山ガール(女 10分)【一人芝居脚本】

一人芝居

〈あらすじ〉

登山を趣味としている女。彼女はとある山にいた。人生に絶望した女は、その山の頂上で死ぬと決めていたのだ。道中、様々な思いがこみ上げて涙する。ティッシュを出そうとするが、その時大好きなチョコレートが出てくるのだった。

〈登場人物〉

女 登山が趣味。死ぬために山に来ている。

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   登山の途中

   座って休憩している 

   女、初対面のおじさんと話す

そうなんですか

えーすごい ベテランですねー

私なんて全然ですー

一応10年くらい前から

いえ 簡単な山しかいかないので

てっぺんまでいくつもりですけど

そうですよねー

(荷物)少ないですよねー

荷物のちょうど良い量 いまだにつかめないんですよー

うん うん

あ そうなんですねー

登山あるある かもしれないですねー

はい

えっと はい

へー

すごーい

そうなんですねー

すごいですねー

はい

びっくりですー

へー

へーへーへーへーへーへー

初対面なのに馴れ馴れしく登山経験を自慢してくるおじさんにつかまる登山女子も 登山あるあるなんですかねーーー

答えてもらっていいですか

   おじさん、去っていく

   去り際に捨て台詞

うわ 捨て台詞

きも

山ガールですか

まぁ所詮 山ガールですけど

山ガールですけどなにか

   ため息

そうやって揶揄するの良くないよ

ガチの女性登山者に嫌われ

男性登山者からバカにされ

おじさんからは子供扱い

   漫談師のように、リズムよく

機能性よりファッション性

デジカメ片手にキャッキャウフフ

誰かの敷いたレールに乗り

流行りに乗ったよ山ガール

オフィスワーク 弱った足腰ムチ打って

週末に登る ちょ~どいい山

景色も良いし空気も良いけど

メインはやっぱりキャンプ飯

花より団子の山ガール

それが私

   遠くを見つめる

あーあ

こうやって邪魔が入る

静かに死にたいだけなのに

   山の向こうに叫ぶ

   ※やまびこも自分で言う

山のバカヤロー

(やまびこ)バカヤロー

さっきのおじさんバカヤロー

(やまびこ)バカヤロー

   鼻が気になる

   鼻をすする

   鏡を出す

   鏡に鼻の辺りをうつす

   鼻毛が出ている

鼻毛がこんにちはしてます

   鼻毛をしまう

あーあ

さっきのおじさんも「あ、鼻毛出てる」って思ってたのかな

   山の向こうに叫ぶ

さっきのおじさんバカヤロー

(やまびこ)バカヤロー

わたしブサイクすぎるだろー

(やまびこ)そんなことはないよー

でも鼻毛女だからー

(やまびこ)でてないよー

(やまびこ)むしろ出してるー

   力なく笑う

何も考えたくなくて山に来たのに

全部あのおじさんのせい

わたし なんで山を登るんだろう

人生は山登りに似ているっていうけど

上手いこと言いすぎだよ

お願いします

一人にさせてください

   小さく気合を入れる

行くか

   山を登り出す

山を登っているときは無心になれる

足元を見ながら 一歩 一歩

夏の山は暑くて 暑くて

とにかく暑いことに集中できる

蝉の声なんてそっちのけで

自分の足音に神経を研ぎ澄ます

一歩 一歩

我ながら力強い歩みだ

   立ち止まる

汗を拭うために立ち止まる

青い空が涼しい

目を閉じて鳥の声を聞く

キッ キッ

ピー ヒュルルルルル

詳しくはないけど

どうせ猛禽類のいずれかだろう

なんて考える

夏の山はすべてを忘れさせてくれた

   再び歩き始める

自分らしさって何だろう

幸せの形なんて一つでいいのに

   後ろからトレイルランナーの気配

   時々気にしながら歩く

高校出たら適当に就職して

良い人見つけて結婚して

専業主婦になって

旦那さんをたてて

おかえりあなた ご飯にする?それとも私?みたいな

子供は三人 庭で犬を飼って

多分ゴールデンレトリバー

子育てが落ち着いたらスーパーでパートでもやって へそくりを貯める

そのお金でご近所の奥さんと旅行に行くんだけど

家に帰ったら 洗濯物とか洗い物とかごちゃごちゃで…

   後ろのトレイルランナーに言葉を投げる

あの

無言で圧かけるのやめてもらえますか?

どうぞ先に行ってください

   トレイルランナーを先に行かせる

山を走って何が楽しいの

トレイルランっていつからあったっけ

山は歩いて登るんです

景色を楽しみながらゆっくりと

…自分のペースで

   しばらく無言で歩みを進める

死にたい理由に はっきりしたものはなくて

自分だけの世界なら良かったのに

ただそれだけ

いや それはそれで寂しいか

まぁいいや

てっぺんに着いたら終わり

それで生まれ変わる

その世界では

みんなが山ガールだし

みんなが当たり前に専業主婦を目指す

大学なんて行かなくていいし

就活も適当でいい

幸せなんて一つなんだから

それだけ考えればいい

   立ち止まる

   空を見る

ピー ヒュルルルルル

さようなら

くそったれ多様性の世界

さようなら

お父さん お母さん

さようなら

どこかのあなた

   鼻をすする

   ティシュを出そうとする

あれ

   チョコを見つける

アポロチョコ

そういえば入れたかも

食べかけのやつ

   チョコを眺める

さよならしようとしてるのに

なんで

   チョコをあける

大好きなアポロチョコ

   座る

そんなのおかしいじゃん

   チョコを食べる

…旨いんだな これが

   もう少し食べる

   景色を眺める

良い景色

またここで休憩しよ

   チョコをしまい、立ち上がる

それまでおあずけ

   終

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