〈あらすじ〉
不幸な恋愛ばかりしてきた女、35歳。鏡に向かいメイクをしている。茹で玉子がキッカケで始まった今回の恋も、結局は上手くいかないのだろう。女は、たくさんオシャレをして一体どこに行くのだろうか。
〈登場人物〉
女
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女の部屋
客席に話しかける
毎日のランチ
お楽しみはゆでたまご
ゆでたまごがあると お昼休みが潤うんです
お弁当にはあえて入れません
毎朝コンビニで1つ買っていく
それがちょっとしたこだわりポイント
だって お弁当箱に入れてしまったらただのお弁当じゃないですか
お弁当とは別に持っていくから特別になるんです
プラスワン ゆでたまご フォーミー ふふ
彼との出会いもゆでたまごがきっかけ
ディスティニー ゆでたまご アニバーサリー
冬はみそ汁も買っていきます カップのやつ
エブリデイ ワンダフル おみそしる
彼はコンビニの店員 私はお客 最初はそれだけの関係
でもいつからか 彼が私のことを覚えてくれたんです 特別感はんぱねぇ
なんで覚えてくれたんだろう
やっぱり運命なんでしょうか それかよほどタイプだったとか
だって それほど印象的な人間じゃないと思うんです
5年間 雨の日も風の日も 毎朝ゆでたまご1つを買い続けた それだけの女なんですから
3年目くらいでしょうか その日はたまたまゆでたまごが置いてなくて
…たまたまゆでたまご ふふ ごめんなさい
彼に聞いたんです「ゆでたまごないんですか?」って
そしたら なんて言ったと思います?
「すみません そこになければありません」ですって ふふ
あ~すみません なんかのろけちゃいました
4年目くらいでしょうか ある日風邪をひいて会社を休んだんです
でもおなかは減りますから 彼のいるコンビニに行きました
その日はゆでたまごはお休み おなかに優しいものと思ってうどんにしたんです
そしたら… ふふ
レジにうどんを持っていったときの彼の表情ったら 今でも忘れない
「ゆでたまごじゃないの?」って顔していて
それから
「こちら温めますか?」なんて聞いてくるから
「はい、温めてください」って言ってやったんですよ
その流れで 思い切って連絡先を交換しました
ぶっとび
その後はメールのやり取りを続けて
いつからか二人で遊ぶようになりました
遊ぶといっても 飲みにいったり カラオケにいったり
そんな感じ
すごく楽しくて 気が合って
私たちはすぐに結ばれました
運命の歯車が回りだすって こーいうことなんだろうな 多分
そんな風に思った
彼はフリーターでお金がないので デート代はすべて私が払っています
それでいいんです 彼7つも下ですし
むしろ私がそうしたかったので
でも ホテル代だけは割り勘です そこはさすがに女子としては
まぁ最近は私の家で会うことが増えていますね
先週の土曜日も 聞いてくださいよ
二人でソファに座ってテレビ見てたんですけどね
ふと、彼が私にこう言ったんですよ
「あのさ、お前彼氏とかいないわけ?」
間
ふむ
そうですか
は?
彼氏 いるけど え?
彼氏に「彼氏いないの?」って言われてるけど
じゃあお前なんなの?
てことは違うじゃん
彼氏じゃないじゃん
あれじゃん
サフレでも スフレでもなく ソフレでもなく
あれじゃん
あれじゃん
てなことがありまして
さすがに落ち込んでます
食事がのどを通りません
女、化粧台に座り自分の顔見る
少しやつれている
こりゃ 流石に何か食べないとまずいね
でも おなかが減っていないのに食べるのもさ
どうなの?
だって焼肉食べ放題に行くといつもやるじゃん
散々食べておなか一杯なのに 最後にタン塩なら入るかもって
もう満たされているのに 最後にシューアイスだけ入れておきたいって
「入れておく」ってなに
シューアイスなめんなよ あれ結構ずしっとくるからな
それにさ 無理やり入れたって多分栄養になんてならないの
だから満たされたらそれでごちそうさま
幸せなことじゃん
間
…あれ?
そういえば 私いま満たされてる?
ご飯食べられないってことは
満たされてるってこと?
驚いた 私ってば今 満たされちゃってる
なるほど
いっぱい食べるとすくすく育つっていうけど
私のお腹は不幸でいっぱい もう何も入らない
そっか 私はたくさん不幸を食べてこんなに大きく育ったんだね
間
つら 今のはさすがに辛くなった
最初の彼氏は「マサハル」
確か22歳の頃だった
見た目ぜんぜんタイプじゃなくて
でも初めて告白されたから心が揺れて
性格は良さそうだったし
もっと痩せて服装も気を付けたら たぶんイケメンになりそうで
お付き合いしてからは 彼のダイエットを応援した
毎日の食事の管理もしたし ジョギングとか縄跳びとか付き合って
それを1年間続けたら15キロも痩せてくれた
ショッピングもたくさん行って 服もたくさん買ってあげて
予想通りイケメンになっちゃって 嬉しかったなぁ
そして ようやく完成したマサハルを別の女に持っていかれるっていう私の鉄板トーク
ふふ 養殖じゃねーんだよ
エイプリルフールに冗談で「別れたい」って言ったら
「俺も考えてた」って言ってきたサトル
ベッドのなかで「私のどこが好き?」って聞いたら
30秒くらい考えて…………
「ごめん、無かった」って言ったタクヤ
ケンジにはExcelの使い方が下手で振られた
今ならできるよ セルの挿入ってやつ
オンラインゲームで知り合って
そのままゲーム内で付き合って
初めて会ってレストランに行って
席につくなりトイレにいったバーンナックル卍さん
そのまま帰ってこなかったけど その後お元気ですか?
…ふう
よっしゃーーーなんかテンション上がってきた
話すと楽になるってほんとなんだね 良い顔してるぞ私
かわいい すごくかわいいぞ
ひゅーひゅー
なんか楽しい わーい
間
スッキリしたらお腹へってきたな
なに食べよう
鏡の自分を見つめる
徐々に虚無感に苛まれる
やべ
空っぽだ
お腹が減ったら空っぽだ
心のお部屋が広くなって
ぽつんと1人
空っぽは怖い
高校三年生の頃 受験勉強しなきゃいけなくて
毎日1人で 教室に残って勉強してた
受験のためでもあったけど
何となく卒業するのが寂しくて
何となく残ってた
高校3年間 友達もあまりいなくて
あ~こんなはずじゃなかったのにな とか後悔もあったり
つまんない学校生活だったけど
その後悔のせいかな とにかく名残惜しかった
何となく窓に写る教室に目をやる
するとそれがやけに明るくて 闇に映えていて
寂しくなった
この教室 こんなに広かったかな
色々な想いが 私の空っぽの心に冷たく染みこんだ
私はそれ以来 空っぽが怖い
何かで埋めていたい
知らない番号からの電話がなる
女、電話にでる
はい
はい
いえ ちがいます
ちがいます
はい
はい?
東京ですけど 何故ですか
いえ 結構です
はい 結構です
そうですね 結構です
間に合ってます
すみません 切ります
ありがとうございます
電話を切る
間違い電話ナンパ…?
怖い時代
なんで「ありがとうございます」って言ったんだろ わたし
少し気が紛れる
あーあ 幸せでも心は満たされるのかな
幸せになったことないから分かんないや
間
さて
女、鏡に向かってメイクを始める
何も悩むことはない
だって サフレでもなくスフレでもなくセフレでもなく
いやセフレだ
そう セックスフレンド
セックスをする間柄
セックスをするお友達
お友達なんだから
マイナスな関係じゃない
要は「お友達からはじめませんか?」ってことだ
恋はいつだってお友達からはじまる
わたしハッピーエンドに向かってる
…いや
ハッピーエンドって考え良くないな
終わりがあるってことだから
終わっちゃったらハッピーでもなんでもない
このまま一緒にいたい
彼といると 彼でいっぱいにしてくれるんです
それで他のことなんて考えられなくなる
全て忘れられる
でも時間のことだけは考えちゃって
会った瞬間からカウントダウンを始めちゃうんです
あと3時間
あと1時間
あと30分
あと4分
あと3分
あと…1分
やっぱりあと5分だけ なんてわがまま言ってみたり
時間のことなんて気にせず 思いっきり楽しめたらいいのに
なんかもったいないなって いつも思うんです
間
空っぽは怖い
このままでいい
不幸になるために彼と会うんです
わたしは 不幸で満たされたいんです
幸せって 私にとっては難しいことだから
なんでもいい
お腹いっぱいだと安心するの
鏡の自分をじっと見る
ひどい顔をしている
ふふ
…ブスだな わたし
間
おもむろに電話をかける
…もしもし うん
そうなんだけど
ごめん 今日会えなくなった
うん バイバイ
いや 深い意味はないけど
いや あるか
たぶんもう会わない
とにかく今日は行かない
なんでって
…知ってた?ゆでたまごってさ そこまで腹持ち良くないよ
電話を切る
電話が鳴る
出ずに切る
お腹減った
メイクを続ける
鼻歌交じり
メイクが完成
よし バッチリ
わたし可愛い
思いっきりオシャレしてこう
よし 吉野家いくぞ
終



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