〈あらすじ〉
ある夏、男は駅構内で座るギャルをナンパした。理由は良くわからない。しかし、その出会いが男に誇りと自信を与える。そんな出来事から二年。男は、今日も身支度をし職場であるファミレスに向かう。
〈人物〉
男 31歳独身。ファミレス店長
〈舞台〉
男の部屋
布団が一枚敷いてある
テーブルや、代わりになる箱などがあっても良い
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男、朝方に布団で寝ている
エアコンが強風でつけっぱなし
何となく目を覚まし、寒さを感じる
布団を頭までかける
間
布団から手を出し、エアコンのリモコンを探す
エアコンを切る
もう一度布団にもぐる
間
蝉の声が聞こえる
間
冬を逃れて、アナグマなれば、蝉がジリジリ、鳴いている
あったかい。気持ちいい
僕は、夏が好きだ
蝉の声がうるさい
間
少し暑くなる
男、寝返りをうつ
掛け布団を股に挟む
火照る身体に、ヒンヤリ染みる、繭を抱えて、夢の続き
つめたい。気持ちいい
君も、好きだ
僕は、夏を好いているんです。でも、そんな君ともさよなら
……起きよう
布団から出る
布団を畳んでしまう
洗面台に行き、顔を洗う
うがいをする
台所に行き、茶碗にご飯をよそう
冷蔵庫からお新香を出す
今の会社に不満はありません。むしろ仕事は楽しい。遣り甲斐もある。でも、誇りが持てなかった。矛盾してますか?そうですよね。分かります。分かりみ
食卓に座る
ご飯を食べながら話す
店長って、何となく響きがかっこよくないですよね。課長とか部長といえば重要なポストだし、施設長や工場長も偉い感じがする。不思議なのは支店長。支店長はカッコいいんです。まぁ、支店があるくらい大きな組織ってことでもあるんですが。うちの店だって全国チェーンですから、かなりの数があります。だから納得感は薄いです。薄口醤油
そして、ファミレスの店長…となると、さらに響きがかっこよくない気がしちゃいます。そう、僕はファミレスの店長
時計に目をやる
急いで食器を片付ける(流しに放り込む)
出勤のため、着替え始める
突然ですが、ラーメン屋には何をしにいきますか?…そうです。ラーメンを食べに行く、正解。そば屋にはどうですか?…ですよね。そばを食べに行く、正解。うどん屋には…そう、うどんを食べに行くわけです。まぁ、個人的にうどんはあまり好きではないので、天丼などあれば助かりますが。それでは、ファミレスには何をしにいくのでしょうか?……ちがいます。大切な誰かと、素敵な時間を過ごすために行くんです
着替え終わる
家を出る
相手は友達かもしれません、恋人かもしれないし、家族かもしれない。先輩かと思いきや後輩かもしれないし、イケない関係かもしれない。でも、イケなくない関係かもしれない。しかし、全てに共通するのは【愛】です。そこには愛があるんです。アリゲーター
店長になるのが目標でした。しかしどうでしょう。【ファミレスの店長】その肩書きがついたとたん、誇りを失ったんです
仕事何してるの?ファミレスの店長……なんか、やっぱり何となくかっこよくない。気がしていた
駅に到着
改札を通る
遣り甲斐があるってのも、嘘かもしれないです。だって、帰りにこの改札を通るとき、僕の視界はモノクロになってしまうのだから
1日働き、この駅の改札を過ぎるころ思うんです。ああ、ここから家に帰って食事をとり、風呂に入ったら寝るだけか、と。無理やりに流行りのゲームもしてみますが、ついつい、後何時間後には出勤か…などと考えてしまい集中できない
とにかく、この改札と僕のメインモニターは連動しているんです。改札過ぎれば目の前真っ暗。じぶんまくら
そんなとき、君と出会った
照明切り替わる
色を加えた、地べたの君が、駅の改札、誘蛾灯
ハッキリいってギャルです。白い方ではなく、黒い方のギャルです。こんがり焼けている肌が、なぜかカラフルに見えた。今思うと派手なメイクのせいだったんだと思います。でも素っぴんだったような気もします
男、電車に乗る
男、つり革を握る
こんにちは
僕は思いきって声をかけた。そんな柄でもないのに。むしろ未だかつてナンパなんてしたことはない。でも、何故かこのときは声をかけたんです
こんにちは
すると、夜じゃね?と返ってくる
ドキドキした。小さく震えている自分に気づいた。僕の心は高揚していた
こんばんは
言い直した
僕の心は、満ちていた
学生時代はずっと三軍。でも、黒いギャルの彼女は一軍だ。いや、一軍の金魚のふんだ。容姿はそこまでではない。きっと頭も悪い。でも、学生時代は一軍のグループにいたのだから、それは一軍ということになるだろう。まぁ、全部僕の想像ですが。イマジネイチョン
ちなみに二軍は真面目グループ。容姿は並みかそれ以下、でも成績優秀。真面目。ちょっと~男子、掃除しなさいよ~とか。そんな感じの人たち。いや、そんな話はどうでもいいんだ。とにかく、僕は彼女に声をかけた
照明切り替わる
夜景眺めて、朝日が昇り、顔を合わせて、照れる君
夜景を見に行きました。女の子とドライブといえば夜景でしょう。そうに決まってる。異論がある方は僕とラップバトルでもしましょう
山の上の公園で朝まで話しました。最初はバカみたいにでかい声で話し、ゲラゲラ笑っていた彼女。時間がたつほど声のトーンが落ち着いてくる。小さくなる。優しくなる。朝方の彼女はとても大人しくて、素直で、多分眠かったんだと思います。でも柔らかい笑顔で、とても可愛かった
風が気持ち良かった
やっぱり、僕は夏が好きです
仕事何してるの?突然聞かれました。6時間も一緒にいて、今さら聞かれました。店長だよ、と言いました。何の?と聞かれました。ひとつ間をおき、ファミレスだと答えました
カッコいいと、言われました
ファミレスの店長を、カッコいいと言ったんです。今度、職場に遊びに来るそうです。僕が仕事をする姿を見に。バカですよね本当に
電車を降りる
徒歩で職場に向かう
朝6時、僕は彼女を駅まで送り、わざわざ入場券を買ってホームまで見送る。始発を待つ間、ベンチに座って手を繋いだ。特に会話はない。口を開かないかわりに、繋いだ手の中で何度か言葉を交わす。彼女はどんな顔をしていたのでしょう。見たいような、見たら夢から覚めてしまいそうな、不思議な感覚。とにかく、二人にはもう言葉なんて必要ありませんでした。プライスレス
電車が到着する。ドアが開き、それを待って手をほどく彼女。電車に乗車した彼女は、良く分からないポーズを僕に向けた。多分、流行っている何かだろう。僕はそれをちょっと真似て見せる。ぎこちないからか、彼女に大笑いされた。ドアが閉まって声は聞こえないので、何だか余計に腹が立った
彼女を見送り、僕はそのまま職場に出勤する
職場に到着する
それから、今日でちょうど2年になります。彼女はまだ店には来ていません。待っているわけじゃないですよ。待つ必要がありません。彼女は僕に誇りと自信をくれましたから、それで十分です
僕は今、この仕事を心から愛している。そして、ファミレスの店長は、かっこいい
エプロンをつける
君は、夏そのものでした。僕は、夏が好きです
終



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