった何百 赤い星

一度に変わって 青い星

も一度変わって 金の星

♪どんとなった花火だ きれいだな

空いっぱいに広がった

しだれやなぎが広がった

   変なおじさん、はける

   ンジンガ、IN

   BGM:花火の音

ンジンガ「ユミサン、ダイジョウブ デスカ」

由美「庭に変なおじさんがきて…う、歌っていった…」

ンジンガ「ドッチ イキマシタ?」

由美「あっち…」

ンジンガ「ワタシニ マカセテ クダサイ」

ンジンガ「ンバボ マレポケ モンバサ ヘナオジサペレモローーー」

   ンジンガ、おじさんを追って走り去る

由美「一番変なのが、家の中にいたね…」

幸子「幽霊も、すみついてるしね…」

   暗転

   点灯

【20日目 夜19時】

   ケンイチ、夏樹、花火大会会場近くの川辺

ケンイチ「おーーー」

夏樹「すごーい」

夏樹「キレイだねー」

ケンイチ「君の方がキレイだよ」

夏樹「気持ち悪いねー」

ケンイチ「そだねー」

   夏樹、横目でケンイチを見る

夏樹「功太さんたち、どこで見てるのかな」

ケンイチ「…どうなんだろうね」

ケンイチ「次で最後かな」

夏樹「うん」

   ●激しい花火の音

夏樹「わーーーーーーー」

   夏樹、最高の笑顔を見せる

   ケンイチ、花火を見ず、夏樹の横顔を眺める

   意外と冷静な自分に少し違和感。

   BGM:花火フェードアウト

   一瞬の静寂

夏樹「おわっちゃった」

ケンイチ「うん」

   BGM:蛙の声

夏樹「なんか、まだドキドキする」

ケンイチ「うん」

   間

夏樹「たのしかったね」

ケンイチ「うん」

夏樹「うん、ばっかり」

ケンイチ「…うん」

   間

   夏樹、そっとケンイチの肩に頭を預ける

   実家のシャンプーの匂いがした

   夜風がゆっくりと流れた

   ゆっくり、ゆっくり流れた

   微かに火薬の臭いを感じた、気がした

   遠くの国道で、車が走り抜ける

   呼吸する音が相手に聞かれるのではないか…というくらい、時折訪れる静寂

   うっすらとシャンプーの匂い

   そういえば、川が流れる音がする

   もう1台、車が走った

   夏樹、軽く息を吐き、ケンイチから離れる

夏樹「功太さんって、彼女いるのかな」

ケンイチ「え?なんで?」

夏樹「別に。どうなのかなーって」

ケンイチ「…さぁ、どうなんだろうね」

夏樹「知らないの?親友なのに」

ケンイチ「自分で聞いてみたらいいじゃん」

夏樹「…」

夏樹「そうするね」

ケンイチ「悪いね」

夏樹「何で謝るの」

   間

ケンイチ「帰ろうか」

夏樹「そうだね」

   二人、はける

   暗転

   BGM:フェードアウト

   点灯  

【21日目 朝】

   花火大会翌日   

   縁側にめぐみとみく。

めぐみ「雨、ふりそうだね」

みく「うん」

めぐみ「…田舎生活はどう?」

みく「悪くないかな」

めぐみ「そっか。無理してない?」

みく「してないよ。川遊びとか楽しいし」

めぐみ「そっか」

みく「めいも楽しそうだよ。昨日、友達出来たみたい」

めぐみ「え?うそ?なんで」

みく「公園で砂遊びしてたら、たまたま同じくらいの子がいて、仲良くなったみたい」

めぐみ「男の子?女の子?この辺に住んでるの?」

みく「なんでお母さんが興奮してるの」

めぐみ「だってー。お母さん、何も聞いてないから。色々聞きたいじゃん」

みく「なんかね、そこの小学校通ってるんだって。何人かいたみたいだよ」

めぐみ「お友達、1人じゃないの?」

みく「うん」

   めぐみ、こみ上げるものを抑える

めぐみ「もー。言ってくれればいいのに」

みく「恥ずかしいんだよ、きっと」

めぐみ「……」

みく「これで、決まりだね」

めぐみ「えっと」

みく「この町に、住むんでしょ?」

めぐみ「…そうだね」

みく「どうしたの?」

めぐみ「なんでもない」

めぐみ「ちょっと、めいのところ行こうよ。お母さん、色々お話聞きたい」

みく「うん。私はもう少しここにいる」

めぐみ「そう?じゃあ、先戻るね」

みく「うん…」

   めぐみ、部屋に戻る

   BGM:フェードアウト

   暗転

   BGM:雨の音

   点灯

【21日目 昼】

   ケンイチ、縁側に座っている

   雨が降っている

アカペラ:四季の雨(夏の歌詞のみ)

♪にはかに過ぐる 夏の雨

物干し竿に 白露を

なごりとしばし 走らせて

にはかに過ぐる 夏の雨

ケンイチ「君は夏の雨のようだ…なんて。ほんと、あっという間に通りすぎて行ったなぁ……まてよ。通りすぎたのは俺か。だって、ビー玉男…だもんな」

   軽く笑う

ケンイチ「完全に終わった。…バイバイ、俺の夏」

ケンイチ「さみしいな」

   ケンイチ、肩に手を当てる

ケンイチ「幸子」

ケンイチ「なんで居ないんだよ。…いつもいるくせに」

幸子「いるよ」

ケンイチ「え?」

   幸子がやってくる。

   そっとケンイチの背中に。

幸子「花火大会、どうだったの?」

ケンイチ「つまんなかった」

幸子「…そうなんだ。楽しみにしてたのに」

ケンイチ「いや、そうでもなかったよ」

幸子「そうなの?」

ケンイチ「幸子は、なんで俺なの?」

幸子「ん?」

ケンイチ「なんで、俺に取り憑くの?」

幸子「…私のこと、見えるから。…さみしくないじゃん」

ケンイチ「見えない人に取り憑くのは、さみしいんだ」

幸子「さみしいよ。1人でいるのと変わらないもん」

ケンイチ「うん。1人はさみしい」

幸子「そうだね」

ケンイチ「幸子」

幸子「なに?」

ケンイチ「ありがとう」

幸子「こちらこそ、こちらこそ」

♪ダンス&ムーブメント「残り少ない夏の思い出」

   一気に距離を縮めたケンイチと幸子

   残り少ない夏休みの思い出をダンス&ムーブメントで表現

   ケンイチ、幸子、楽しい思い出を作る

   ラスト、縁側に座るケンイチ、幸子

   BGM:蛙の声

【28日目 夜】

   夜の縁側。ケンイチと幸子

   会話はない

   ケンイチ、遠くを見つめる

幸子「ねぇ」

ケンイチ「うん」

幸子「あと2日でさよならだね」

ケンイチ「…」

幸子「聞いてる?」

ケンイチ「あのさ、ついてくればいいじゃん。東京に」

幸子「なんで?やっと解放されるのに」

ケンイチ「ていうか、解放されたかったら、とっくに東京戻ってるし」

幸子「なにそれ、ちょっと嬉しいな~」

ケンイチ「茶化すなよ」

幸子「なになに、どうしたの~」

ケンイチ「茶化すなって」

   間

ケンイチ「…一緒に行かない?」

幸子「だから、駄目だって」

ケンイチ「分かってる」

幸子「だったら…」

ケンイチ「分かってるけど」

幸子「……」

ケンイチ「いつも居て欲しいから」

幸子「…どうして?」

ケンイチ「幸子のこと、好きみたい」

幸子「え…うそ」

幸子「嬉しい」

ケンイチ「ほんと?」

幸子「嬉しいよ」

幸子「嬉しい、嬉しい、嬉しい」

   幸子、立ち上がる

   満面の笑み

ケンイチ「なにそれ」

幸子「ううん、嬉しくって、とても嬉しくて幸せで…身体が軽くなって自分が自分じゃないみたい。まるでこのまま………」

   幸子、表情が曇る

ケンイチ「どうしたの?」

幸子「ううん」

   幸子、笑顔に戻る

幸子「ケンイチも立って」

   ケンイチを立たせる

♪ペアダンス

   幸子、曲中に天使のような姿に

   ケンイチと楽しそうに踊る

   ダンスが終わる

幸子「ケンイチ、ありがとう」

ケンイチ「なんで」

幸子「ケンイチのおかげ」

ケンイチ「…なにが?」

幸子「これで天国に行ける」 

ケンイチ「…なにが?」

幸子「寂しいよ、ケンイチ」

ケンイチ「え?だから、なにが?」

幸子「寂しいけど、ちゃんと満たされてる。……満たされちゃったんだよ」

ケンイチ「いやだ…」

幸子「これで三途の川を渡れるよ」

ケンイチ「いやだ…いやだ、幸子」

   幸子、少しずつ離れていく

ケンイチ「まってよ、ちょっと待って」

   ケンイチ、幸子を抱き締めようとするが、その手は空を切る。

ケンイチ「あれ?…幸子?」

   幸子の姿はもう見えない

幸子「ありがとう」

ケンイチ「幸子、幸子、いやだ」

幸子「本当に、ありがとう」

   ケンイチ、崩れ落ちる

幸子「ケンイチ、頑張れ。大丈夫。私、見てるよ。ずっと、見てるから」

   暗転

   BGM:蝉の声

   点灯

【最終日 朝】

   ケンイチが東京に帰る日の朝。

   同じくして、夏樹、めぐみ達も今日でここを去る。ンジンガも帰るらしい。

   ケンイチ、夏樹、めぐみ達、ンジンガ、由美、奈々、縁側に座っている。

   功太は庭に。

功太「えーそれでは、解散式をはじめさせていただきます」

ケンイチ「よっ名司会者」

奈々「やめなよ、おにぃ」

由美「そうだよ、せっかく引き受けてくれたのに」

ケンイチ「だいたい、何、解散式って」

めぐみ「ほら、たまたまみんな帰る日が同じだったから。あとは…由美さんなりのエールだと思いますよ」

ケンイチ「そういうもんかね」

夏樹「そういうものだよ」

ケンイチ「お、おう」

功太「まず最初に、奈々ちゃんから、開式の言葉をいただきます」

奈々「え?聞いてない」

   奈々、功太に連れられて前に出る

奈々「えーそれでは、解散式をはじめさせていただきます」

功太「……それ、俺が言った」

奈々「う、うるさい、はじめるの。はいっ、はじめーーー」

めぐみ「かわいい」

功太「えっと、みなさん、これからここを出て、それぞれの未来へ羽ばたいていくわけですが」

めい「おなかへったー」

みく「静かに」

功太「…あの、えっと、それぞれの決意をですね、順番に発表してもらいたいと思います。…誰から行きます?」

夏樹「私からいいですか?」

功太「お、どうぞ。では夏樹ちゃんから」

   夏樹、前に出る。

夏樹「みなさん、短い間でしたがありがとうございました。楽しいメンバーに恵まれて、すっかり元気になれました」

奈々「なんで元気なかったのー?」

夏樹「うるさい」

夏樹「向こうに帰ったら、また派遣でもやりながら、婚活に励みます」

めぐみ「男性陣、立候補者はいないの~?」

功太「ケンイチ」

ケンイチ「は?なんで」

夏樹「まぁ…またいつでも連絡してください。本当にありがとうございました」

功太「ありがとうございました。では、次を指名してください」

夏樹「じゃあ、かんたく~ん」

かんた「はいっ」

めぐみ「じゃあ、みんなで行こうか」

   めぐみ、子供達、前に出る。

功太「じゃあ、かんたくん、どうぞ」

かんた「お母さんを、大切に、します」

   一同、湧く

めぐみ「次はめいかな」

めい「うん」

めい「私は、東京の学校で、友達をたーっくさん作ります。自分から、話しかけます。がんばります」

めぐみ「え?」

みく「何言ってるの?引っ越して、こっちに住むんだよ?」

めい「やだ」

みく「なんで」

めい「…やだ」

めい「やだーーーー」

   めい、めぐみに抱きつく。

めぐみ「めい、なんで?」

   めい、めぐみに耳打ちする。

めぐみ「…え?」

   めぐみ、みくに向かって話し出す

めぐみ「お姉ちゃんを寂しい気持ちにするのが嫌なんだって。ほら、みくの友達、東京に沢山いるでしょ?…めい、頑張って向こうで友達作るって。そう言ってるよ…」

みく「わたし…」

   みく、涙をこらえる

めぐみ「みく、おいで」

   みく、めぐみに抱きつく

めぐみ「みく、めい、かんた、あなた達は本当にいい子。お母さん、みんな大好き。わたしも…お母さんも頑張るからね」

   一同、感動の嵐

   功太、一番号泣する。

功太「…これは、もうこれは、家族の決意…ということで、OKでしょう。非常に…非常に感動しました、ありがとう…では、次、ンジンガさん」

ケンイチ、夏樹「ちょ、この流れで??」

奈々「ちょっと待ったーーーー」

功太「え??」

奈々「もう駄目だ…こんなの見たらもう我慢できない。わたしも、決意発表する」

   一同、湧く

奈々「わたしは、フリーターに、なるっ」

功太「アイドルになります、じゃないのかよーーー」

奈々「ちょっと、それ内緒だって」

夏樹「え?」

ケンイチ「え?」

由美「え?」

めぐみ「え?」

奈々「功太、なんでばらすの、最悪、最悪」

功太「わーーごめん」

ケンイチ「わーごめん、じゃなくてさ、お前奈々に呼び捨てにされてんじゃん」

功太「いや、それはいいでしょ。付き合ってるんだから」

夏樹「え?」

ケンイチ「え?」

由美「え?」

めぐみ「え?」

一同「えーーーーーー」

ケンイチ「いつの間に」

夏樹「あ、花火大会」

功太「まぁ、そんなところで」

ケンイチ「は?は?どういう…」

夏樹「わたしがキューピッドじゃん」

奈々「えへへ、どうもその節は」

めぐみ「とにかく、おめでとう」

   一同、ガヤガヤ

ンジンガ「アノ ワタシカラ ミナサンニ コトバ アル」

功太「お、ンジンガさん、どうぞ」

   一同、なんか不安

ンジンガ「If you want to go fast, go alone.If you want to go far, go together.」

由美「つまり、どういうこと?」

ンジンガ「ハヤク ススミタイナラ ヒトリガイイ デモ トオクマデイクナラ ダレカト トモニ イキマショウ」

奈々「良い言葉」

   それぞれが、それぞれの思いを馳せる

ンジンガ「コレ ワタシノ クニノ コトバ」

夏樹「早くいい人見つけないと」

ンジンガ「ココデミンナ サヨナラ デモ ワタシタチ モウナカマ スグアエル ヒトリ デハナイ ダカラ トオク イケル ダイジョブ」

夏樹「ありがとう」

ケンイチ「誰かと共に…か」

夏樹「何考えてるの」

ケンイチ「別に」

夏樹「女の子のことでしょ」

ケンイチ「うん、そうだよ」

夏樹「相変わらず」

ケンイチ「うるせーよ」

功太「なにごちゃごちゃ話してんの。ほら、最後はお前だぞ」

ケンイチ「ああ…」

   ケンイチ、前に出る

ケンイチ「あの、大学卒業して…一応、それなりの所に就職して。あ、皆さん、短い間でしたが、ありがとうございました」

功太「いいよ、そんなの」

ケンイチ「…で、実はそれから4回も転職して。今の会社も駄目で。…最後の夏休み、ってつもりで帰ってきた。なーんか上手くいかないなぁ、前はこんなんじゃなかったのに…なんて悩んでて」

ケンイチ「でも、何となく、ここに来て、いろんな話をして、色々あって…。単純だけど大切なことに気づいたような…気がしてる」

ケンイチ「1人で、どこに行こうとしてたんだろうな…」

   ケンイチ、肩に手を当てる

ケンイチ「どこにいても、ずっと見ていてくれる。今はそんな気がしていて」

功太「そうだよ。またいつでも帰ってこいよ」

ケンイチ「おう」

   何となくしんみり

由美「はい、しんみりしない」

由美「あのね、ンジンガさんの国では、ドアが空いている家には誰でも入って構わないんだって」

ンジンガ「ハイ ソウデス」

功太「日本では考えられませんね」

由美「そうだね。あっちでは、財産っていう概念がないそうだよ。家畜にしても、食糧にしても、みんな共有のもの。もちろん、家もね」

夏樹「なんか、素敵」

由美「だからってわけじゃないけどさ、うちの玄関も開けておくから。あんたたち、いつでも帰っておいで。……その代わり、お代はしっかりいただくけどね」

めぐみ「もちろんです」

ケンイチ「またいつか、一緒に夏休みしようぜ」

   一同、頷く

由美「あんた達、頑張るんだよ。じゃあ…解散」

一同「はい」

♪ダンスナンバー

   全員正面を向き、希望に満ちたダンス。

   1人ずつ退散していく。

   誰もいなくなった居間。

   暗転

   BGM:蝉の声

   点灯

【最終日 昼】

   ケンイチ、夏樹を駅まで送る。

   駅の改札前。

夏樹「ありがとう。ここでいいよ」

ケンイチ「うん」

夏樹「色々あったね」

ケンイチ「うん」

夏樹「また、うんばっかり」

ケンイチ「色々、ありがとう。なんか寂しいね」

夏樹「いつでも連絡出来るし」

ケンイチ「そうだね」

   間

夏樹「じゃあ、いくね」

ケンイチ「うん、元気で」

   夏樹、改札を通る

   急に立ち止まり、振りかえる

夏樹「ねぇ」

ケンイチ「ん?」

夏樹「わたし、ケンイチさんのこと好きだったよ」

ケンイチ「え??」

夏樹「じゃあね」

   夏樹、去る

ケンイチ「…」

   ●電車が去る音

ケンイチ「はぁー?今さらー?…女の子、むず…」

ケンイチ「まいっか、帰ったら連絡してみよーっと」

   エンディングBGM

   ケンイチ、スキップで去る

   終わり

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