〈登場人物〉
赤星歩(22)女 新任社会科教員 川瀬の副担任
風間慧(29)女 数学科教員 川瀬の担任
土井瑞穂(32)女 家庭科教員
水元すみれ(27)女 美術科教員 美術部顧問
温井雅春(35)男 英語科教員
畠山慎二(40)男 国語科教員
山岡かをり(25)女 事務員
川瀬葵(15)女 中三 美術部
わらし 赤星が心で飼っている人的な何か
〈あらすじ〉
新任教師の赤星は、心に「わらし」を飼っていた。彼女が自問自答するとき、それは現れる。赤星の父は厳格な教師であり、父親としても完璧だった。そのため、彼女は「教師とはすべてが完璧な人間がやるべき職業だ」という考えを持つようになる。しかし、彼女の中に迷いもあった。それが「わらし」という形で現れるようになったのだ。赤星が毛利中学校に着任して初めての夏休み。とある日の職員室で、様々な事件が起こる。教師たちの秘密が明らかになっていく中、赤星と「わらし」はどんな対話をしていくのだろうか。彼女は長年の呪縛から開放されるのだろうか。
〈舞台〉
・職員室
・中央にはデスクが8台。それぞれの教師のデスクがある
・空きデスクには固定電話、プリンター、お土産のみそまん
・デスクには、各教員の私物、プリント類、書籍などが置いてある
・上手側に応接スペース(パーティションの前にテーブル、椅子)
・下手側に職員共用スペース(ローテーブル、長椅子がコの字に置かれている)
・上手はけ口が職員室のドア
・下手はけ口には流しがある(冷蔵庫もあり)
・舞台前面に窓がある設定。窓の向こうにはグラウンドがある
〈本編〉
点灯。赤星、舞台上を横断
センター付近で大勢の声に呼ばれる
声「魚先生ーーー」
赤星「はーーーい」
ダンス照明に切り替わる
◆オープニングダンス
6人の【教師としての顔】がカッコ良く描かれるようなダンス
山岡、川瀬も登場
ダンス終わり、暗転
セミの声の中、点灯
夏休み。中学校の職員室。8月も下旬に入り、二学期の準備で何人かの教員が出勤する
舞台上、上手応接スペースに土井、川瀬。下手共有テーブルに温井「職員室レディオ※」に使うカードを広げ、何やら考えている。山岡、職員室内の掃除に来ている
※「職員室レディオ」→教員間のコミュニケーションを活発にするため、放課後等の時間を使って実施。温井が毎回違うゲスト(教員)を招きラジオ風にトークを収録。それを教員間に配信する。トークテーマは、引いたカードでランダムに決まる。(温井のアイデア)
シーン①川瀬の面談
川瀬、赤星に呼び出されて職員室に来ている。しかし、赤星不在だったため、土井が対応している
土井「絵のほうはどう?」
川瀬「はい、描いてます」
土井「どんな?」
川瀬「うーん、そうですね…」
土井「うん」
川瀬「たくさんの樹木が連なっていて…」
土井「どこかの風景?」
川瀬「いえ、強いて言うなら…」
土井「うん」
川瀬「うぞうむぞう」
土井「うん?」
川瀬「あれは有象無象です」
土井「いや、川瀬さんは素敵な絵を描くじゃない」
川瀬「そういうことではなくて」
土井「うん」
川瀬「そうだな…」
土井「うん」
川瀬「概念です」
土井「うん?」
川瀬「私たち人間の日々の行為だったり、表の顔、裏の顔、この世の全ての結果と理由、宇宙全体の存在…」
土井「お、おー」
山岡「佐々木先生からのお土産、あと一つ残ってますよー」
川瀬「あ!!」
土井「え??」
川瀬「土井先生、すみません」
土井「なに…?」
川瀬「森羅万象って言った方が解りやすかったかもしれません」
土井「そ、そうね…………流石、うちの美術部はレベルが高い」
川瀬「まぁ。私は普通ですけど」
土井「水元先生が来て強くなったんだよ。すごい指導力でしょ?」
川瀬「…独特ですね」
土井「前の学校でも、全国で金賞とらせてるんだよ。3年連続」
川瀬「え?すごい先生だったんですね」
土井「まぁとにかく、絵は続けていたんだね。ちょっと安心したよ」
川瀬「そうなんですか?」
土井「そうだよ。学校に行けてないって聞いたときは心配したけど。部活は行ってるんだね」
川瀬「ときどき…ですけど」
土井「水元先生も川瀬さんには期待してると思うよ。あんな良い絵を描くんだもん」
川瀬「ありがとうございます…」
土井「先生もずっと素敵な子だなって思ってる。1年生のころ私のクラスだったでしょ?勉強も運動もできて、絵も上手。でもとっても謙虚」
川瀬「いえ、そんな…」
土井「クラスメイトもあなたに期待してたと思う」
川瀬「そうでしょうか…」
土井「だから学級委員に選ばれたんじゃない」
川瀬「…」
土井「その頃から悩んでた?」
川瀬「いえ、2年生になってからです」
土井「そっか。きっとまた来られるようになるよ。あなたなら大丈夫!」
川瀬「頑張ります」
土井「うん」
山岡「佐々木先生からのお土産、あと一つ残ってますよー残った残った貴乃花」
川瀬「赤星先生まだですかね」
土井「そうだね、そろそろだと思うんだけど」
山岡「すべりたおしたので切腹します」
土井の携帯が鳴る
川瀬「私、一旦部活に戻ります」
土井「そう。赤星先生がきたら伝えておくから」
川瀬「お願いします。では失礼します」
山岡「無念…」
山岡、倒れる。川瀬、退室
シーン②彼女の背中、父の背中
土井、携帯に出る
土井「はい、お世話になってます…はい…何かありました…?……そうですね、食前に……あれ?いつもの引き出しに入ってませんか?……そうですか…」
赤星、走って入室。続いてわらし、IN
赤星、温井に声をかける
赤星「お疲れ様です。…あれ、3年の川瀬さん来ました?」
温井「ついさっきまでいたよ。土井先生が対応してくれてたみたい」
赤星「しまったなぁ」
温井「また学校こなくなったんだって?」
赤星「そうなんです。部活には来てるみたいなんですけど」
温井「風間先生も残念だろうな。あんなに頑張って学校に連れ戻したのに」
赤星「そうなんですよ…またいじめなのかなぁ」
温井「いじめられるタイプには見えないんだけどね」
赤星「彼女何でも出来ちゃうので…逆に上手くいかないというか」
温井「あー」
赤星「おばあちゃんが毎日言ってました。女の嫉妬は井戸より深いのよ~って」
温井「おばあちゃん、こえー」
山岡、復活する
山岡「佐々木先生からのお土産、あと一つ残ってますよーみそまんのようです!」
温井「そうだ。藤川先生見なかった?」
赤星「各部活を回ってるみたいですよ」
温井「なんで」
赤星「夏休みが終わる一週間前には必ずやるんですって。このタイミングで自分のクラスの生徒と話しておくと、二学期スタートの空気が違うそうです」
温井「わざわざ部活に担任が来たら気持ち悪くない…?」
赤星「偶然を装うみたいです。たまたま体育館の備品をチェックに来た…とか、たまたま通りかかった…とか、休憩中を狙って!」
温井「たまたまって言っても…いつ休憩になるかなんてずっと見てなきゃ分かんなくない…?」
赤星「ずーっと見ているそうです。そのタイミングが来るまで!」
温井「こえー…」
赤星「熱心ですよね!」
温井「そ、そだねー」
赤星「藤川先生に用事ですか?」
温井「ん-どうするかな…赤星先生、今時間ある?」
赤星「あ~ちょっとないかもです」
温井「この間の企画の件なんだけどさ」
赤星「あの」
温井「うん。(カードを見せて)見て見て、これにトークテーマ書いてあってね」
赤星「えーっと、すみません。川瀬さんの対応がありまして」
温井「うん。企画の名前なんだけどさ、職員室ラジオと、職員室レディオ、どっちが良いかな~と思って」
赤星「は、はい。ちょっと考えてみます〜」
土井、電話を終える。それに気づく赤星
赤星「あ、土井先生すみませんー!」
土井、赤星を正すように
土井「おはようございます」
赤星「あ…おはようございます」
土井「川瀬さんさっきまでいたんだけど」
赤星「すみません。音楽室前のトイレがいたずらされていて…」
土井「どんな?」
赤星「おしり洗浄ボタンの所に『このボタンを押すとドリルが出てきます』って落書きしてありまして」
土井「あら素敵」
赤星「だから『ドリルは出ません』って貼り紙してきました!」
土井「それ合ってる?」
赤星「川瀬さん悪いことしたな~。わざわざ呼び出したのに」
土井「後でまた来るみたいだから待ってれば良いと思うよ」
赤星「はい、そうします」
土井、自分の席へ。赤星、土井の表情が気になる
赤星「土井先生、どうかしましたか?」
土井「え?」
赤星「さっきの電話ですか…?」
土井「いや、そんな大したことじゃないよ。ヘルパーさんからの電話。父にボケが始まっちゃってね」
赤星「そうなんですか」
土井「薬がいつもの場所になくて困ったみたい」
赤星「はい」
土井「…」
土井「うちの父も教師でね。定年まで勤めあげたんだよ」
赤星「土井先生のおうちも、なんですか」
土井「あれ、赤星先生のお父さんもだっけ?」
赤星「はい。もう少しで定年です」
土井「そっか~。どんなお父さん?」
赤星「怖いです」
土井「うちも」
2人、何となく笑う
土井「昭和ど真ん中って感じの父だったからね、漫画も読ませてもらえなかったよ」
赤星「厳しいですね」
土井「でも、私にとってはスーパーヒーローみたいな存在だったよ。何でも出来て、強くて……」
赤星「…」
土井「赤星先生のお父さんはお元気?」
赤星「お陰さまで」
土井「そう。同じ教師になって、喜んでるでしょ」
赤星「どうでしょう。予定どおりなんだと思いますよ、父にとっては」
土井「予定どおり…?」
赤星「中学も高校も大学も父の言う通りに進学して。いつの間にか当たり前のように教員目指すようになってました」
土井「教育熱心だったんだね」
赤星「これで良かったのかな…なんて思うこともありましたけど、私も教育者として父のような人間を目指しているので!」
時が止まる
わらし「だから正解の道を辿ってるんですきっと…って言うんだろ?」
赤星「そうだよ」
わらし「はい、ダウト」
赤星「そんなことないって」
わらし「何度も言ってるけどさぁ…」
赤星「分かってる」
わらし「君のお父さんだって1人のときは鼻ほじってるし、ウォシュレット使うときはお尻を前後にフリフリしてるんだぜ…こうやってさ…なかなか当たんないんだよね」
赤星「すぐにやめて」
時が動く
土井「しっかりしたお父さんだったんだね」
赤星「はい。家でも完璧な父親でした。教師をやる人間はそうあるべきだって思ってます」
土井「そうなのかな。私は完璧じゃないよ?」
赤星「そんなことないです。絶対」
土井「裏ではとんでもない人間かもしれないよ…ふふふ」
赤星「やめてくださいよ~尊敬してるんですから」
土井「まぁ冗談抜きでさ。教師は完璧人間じゃないといけないって考え、改めたほうが良いかもしれないよ」
赤星「はい!そう思えるようになるまで頑張ります!」
土井「肩の力抜いてね〜」
シーン③アイデアマン温井
畠山、入室
畠山「どうも~」
各々挨拶を返す
土井「畠山先生、どうなりました?」
畠山「とりあえず解決」
土井「小林くん認めたんですか?」
畠山「ようやく認めたよ。最後は握手して仲直り。で、一緒に帰っていった」
赤星「何があったんですか?」
畠山「今流行りのあれだよ。コマぶつけ合うやつ。なんだっけモンスター…」
土井「モンスタースピナー」
赤星「ああ、モンスピですね」
畠山「そう。そのモンプチってやつをさ、同級生にとられたってことでさ」
土井「高級キャットフードだ」
赤星「盗まれたってことですか?」
畠山「いや、俺も最初そういうことかと思ったんだけどさ。あれって、勝った方が負けた方のモンプチを貰えるらしいじゃん?」
土井「やっぱり猫が見える」
赤星「確かにアニメだとそういうルールでやってるんですけどね。現実でやったら問題ですよ」
畠山「結局あれってベーゴマってことだろ?物は見せようだね~」
赤星「オモチャ業界もその辺上手ですよね。上手くアニメとコラボして」
畠山「そのあと教頭と話したんだけど。明日、緊急会議だって」
赤星「え?本当ですか?」
畠山「全国的に同じトラブルが続出しているらしくて」
赤星「くそー。オモチャ業界めーー」
温井「あのー」
赤星「?」
温井「畠山先生、ちょっといいですか」
畠山「…なんだね」
温井「職員室ラジオと、職員室レディオ、どっちがいいですかね?ああ、赤星先生は結局どっち派?」
山岡「コピー用紙切れてるんですけど、最後に使ったの誰ですかー」
赤星「普通にラジオ、がいいかなぁ」
畠山「どっちでもいいよそんなものは」
土井「職員室なんちゃらって何?」
赤星「温井先生のアイデアなんですけど…」
温井「毎回違う教員を招いてラジオ風にトークを収録。それを教員間に配信する。ちなみにトークテーマは、引いたカードでランダムに決まる」
土井「なんのためにやるの?」
温井「教師間のコミュニケーションですよ。現場の生の声を聞き、全員で共有するんです」
土井「んーうん」
畠山「意味あるのかねぇ」
温井、赤星と畠山を巻き込む
温井「ちょっと2人付き合ってくださいよ。一回やってみましょう」
赤星「はい…」
畠山「忙しいんだけどねぇ」
温井「僕だって忙しいですよ」
畠山「暇だろ。こっちはね、二学期のテストを作らなきゃいけないんだよ」
赤星「え?もう作るんですか?」
畠山「二学期は行事が多いからね、今やれることはやっておいたほうが良いよ」
赤星「確かに…体育祭に文化祭、色々ありますもんね」
畠山「しかも学期末が終わったら、三学期は短いからね。成績もすぐに出さなきゃいけない」
赤星「勉強になります。ありがとうございます」
畠山「かまわんよ」
温井「ということで、こちらへ」
畠山「どういうことだよ」
赤星「…」
渋々席につく赤星、畠山
温井「はいそれでは始まりました、職員室レーィディオ~」
赤星「結局レディオのほうなんだ」
温井「本日のゲストは、社会科の赤星先生と~?」
畠山「国語科の畠山です。…なんで俺は自己紹介?」
温井「さて…あれですね……わりと、良い天気ですね」
土井「へたくそ―」
温井「では、張り切ってトークテーマのほういってみましょう」
赤星「わー(拍手)」
温井「では、畠山先生からどうぞ」
畠山、カードを引こうとするが、温井が急に歌い出すので、引くのをやめる
温井「なにがでる、なにがでる、ららららんらん、らららら」
赤星「わりと後期のごきげんようだ」
畠山「タイミングわかりにくいんだよ」
畠山、カードを引く
温井「出ました。こんな運動会はいやだ。略して、こんうん〜」
土井「大喜利番組だっけ?」
温井「では畠山先生、こんな運動会はいやだ。どんな運動会?」
畠山、大喜利の回答を出す
変な空気になる
土井「ナイッスゥ」
畠山「どうしてくれるんだよ!」
山岡「コピー用紙切れてるんですけど、最後に使ったの誰ですかー」
畠山「うるさいな、自分で補充したまえ」
山岡「くやしいです!」
赤星、話題を変える
赤星「いやーしかし、温井先生ってアイデアマンですよねー?」
温井「ありがとう」
赤星「この間のアレも良かったですよ、職員室図書コーナー」
温井「そうでしょう」
赤星「普通思いつかないですよね。職員用ロッカーを潰して図書コーナーにするなんて」
畠山「お陰で荷物が置けなくなったよ」
赤星「なんで思いついたんですかー?」
温井「今って後輩に対して色々教えてあげたいと思っても、それがパワハラになっちゃう時代でしょ?」
畠山「それは同感」
温井「だから、後輩に学んでほしい本をそこに置くんだよ」
畠山「なるほど」
温井「自主的に読んで学ぶのなら、パワハラにならない」
赤星「画期的ですよね。で、どうですか?皆さん読んでますか?」
温井「まぁ運用したてなんでね。馴染むまでは無理矢理にでも読ませていきますよ」
赤星「パワハラだ」
シーン④風間登場、それぞれの意見
水元、入室
水元「お疲れ様です。騒がしいですね」
土井「いや、何でもないよ。それより川瀬さん美術室戻ったけど会った?」
水元「入れ違いですかね。もう面談終わったんですか?」
赤星「それが、私も入れ違いになってしまいまして。まだ話せていないんです」
水元「あれ?赤星先生が面談するんですか?副担任なのに」
赤星「今回は私がすることになりまして」
水元「そうなんですね。呼んできましょうか」
赤星「いや、あとでまた来るみたいなんで。ありがとうございます」
水元「はい」
温井「そういえば、先生方今日のお昼ってどうします?」
水元「このくらいの時間になるといつもそれですね」
温井「それが夏休みの楽しみなんだよ。普段外食なんて出来ないから」
土井「私お弁当です」
畠山「俺は…そうだな善勝(よしかつ)かな」
温井「あ、自分もそろそろ善勝かなって思ってたんですよ」
水元「私、部活も見ながらなんで無理ですね」
温井「赤星ちゃんは行けるよね?奢ってやるから」
土井「パワハラだ」
赤星「私も川瀬さんがいつ来るか分からないので…」
温井「皆さんお忙しいですね〜」
赤星、話題を変える
赤星「ところで、最近の様子はどうですか?川瀬さん」
水元「そうですね、リラックスしながら描いているように見えますよ」
赤星「そうなんですね…やっぱり、まずは話を良く聞いてみるべきですよね?」
水元「私ならもう少し様子をみてみますが。どうなんでしょう。風間先生はなんて?」
風間、入室
風間「お疲れ様です」
各々挨拶を返す
温井「風間せんせ…」
風間「お弁当持ってます」
温井「しゅん」
赤星「風間先生。今、川瀬さんのこと話してたんです」
風間「そう」
赤星「…」
風間「あ、そうだ。水元先生」
水元「はい」
風間「この間の学校便り、今日中に修正お願いしたいんだけど」
水元「え?今日は早めに帰るつもりだったんですが」
風間「ボスの指示だから」
水元「ボスめー。ていうか、おかしな所ありました?」
風間「読点になっている部分を全部カンマに変えてほしいって」
水元「読点を、カンマに」
風間「そう」
水元「なんの意味があるんですかそれ!」
風間「知らないよ」
水元「全部ですよね…?」
風間「そう」
水元「部活終わったら中庭の草刈りもあるんですけどー」
風間「ボスの指示なのでよろしくね」
水元「教育現場の闇」
風間、自分のデスクにつく
温井「赤星せんせ…」
赤星「お弁当持ってます」
温井「そうじゃなくて」
赤星「すみません」
温井「俺が川瀬さんと話そうか?」
赤星「どうなんでしょう」
土井「どうなのかな」
畠山「駄目だろ」
風間「やめてほしい」
山岡「一番駄目ですね」
温井「しゅん」
水元「でも、意外とアリなのかも」
赤星「なぜですか?」
水元「生徒人気だけはありますから」
温井「ちょっとトゲを感じる」
水元「そんなことないです。温井先生の人間性は生徒たちには丁度いい軽さなんだと思います。私にはできません」
温井「なるほど、悪い気はしない」
畠山「疾患名、ポジティブ」
水元「生徒のため、誰かのために全力で動ける。それは温井先生がダントツです。感覚はバキバキにズレていますが」
風間「ズレた人間の全力は、それはもう暴走なんだよなぁ」
赤星「でも、確かに行事が絡んだときの温井先生は頼もしいですよね!」
土井「そうそう。何だかんだ助けられているよね。カリスマ性はあるのかも」
温井「そうでしょうとも」
赤星「でも、川瀬さんの件は絶対なしですよね」
温井「しゅん」
土井「彼女、小さい頃から鍵っ子だったよね」
赤星「確かそうです。彼女のご両親どちらも忙しいですから」
畠山「こーいうのは親がしっかりしないと駄目なんだよ」
土井「大人に心配かけないように、気を使って生きてきたのかもしれないなぁ」
時が止まる
わらし「そういう意味では君と似てるよね」
赤星「どういう意味」
わらし「そのままだよ」
赤星「分かったような口聞かないでね」
わらし「分かるさ。だって…」
赤星、わらしの口を塞ぐ
時が動く
赤星「(土井に)川瀬さんとは何を話したんですか?」
土井「そんな大したことは話してないけどね。…みんな期待してるから、安心して戻ってきなね…みたいなことは言ったけど」
水元「それ、アウトかもしれない」
土井「え?」
水元「彼女に期待をかけるのは…どうなんでしょうか」
土井「どういうこと?」
水元「誰かの期待に応えるっていう行為の主導権は、ある意味相手にあるような気がして…」
赤星「なるほど」
水元「今の川瀬さんには、もっと自由に生きていいんだよっていう…なんていうか、すみません。上手くまとめられなくて」
赤星「いや、私分かりますよ。確かにそうかもしれません」
水元「ありがとう」
温井「そうだね、俺も分かる」
水元「いいえ、多分温井先生は分かっていません。いい加減キモいですよ」
温井「こちらこそありがとう」
赤星「本当だ、分かってない」
畠山「すぐに親を呼ぶべきだね。風間先生その辺どうなってるの?君のクラスの生徒でしょう」
風間「もちろん面談の機会をいただけないか、こちらからアプローチはしてますよ」
赤星「仕事の関係でなかなかお時間いただけないんですよ」
畠山「だったら電話でもいいでしょ。話さないと」
土井「確かに、そろそろ進路も決めていかないとですしね」
赤星「はい…最後に親御さんに連絡したの夏休み入ってすぐだったので、もう一度連絡してみます」
土井「今から川瀬さんの面談するんだし、その報告がてらお話できたら良いかもね」
赤星「はい、では早速今から電話した方が良いですかね?」
畠山「それがいいね」
赤星「風間先生、連絡していいですか?」
風間、何かを考えている
赤星「…あ、すみません。聞いてなかったですか?」
風間「聞いてるよ」
風間「…それって彼女のためになるのかな」
赤星「え?」
風間「水元先生が言っていたように、彼女はもっと自由にしてあげた方がいいと思うんだけど」
赤星「それはそうなんですけど」
風間「学校が親と連絡とってるって知ったら、彼女余計に窮屈になりそうで」
畠山「それ本気で言ってるの?風間先生らしくないね。新人教師じゃないんだからさ」
風間「…すみません」
土井「確かに最近ちょっと変な感じするよ?何か悩んでる?」
風間「悩んでませんよ」
土井「そう…」
風間「…」
長い間
風間、話し出そうとする
山岡「冷蔵庫にある期限切れのプリン誰のですかー?」
風間「……すみません」
赤星「え?」
風間「ありがとうございます。…確かにそうですよね…。保護者との信頼関係が大切なので、こまめな連絡が鉄則です。……ただ、事実確認で不十分な点があるかもしれないので、一度整理させてください。その後、彼女のご両親には私から連絡してみます」
土井「うん!そうだね。困ったことがあったら言って」
水元「私もまた彼女の様子見てみます」
風間「ありがとうございます。…畠山先生、生意気言ってすみませんでした」
畠山「かまわんよ。いつでも相談しなさい」
何となく、各自の作業に戻る。赤星は満足げな表情
時が止まる
わらし「嬉しそうじゃん」
赤星「なんかいいなぁ…って」
わらし「一応聞いてやろうか?」
赤星「どうしようかな」
わらし「良いから話せよ。どうせ話すつもりだろ?めんどくせー女」
赤星「みんな良い教師だよなーって、そう思っただけだよ」
わらし「そうかな」
赤星「そうだよ。クラス関係なく、一人の生徒にみんな真剣になってくれて…やっぱり人として素晴らしいよね。それがちょっと嬉しくて」
わらし「人として…ねぇ」
赤星「なに」
わらし「君が見ているのは、【人】ではなく【教師】なんだけど、それ分かってる?」
赤星「…分かってる」
わらし「分かってねー顔だよそりゃ」
赤星、水元に話しかけられているが気づいていない
赤星「だったら分かるように話してよ」
わらし「答えは自分で探しな」
赤星「なにそれ…」
赤星「そんなの分かってるけど…」
水元「赤星先生?」
時が動く
シーン⑤雪崩のように崩れていく
赤星「え?あ、はい、すみません。なんでしょう」
水元「お金貸してくーださい」
赤星「え!?」
水元「ちょっと、お金貸してほしいなって。500万ほど」
赤星「ああ、えっと…お昼代とかですか?」
水元「え!?」
赤星「え!?」
水元「500万ですよ」
赤星「ごひゃくまん…お昼代ですよね!」
水元「返済です」
赤星「へんさい…?」
水元「先週競艇にぶちこんだんですけど、見事に外しまして」
赤星「きょうていに…ぶちこんだ…」
水元「そう」
赤星「…お昼代ですよね!」
水元「あ、これ駄目だ」
水元、山岡の元に
水元「山岡さん、お金貸してくーださい」
山岡「なんですか急に!」
水元「いくらならいけますか?」
山岡「(土下座して)ちょっと待ってくだせぇー!」
水元「貯金いくらあります?」
山岡「ありません、ありませーん!」
水元「積立NISAやってます?」
山岡「やってます、やってますー!」
水元「お金貸してくれる人紹介できません?」
山岡「そんな人いませーん!」
水元「自宅に売れそうなもの眠ってません?」
山岡「ブ、ブックオフですか?」
水元「ふざけてます?」
山岡「うわー殺さないでくれーい!」
水元「私真剣なんです!」
畠山「うるせーーんだよーーー」
山岡「アイムソーリー、小泉ソーリー」
畠山「何があったんだよ」
山岡「水元先生がブックオフの店員なんです」
温井「え、そうだったの??」
赤星「山岡さん、落ち着いてください」
山岡「はい」
赤星「(水元に)お昼代の話ですよね!」
温井「そうか、そろそろお昼か」
水元「この人たち面倒くさいなぁ」
畠山「全員黙りなさい」
土井「水元先生、何があったんですか?」
山岡、床に落ちている女性用の下着を見つける
山岡「パーンツ」
土井「え?」
山岡「おパンツです」
全員「は?」
山岡、パンツを拾い上げる
山岡「パンツが落ちてましたけど、誰のですかー?」
山岡の叫びの中、暗転
点灯。共用テーブルに6名の教師。山岡は掃除の続き。テーブルの上にはパンツ
赤星「これ、どうしましょう…」
温井「いや〜これは一体何なんでしょうね」
畠山「パンツだろ」
温井「分かってますけど、もう少し楽しみましょうよ」
畠山「いや、パンツだよ」
温井「まだそうと決まったわけじゃ…」
畠山「うるせーな、どうみてもレディのパンツだよ!レディのパーパパパ、パパパーパーパ、パパーパパ―パ、パパ―パーパ」
風間「モールス信号でパンツっていうのやめてください!!!」
土井「何盛り上がってるんですか。ここ職員室ですよ!!!」
赤星「畠山先生落ち着いてください!!!」
風間「キモいです!!!」
畠山「そこまで言う?」
温井「ここにいる誰かの物…というのは間違いないよね」
土井「昨日からあった、という線は?」
山岡「無さそうです。朝から職員室を掃除していますから」
土井「そうなんだ…」
風間「誰ですか?早く名乗り出てくださいよ。私やることあるんで」
赤星「そうですね…今川瀬さんが来たらと思うと、心中穏やかではいられません」
水元「犯人はなぜ名乗り出ないんですかね」
赤星「ちょっと…犯人って…」
土井「犯罪じゃないんだから」
風間「果たしてそうですか?」
土井・赤星「え?」
風間「先生方は落としたのが女性だと思っているんですか?」
赤星「え?」
土井「うそ。そーいうこと…?」
視線が畠山に集まる
温井「ワオ」
畠山「ちょっと待て」
山岡「(受話器を持って)118番かけますか?」
風間「まって、それは海上保安庁」
山岡「ワンチャンいけますかね?」
畠山「いけるわけねーだろ」
赤星「畠山先生」
畠山「待てって、俺が盗んだってのか?」
水元「誰も盗んだなんて言っていません」
赤星「それって…」
畠山「ちょっと待て、温井先生だって男だぞ」
温井「失敬な。僕は被ってませんよ」
風間「は?」
畠山「被るのはその先の話だろう」
赤星「ひっ」
水元「その先ってどの先ですか?」
畠山「どの先ってなんだよ、まずは普通に穿くに決まってんだろ。(両手で股間を指さし)パーンツだぞ」
風間「いや、全然安心出来ませんけど?」
畠山「いや、違うんだ」
山岡「自衛隊呼びますか?」
風間「やめて」
山岡「イエス、サー!」
土井「畠山先生、まさか生徒のものではありませんよね?」
水元「うわーあり得そう」
畠山「勝手に決めつけないでくれよ。だいたい生徒がこんなの穿くわけないだろう」
温井「そういうものですか」
畠山「当たり前だ。中学生なんだぞ、白に決まってる」
水元「畠山先生、それ男の幻想です」
畠山「え、そうなの?じゃあ、水元先生の…」
水元「警察呼んでください!」
山岡「104、イエス、サー!」
風間「それ番号案内」
赤星「警察の番号を聞くんじゃないですか?」
風間「回りくどいなぁ」
水元「そういえば、番号案内もうすぐ無くなるらしいです」
風間「え!そうなの?」
赤星「知らなかった」
土井「もう、話変わってるじゃん」
赤星、風間、水元、土井、温井、笑う
畠山「……分かったよ!……俺だよ」
赤星「え?」
水元「…なにがですか?」
畠山「何がって…だから、このパンツは…俺だよ」
土井「…冗談、ですよね?」
畠山「えっとー…え?」
赤星「悪ノリというか」
水元「ちょっと面白かったので」
土井「冗談のつもりで…」
風間「これは大問題ですよ!!」
山岡「私人逮捕系ユーチューバー呼びますか?」
風間「ごめん、ちょっと黙ってて。畠山先生、説明してもらって良いですか?」
畠山「いや、だから。俺だよ。俺のだよ」
風間「…私物だと、そう言いたいんですか?」
畠山「…」
風間「ちょっと苦しい言い訳ですね。申し訳ないですが場合によっては…」
赤星「すみません」
風間「なに」
赤星「いや、ちゃんと理由を聞いてみたいなって…」
畠山、考え込む
畠山「…どこから話せばいいのか」
風間「最初からでお願いします」
畠山「ちょっと長くなるかもしれないけど…」
赤星「はい」
全員が畠山の言葉を待つ
畠山「………俺が中学生の頃、黒川先生ってのがいてさ。国語の先生だったんだけど、いつも竹刀を持ってたんだよ。忘れ物をした生徒は前に出て、尻を竹刀ではたかれてさ。今じゃ考えられないだろ?とにかく厳しい先生だった」
水元「かなりヤバイですね」
畠山「当然嫌われていたよ。影でクソ川って呼ばれててさ。…でも、尻を叩くときの黒川先生の顔に違和感を感じていて。それで俺は嫌いになれなかった」
赤星「どんな顔をしてたんですか?」
畠山「わからん」
赤星「え?」
畠山「…教師としての信念と、人としての危うさが混ざったような。何とも言えない顔だよ。…それがカッコ良く感じてね。それがキッカケで教師を目指した」
温井「何か分かる気がしますね」
畠山「生徒に嫌われたって良い。厳しい教師でありたい。俺はそう思ってるし、きっと黒川先生も…」
温井「…」
畠山「でも俺は…もう疲れたんだよ。学校では厳しい先生、家では威厳のある父。そんな仮面をつけて」
土井「…」
畠山「一体俺はどこで休めばいいんだよ。そんな風に考えるようになってた。今思えば、黒川先生も同じだったのかもしれないな」
赤星「…」
畠山「ある時妻が入院してね。彼女の着替えを準備したんだ。今さら妻の下着を見たところで何も感じなかったけど、そのとき別の【何か】が沸き起こってね…」
土井「穿いてみたんですね?」
畠山「そう。気持ち悪いだろ?」
土井「そんなことないですよ」
畠山「安心したんだよ、女性ものの下着を穿いて。男という肩書きから解放されたような。それと同時に色んな仮面が外れて…その日は記憶を失うくらいグッスリ眠れた」
赤星「そうだったんですね」
畠山「それ以来、女性ものの下着を持ち歩くようになった。ストレスがたまったときはトイレの個室に入って、それを身に付けるんだよ。これが全てだ。…騒ぎを起こしてしまい大変申し訳ない」
赤星「話してくださり、ありがとうございます」
土井「別に誰かに迷惑をかけるものではありません。むしろ普段から生徒に対して全力でぶつかっているという証拠です」
畠山「そんなものじゃないよ」
土井「きっと、全力で戦ってきた反動なんです。私は畠山先生を尊敬します!」
赤星「私もです!先生、先ほどはすみませんでした」
畠山「かまわんよ」
温井「…で、穿いたあとは被るんですか?」
畠山「…」
各自、一斉に作業に戻る
職員室の電話が鳴る。水元、電話に出る
水元「はい、毛利中学校です。…はい…はい…はい…はい…はい…はい…はい…はい…はい…はい…はい」
水元、話を終え電話を切る
水元「土井先生、不倫してるんですか?」
一同「え?」
土井「どういうこと?」
水元「いやー保護者さんから連絡がありまして」
風間「なんて回答したの?」
水元「とりあえず事実確認をしますと!」
畠山「そんなこと言ってた?」
温井「あちらの要求は」
畠山「誘拐じゃないよ?」
水元「まぁ、単なるクレームじゃないかと思います」
赤星「土井先生が不倫だなんて…そんなまさか」
水元「こういうタイプが一番危ないっていうのは鉄板ですよね…でも私は信じてます!」
風間「土井先生どうなんですか?」
土井「不倫なんてしてないよ」
赤星「ですよね!良かったーー」
温井「じゃあさっきの電話は?」
赤星「勘違いですかね」
風間「にしても保護者に説明しなきゃいけないでしょ?勘違いだと思います…というわけにはいかないよね」
温井「でも、勘違いなら勘違いと言うしかないでしょう」
風間「それはそうなんですけど」
畠山「他には何か言ってなかったの?どこで見たとか、誰と…そうだよ、相手は誰なの」
水元「飲み屋街で、ホスト風の若い男と腕を組んで歩いていたそうです」
風間「…」
赤星「…」
温井「…」
畠山「…」
風間「…それはひょっとしてホストでは?」
間
土井「多分そうです…本当にすみません!」
赤星「うそーーーー」
水元「土井先生もホス狂いなんですか?」
土井「え?」
風間「ホス狂い?」
温井「ホストに狂っている姫ってことですよ」
風間「姫?」
温井「女の子のことです」
畠山「しちめんどくせーな」
水元「私の担当、NO.1なんですよ~土井先生はどこのお店ですか?」
土井「今は…レッドオーシャン」
水元「あ、私そのお店のYouTubeチャンネル登録してます」
土井「はぁ…」
風間「結構使ってるの?」
水元「はい。先月もバースデーイベントだったので、奮発してドンペリ・プラチナを三発入れてあげたんです」
山岡、エアマイク
山岡「いーよいしょ~。いーよいしょ~」
山岡「なーんとなんと~、3番テーブル、マサハル主任の素敵なお姫様より~超高級シャンパン、ドンペリ・プラチナをなんと〜一発、二発、三発いただきました~ありがとうございま~す」
温井「あーざーっす」
赤星「(温井に)NO.1ホストだ」
山岡のシャンパンコールが始まる
山岡「姫ちゃん、今日も、いい波乗ってんね~。今日も、お前は、いい波乗ってんね~。財布の、中身も、いい波乗ってんね~。みんな、今日も、いい波乗ってんね~ヨイショ~」
エアマイクを水元に渡す
水元「マサちん、お誕生日おめでとう。え~っと~。マサちんと出会ったのは~…何年前だっけ」
温井「3年じゃん?」
水元「そうそう、3年前の~なんとバースデーだったんです。こうやって~今年はNO.1としてお祝いできて~サイコーです、これからも宜しくねヨイショ」
温井「ヨイショ~」
赤星「よ、よいしょ~…」
風間「…で、それいくらしたの?」
水元「小計80万の三発なんで…まぁ300は越えてますね」
風間「えーーー嘘でしょ。でもそれだけハマるってことは相当楽しいんでしょうね」
水元「風間先生は絶対ハマるタイプですよ」
風間「そんなことないよ!…ちなみにセット料金っていくらい…」
赤星「あのーーーーーー」
赤星「そんな場合じゃないですよね!」
水元「すみません」
風間「ごめん」
温井「ホストだったら、別にいいんじゃないですか?あくまでプライベートだし」
畠山「そうなのかな」
水元「枕してなければ」
温井「あ」
風間「嘘でしょ」
畠山「土井先生、マジですか?」
土井「いや、してないから!」
水元「私は信じてました」
赤星「良かった」
水元「けど、その腕の包帯は気になります」
土井「…」
温井「ん?」
赤星「どういうこと」
温井、赤星を制する。長い間
土井「…すみません。皆さんもお分かりのように、私はしばしばホストクラブに通っています。恥ずかしながら指名しているホストもいまして」
水元「恥ずかしくなんてないです。自信を持ちましょう」
畠山「君が肩を持っても説得力がないんだよ」
温井「静かに」
土井、腕の包帯に触れる
土井「このアザは、そのホストにつけられたものです」
温井「…」
風間「何でそんなことを」
土井「…可愛そうで」
赤星「え?」
土井「暴力でしか表現できない子なんです」
水元「なんでそんな男指名したんですか?」
土井「そもそも誰も指名する気なんてなかったんです。初回で着く男の子達と話すだけで満足だったんで」
水元「そうなんですか」
土井「みんな指名が欲しいから、すごく頑張ってくれるんです。かわいいね、かわいいねって。10は離れてるおばさんなのに」
赤星「はい」
水元「否定するところだぞ、新人」
土井「ある時、今の担当ホストが初回に着いてくれたんですけど、それがもうめちゃくちゃな接客だったんです。べろべろに酔っぱらってて、人のことおばさんだの、貧乏人だの、散々わめき散らした後に泣き出して」
水元「うわぁ」
土井「…シャンパン、入れてあげました」
風間「は?」
赤星「今、そーいう流れでした?」
水元「全然」
土井「彼も不安なんです。私みたいな細客でも失うのが怖いみたいで。…だから、手が出るんでしょうね」
畠山「うむ」
土井「私のアザを見ると安心するようで」
畠山「わからん」
温井「分かりますよ」
水元「ほんとかな」
温井「うちの母も、父から暴力を受けていたので」
赤星「え?」
水元「そうなんですか」
温井「力で相手を支配したいんですよ。アザは一種のマーキングのようなものでしょう。それを見ることで【自分のものだ】となって安心する」
土井「はい。彼も同じようなことを言っていました」
温井「僕はね、本当に許せないんですよ。暴力ってやつが」
赤星「はい」
風間「…私も許せません」
温井「珍しく意見が合いましたね」
風間「当たり前ですよ」
温井「昔から正義感が強いのだけが取り柄なんです。僕そいつと…」
土井「いや、それは大丈夫です」
風間「…」
温井「暴力でしか表現できないだなんて、そんなの最低ですよ。人は言葉でコミュニケーションをとれる生き物なんですから」
風間「言葉だって暴力になり得ますよ。温井先生」
温井「え?」
風間「温井先生も岡先生の心にアザを作ったんです」
温井「岡ちゃん?…どういうこと?」
風間「知らない振りですか」
赤星「岡先生って」
水元「休職中の教師」
温井「説明してほしいな」
風間「イジメの加害者っていつもそう。まずは決まって知らんぷり」
温井「知らんぷりもなにも」
風間「お次はそんなつもりありませんでした」
温井「ちょっと」
風間「イジメられる方にも問題はなかったのか?となり」
温井「…」
風間「第三者の横槍が入って無理やり和解」
温井「何か勘違いしてない?」
水元「でも確かに、ちょっと行き過ぎかな~って思うことはありました」
温井「えー」
畠山「実際どうなんだ」
温井「仲良かったですよ。良く飲みに連れていきましたし」
畠山「あーーーーーー」
赤星「パワハラ要素入ってるかもな~」
温井「何でもかんでもパワハラにしないでよ」
水元「お前は本当にバカだな~って、毎日のように言ってましたよね。あれ結構傷ついてたと思います」
温井「でもちゃんとフォローしてたよ。教材研究だって手伝ったし」
風間「その教材にいたずらを仕込みましたよね?」
畠山「いたずら?」
風間「プリントの挿絵に使われていた写真を、こっそり岡先生のプライベート写真にしたんですよ」
土井「それは…」
温井「その方が授業が盛り上がると思ったんだよ」
土井「岡先生には事前にお伝えしてあったんですか?」
温井「…サプライズの方が良いと思ったので」
風間「それから岡先生、生徒からなんて呼ばれるようになったと思います?」
畠山「なに」
風間「ラルク&ぴえんですよ?」
水元「どんな写真だったのか気になるわ~」
赤星「若手お笑いコンビみたい」
風間「岡先生の奥さんのこともバカにしてましたよね」
温井「冗談だよそれも」
土井「どういうこと?」
風間「岡先生の奥さんがふくよかなこと、いつもいじってたじゃないですか」
温井「そんなこと言ってないよ。…まぁ、昭和のお母さんみたいだね、とは言った」
赤星「昭和のお母さん…」
一同、昭和のお母さんを想像
水元「あーーーーーーーーー」
土井「ふくよか要素入ってるかもな~」
赤星「はい、ふくよかでした」
温井「違うって。岡の奧さんだから、岡の奧さんのことを岡さんって呼ぶようになって、岡さんが、お母さん、になったんだよ」
畠山「しちめんどくせーな」
風間「昭和はどこから来たの?」
温井「それは…」
水元「ふくよかだからじゃん」
土井「ですね」
赤星「めくれました…」
温井「めくれてないから」
風間「岡先生の愛妻弁当のこと、ふくよか弁当って言ってたのも知ってますよ」
水元「うわっ」
土井「言ってるじゃん」
山岡「ででーん」
赤星「温井、あうと…」
温井「おーい、いい加減にしろよ」
風間「いい加減にするのは温井先生です」
畠山「二人ともいい加減にしなさい。今は土井先生の対応を考えるのが先でしょう」
間
赤星「そ、そうでしたね」
風間「すみません」
水元「そうですよ。…保護者への説明はどうしましょう」
土井「本当にすみません」
畠山「…この件が明るみになったら、ご主人は大丈夫なの?」
土井「それは大丈夫です。既に別居中なので」
畠山「そうだったんだ」
赤星「ホストが原因ですか?」
土井「その前からだよ。多分向こうは不倫してる」
赤星「そんな」
土井「…私、18のときに今の主人と付き合い始めたんです」
赤星「…」
土井「その時、主人はもう40で」
赤星「すごい」
畠山「ほんとですか??」
土井「はい」
畠山「どうやって知り合ったんですか?」
土井「塾の先生です」
畠山「どちらからアプローチしたんでしょう」
土井「恥ずかしながら、私から」
畠山「どういう所に惹かれたんですか?何か理由があるはずですよね?」
土井「えっと…」
畠山「(土井の隣に座って)何かコツってある?」
水元「参考にしようとしてますね」
畠山「いや、断じて」
畠山、席に戻る
赤星「ご主人にとっても幸せだったはずですよね…!そんな若い相手と結ばれて」
土井「でも、今はもうおばさんだから」
赤星「それはそうですけど!」
水元「否定しなさい」
土井「おかしいですよね。お互い同じだけ年をとっているはずなのに…」
赤星「…」
土井「女性として見られたかったんです」
赤星「…」
土井「たまにはちゃんとメイクしたいし、オシャレな美容院にだって行きたい。可愛いな〜と思って服を買うこともある。でも、鏡の前で一人でキレイになっても虚しくて。…私は誰かのためにキレイでいたい。ただ…可愛いねって、言ってほしい。それで私は幸せなんです」
赤星「そうですよ…教師である前に、妻である前に女性なんですから!」
土井「ありがとう。とりあえず私から教頭に報告します」
水元「私にもできることがあれば協力させてください。電話を受けたのは私ですから」
赤星「私もです。何ができるか分かりませんが」
風間「…」
畠山「そうだね、一緒に考えましょう」
温井「…」
シーン⑥スクランブル、川瀬
川瀬、入室
川瀬「失礼します」
赤星以外、作業に戻る
赤星「あーー川瀬さん。さっきはごめんね、待たせちゃって」
川瀬「いえ、大丈夫です」
赤星「トイレの個室に『ドリルは出ません』って貼り紙してて、ちょっと遅くなった」
川瀬「ドリル…?」
赤星「じゃあ、話そうか」
赤星と川瀬、応接スペースへ
畠山「副担任にやらせるの?」
風間「はい、ちょっとアプローチを変えてみようと思いまして」
畠山「新任に任せて大丈夫なのかね」
風間「大丈夫です。しっかりフォローしますので」
赤星「部活楽しい?」
川瀬「普通ですね」
赤星「絵を描いてるときの川瀬さん、リラックスしてるように見えるって聞いたからさ」
川瀬「水元先生からですか?」
赤星「うん」
川瀬「…」
赤星「あ、そうだ。水元先生って、前の学校の美術部でもコンクール金賞出してるんだって。3年連続!」
川瀬「すごいですね」
赤星「そう。すごいんだよーー」
川瀬「…」
赤星、変な汗が出る。テーブルにあった内輪であおぐ
赤星「職員室、涼しいでしょ」
川瀬、少し笑う
赤星「ん?」
川瀬「言葉と行動が合っていないので」
赤星「あ、本当だね」
川瀬「はい」
赤星「クラスに来るのはまだちょっとキツイ感じ?」
川瀬「急に核心ですね」
赤星「ああ…ごめんね」
川瀬「いいんですけど」
川瀬、風間に目をやる
川瀬「風間先生とは話せないんですか?」
赤星、風間に目をやる
赤星「会議中みたいだね」
川瀬「はい」
赤星「風間先生と話したいことがあるの?」
川瀬「あります」
赤星「お、なんだろう。気になるな」
川瀬「風間先生って…」
赤星「うん」
川瀬「私のこと何か言ってましたか?」
赤星「…えっと…うん」
赤星「そうだね、いつも気にかけてくれてるよ」
川瀬「ありがとうございます」
赤星「それは風間先生に言ってあげて」
川瀬「赤星先生に言ってるんです」
赤星「ん?」
川瀬「なんでもないです」
赤星「どういうこと?」
川瀬「赤星先生も優しいですよね」
赤星「そう…なのかな」
川瀬「はい」
赤星「それほど接点ないのに、そんな風に言ってくれるなんて…嬉しいな」
赤星「進路のことも、そろそろ考えないとだね」
川瀬「はい」
赤星「今のところどんな感じ?」
川瀬「高校には行こうと思ってます。川谷東とか」
赤星「おー」
川瀬「…先生の仕事って、楽しいですか?」
赤星「大変」
川瀬「ですよね」
赤星「でも楽しいよ。すっごく」
川瀬「そうなんですか?」
赤星「あれ、興味ある感じ?」
川瀬「ちょっと、いいかなって思ってて」
赤星「いいじゃん、いいじゃん」
川瀬「はい」
赤星「風間先生の影響?」
川瀬「…どうでしょう」
赤星「あら、仲良しだからそうなのかなって」
川瀬「今はそうでもないです」
赤星「…なんかあった?」
川瀬「…」
赤星「もしかして…」
赤星「それでクラスに入れなくなった?」
川瀬「…」
赤星「風間先生と話したい?」
川瀬「…はい」
赤星「ちょっと待ってね」
赤星、風間の元へ
赤星「風間先生」
風間「どうした?」
赤星「川瀬さんと何かあったんですか?」
風間「…なんで?」
赤星「風間先生との間に何かを抱えているみたいで」
風間「…」
赤星「川瀬さんが話したいって言ってます。お願いできますか?」
風間「いや、赤星先生に任せたことだからなぁ。私が出るのは簡単だけど」
赤星「…」
風間「あなたの経験のためでもあるんだよ。何かあればフォローするから、今回は自分で対応してみて欲しいかな」
赤星「私の…経験、ですか…」
風間「そうだよ」
赤星「何かちょっと違うなぁ…」
風間「ん?」
赤星「やっぱり変ですよ。最近の風間先生」
風間「どうしたの」
赤星「…」
赤星「彼女、学校の先生になりたいそうです」
風間「…そうなんだ」
赤星「絶対に風間先生の影響です」
風間「そんなことないよ」
赤星「先生が好きなんですよ」
風間「今それ関係ある?」
赤星「先生が救ったんですよね?2年の夏から不登校になった彼女を」
風間「…」
赤星「毎日のように自宅にプリントを届けて」
風間「そんなこともあったね」
赤星「…」
風間「どうした?」
赤星「なんでそんなに他人事なんですか」
風間「え?」
赤星「先生が学校に呼び戻したんですよね?」
風間「だからなに」
赤星「彼女にとって、クラスは戦場なんです。戦いなんです。銃弾が飛び交う教室に連れ戻して、そのまま放置ってまずくないですか?先生が盾になってあげないで、どうするんですか」
風間「別に暴力されているわけじゃないよ」
赤星「それ本気で言ってます?無視や仲間外れや陰口は、暴力じゃないってことですか?」
風間「あなたに言われなくても、ちゃんと考えてるから」
川瀬、おもむろに立ち上がる
それに水元が気づく
水元「2人とも、声が大きいです」
川瀬「風間先生」
風間「…うん。なに?」
川瀬「私、知ってますよ。先生が私と距離をとる理由」
風間「ちょっと待って」
川瀬「でも、そんなの関係ありません。私は風間先生のことが好きです。何も気にしてません」
温井「何があったの」
赤星、川瀬を落ち着かせるよう隣に座る
畠山「どういうこと?」
風間「どういうこと、というのは…」
畠山「良いから説明してください」
風間「川瀬さん、2人で話そうか」
赤星「風間先生」
風間「…なに」
赤星「逃げないでください」
風間「だから、2人で話すって」
畠山「この場で話すべきだね」
土井「風間先生」
赤星「川瀬さんの人生がかかってます。ようやく目標を見つけたんです。彼女を1人で戦わせるつもりですか?」
風間「…」
赤星「風間先生」
風間「…」
赤星「この子の担任は風間先生なんですよ!」
風間「ごめん」
赤星「…すみません」
風間、力なく話し始める
風間「…部屋が、散らかっているんです」
水元「え?」
風間「片付けられなくなったんです」
赤星「何の話ですか?」
土井「赤星先生」
赤星「…」
シーン⑦風間の告白、そして大団円へ
風間、長い沈黙のあとに口を開く
風間「私もいじめのようなものにあっていたんです。最初に着任した学校で」
畠山「教員いじめか」
温井「…」
水元「何だか意外ですね」
風間「着任して初日、会議の内容が1つも理解できなくて。不安で一杯になってしまったんです。だから、先輩の先生方に沢山質問したんですけど…自分も2年目だから分かりません、とか、忙しいからごめんね、とか…そんな感じで。始業式のとある準備を任されていたんですけど、全然分からなくて、でも誰も教えてくれなくて…自分なりに考えてやりました。…案の定、始業式前日の最終チェックで、私の担当箇所に漏れがあることが発覚して、色んな先生から叱責を受けました。その中には、私が質問をしても答えてくれなかった先生もいて…。やり場のない感情がこみ上げて泣いてしまったんです。あの時の、まわりの先生方の冷たい視線、今でも胸に突き刺さっています。かたや同期の先生方は、初日からお菓子を配ったり、やたら先輩を誉めたり、すごく上手くやっていて。…全員が敵に見えました」
畠山「新任教育の体制が整ってなかったんだな」
風間「素敵な教師になろうと心に誓った、大学1年の春。あの時の強い気持ちを糧に、無視をされても、嫌がらせをされても、必死で3年頑張りました。でもある時…」
風間「糸が切れてしまったんです」
土井「…」
風間「…部屋に引きこもるようになりました。…自炊もしなくなりました。…コンビニのお弁当ばかりになって。…ゴミを捨てる気にもなれませんでした。積みあがっていくゴミと私の心はリンクしていて、心も頭も一杯になりました。玄関だけはなるべく綺麗にしました。外に食べに出る気力もないことが多くて、良く出前をとったからです」
川瀬「…」
風間「この学校に赴任してしばらく経ったある時、私宛に荷物が届きました。それが何だったのかは覚えていませんが…」
川瀬「…」
風間「…間違えて、部屋の中が見える状態で玄関を開けてしまいました」
川瀬「先生」
風間「いいよ」
赤星「?」
風間「配達員は、川瀬さんのお父さんでした」
一同、言葉を失う
風間「川瀬さんのお宅には頻繁に行っていましたので、当然あちらも気づいて。お互いに動揺を隠しながら、地獄のような数分を過ごしました。…学校にクレームが来るかと思いましたし、川瀬さんからも何かあるだろうと思いました。でも…いつまで経っても何もないんです。…疑心暗鬼になりました。何もないことに恐怖を覚えました。…いつの間にか、川瀬さんを避けるようになりました。しばらくして、彼女は再び学校に来なくなりました」
赤星「…結局、自分の都合ですよ」
風間「そうなんだけど」
時が止まる
わらし「言い訳だな」
赤星「そうだね。逃げてる」
わらし「いや、そういうことではないかもよ」
赤星「なんで」
わらし「難しいな。結局は逃げてるんだけどさ。風間は【そうせざるを得ない】と思っているのかもってこと」
赤星「教師の顔…」
わらし「おう」
赤星「そんなの関係ないじゃん」
わらし「俺に言うなよ」
赤星「…」
わらし「だからある意味では戦っている」
赤星「…」
わらし「聞いてんの?」
赤星「…」
わらし「まぁいいけど」
時が動く
赤星「…ちょっといいですか」
風間「…」
赤星「風間先生のお部屋が散らかっていることに、何かダメなことでもあるんでしょうか」
風間「それはそうだけど。今はそういう問題じゃないでしょ?」
赤星「そう…そういう問題じゃないんです」
風間「え?」
赤星「こんな言葉を思い出したんです」
赤星「この世の誰もが天才である。しかし、魚には木登りの才能がないと評価していたら、魚はダメだと思い込むような一生を送ることになる」
畠山「アインシュタインの言葉か」
赤星「はい。この言葉で例えれば、私たち教師は魚なんです。でも、風間先生は木に登れないことで自信を失っているんです。学校の先生なんですから、生徒をしっかり教育できれば、それで十分だと私は思います」
わらし、頷きながらその場から離れる
水元「…確かに」
赤星「そういう意味で、風間先生はダメだと思います。木から落ちてしまったことを気にしている暇があったら、しっかりと川瀬さんのことを導いてあげてほしいです」
風間「…」
赤星「あーーすみません!…いろいろ言ってしまって」
風間「ううん、気にしないで。教師の資格なんてない…そう言い訳にしてたのは事実だから」
土井「風間先生は素敵な教師だよ」
水元「そうですよ」
畠山「部屋が散らかっているくらいなんだ。俺なんて女性用の下着を持ち歩いているんだから」
川瀬「え?」
赤星「(ごまかすように)あれー?猫の声がしたねーー」
温井「風間先生」
風間「はい」
温井「風間先生が岡のことであんなに怒る理由が分かったよ」
風間「それとこれとは別ですけど。でも、さっきは言い過ぎました。すみません」
温井「現に岡は休職したんだ。もう言い訳をするつもりはないよ。コミュニケーションの押し売りだったんだなって。今更反省してる」
土井「帰ってくることを、今は信じるしかありませんね」
温井「はい」
風間「温井先生は、岡先生のこと、本当に可愛かったんですよね」
温井「とってもね。不器用で人見知りだから、ベテラン先生と上手くいかなくて。当然評価も低かった。けど、岡は誰よりも勉強してる」
畠山「意外だな」
温井「だけど、本で勉強するだけじゃダメなんです」
水元「図書コーナー作ったのに?」
土井「実践が一番ですけど、職場の先輩や同僚に相談することも大事ですよね」
温井「そう。結局俺はその役にはなれなかったけどね」
風間「温井先生も岡先生と同じで、不器用ってことですね」
温井「間違いないね」
水元「人間なんて、みんな不器用です」
土井「そう、風間先生もね」
畠山「不器用で不格好」
風間「それは皆さんだって」
赤星「でも、ちゃんと持ってますよね。ここ(胸)に」
温井「もちろん」
畠山「当たり前だね」
土井「風間先生も持ってるでしょ?」
風間「私は…」
川瀬、立ち上がる
川瀬「私、やっぱり学校の先生になります!」
風間「え?」
川瀬「風間先生みたいな、強い先生になる!」
風間「いや、私は…」
川瀬「いじめにあって、風間先生も逃げたかったと思う。でも先生を続けた。そのお陰で私は救われたんです」
赤星「耳が痛いですね」
風間「うるさいな」
川瀬「私も逃げない。そうすることで、私も誰かを救いたいって思ったんです」
赤星「いいじゃん」
川瀬「私も、誰かを救えますかね…?」
山岡、感極まっている
山岡「救えます!」
川瀬「え?」
山岡「先生になりなさい、そして救いなさい」
川瀬「…はい」
山岡「私は先生にはなれなかったんです。諦めてしまったんです」
水元「それは初耳」
赤星「教育学部だったんですか?」
山岡「はい。でも、教育実習に行ったら怖くなってしまって」
水元「一応、免許はとったんですよね?」
山岡「取りませんでした」
温井「オーマイガ」
土井「でも、こうやって働いているんですから、やっぱり学校が好きなんですね」
山岡「何だか未練がましくて、時々嫌になりますけど」
赤星「山岡さんも良い先生になれたと思うけどな」
山岡「いいえ、私は逃げたんです。そんな覚悟のない人間には、誰も救えません」
風間「これも耳が痛いな~」
山岡「だから、川瀬さんとやら。あなたは逃げずに先生になりなさい。そうすれば、いつかきっと誰かを救える時が来るでしょう」
川瀬「はい、私は逃げません」
川瀬、風間の前に立ち、自分の胸を二つ叩く
川瀬「風間先生もですよ」
風間「言ってくれるじゃん」
川瀬「…」
風間「明日からちゃんと教室に来てね!先生との約束」
川瀬「はい!」
山岡「さぁ、そうとなれば少年」
畠山「女子だよ」
山岡「夕陽に向かって走りなさい」
水元「昼です」
川瀬「分かりました。川瀬、行きます!」
水元「夕陽無いのに?」
川瀬「失礼しました!」
水元「夕陽ないのにー?」
川瀬、職員室を出る
一瞬の静寂
土井「…何かどっと疲れた」
畠山「確かに」
温井「色々ありましたね」
畠山「ありすぎだよ」
温井「まだ何かあった気がするけど…」
水元「しかし、大変な仕事ですよね」
風間「割に合わないよ」
畠山「まぁな」
土井「そうなんだよね~」
全員、しばし想いにふける
赤星「でーもー?」
風間「好きなんだよなーーこの仕事が」
土井「私も。多分生まれ変わっても教師になる」
温井「俺もそうだな」
畠山「ほんとかよ」
温井「畠山先生も何だかんだ好きでしょ?この仕事」
畠山「うるせーよ…」
水元「皆さん、バカですよねー」
風間「こら」
水元「私もその一員ですけど」
赤星「皆さん、本当に素敵な先生方です!」
風間「なにそれ」
土井「ダメな所いっぱい見せちゃったけどね」
赤星「それで良いんです」
風間「変なの」
赤星「さて、二学期が始まるまであと5日ですよ~」
土井「そうじゃん」
風間「やば、教材研究間に合わないかも」
水元「まずは読点をカンマに直さないと…ボスめ!」
温井「職員室レディオの準備間に合うかな」
畠山「それより、体育祭の打ち合わせしないとまずいよ」
山岡「冷蔵庫のプリン処分します」
土井「まぁ、やるっきゃないでしょ」
風間「そうですね」
全員、立ち上がる
横一列に並ぶ
風間「さーて、ギア上げていきますよー」
各々、気合いをいれる
◆ダンスナンバー
赤星、風間、土井、水元、温井、畠山、山岡の7人
各々、新学期に向けて作業を進める
ダンス、ムーブメントで表現
その日の業務が進んでいく
暗転
シーン⑧バイバイ、わらし
点灯
夕方の職員室。赤星とわらしが座っている
赤星「ほーんと、色々あった1日だった」
わらし「大袈裟だな」
赤星「少しは労いなさい」
わらし「学校の仕事なんてこんなもんでしょ」
赤星「いちいちムカつく言い方」
わらし「さて。役目を終えたから、これで消えるわ」
赤星「は?」
わらし、立ち上がる
赤星「いや、ちょっと待ってよ」
わらし「何?」
赤星「消えるってなに」
わらし「役目が終わったんだって」
赤星「役目ってなに」
わらし「うるせーなー」
赤星「急に消えたら寂しいじゃん」
わらし「なんで。俺は君の心なんだから、消えるといっても君の中には残るよ」
赤星「それはそれでウザいかも」
わらし「おい」
赤星「嘘。やっぱり寂しいって。16の時から一緒なんだから」
わらし「そんなころからか。ずいぶん前から悩んでいたんだな」
赤星「そうだよ」
わらし「また道に迷って、自問自答するときが来るかもよ」
赤星「そしたらまた、出てきてくれる?」
わらし「それは君次第だけどね」
赤星「…」
わらし「でも今の感じを見てると、もう俺が出ることはないかなって思うよ」
赤星「…そうだといいな」
わらし「…」
赤星「今までありがとね」
わらし「おう。じゃあ、そういうことで」
わらし、職員室のドアを開ける
赤星「ちょっと待って」
わらし「なんだ?」
赤星「…いや。…ドアから出ていくんだ~って」
わらし「…は?」
赤星「いやその、勝手に…なんかこう、スーッと消えるのかな…みたいな。ファンタジーっぽく。フワフワ~って。でも、『あ、ドアから出てくんだ』って思ってしまって」
わらし「やり直す?」
赤星「いや、いいです。行ってください。すみません」
わらし「意味わかんね」
わらし、職員室をあとにする
赤星「行っちゃった」
赤星、胸に手を当てる
赤星「ここにいるのかな。おーい」
少し胸を叩いてみる
赤星「…風間先生に偉そうなこと言っちゃった」
鞄を持つ
赤星「…帰ろう」
立ち上がる
赤星「私こそ、木に登ろうとしていた魚先生なのに」
赤星、職員室を見渡す。ワクワクがこみ上がり、思わず笑う
★エンディングBGM、IN
駆け足で職員室のドアに向かう。ドアを開け、室内に向かって一礼
走り去る
そのままカーテンコール(ダンス)
終


